記事

携帯3大キャリアの協調的寡占は続く 腰砕けになったスマホ料金値下げの有識者会議 - 川手恭輔

総務省の裁量で割り当てられた電波を、大手携帯キャリアが既得権として独占している日本の携帯通信市場には自由競争が存在せず、市場原理が働いていない。

 今年9月の経済財政諮問会議における携帯電話料金に関する安倍首相の発言を受けて、利用者の負担を減らす方策を話し合うため、総務省主催で大学教授ら有識者による「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」が10月19日に発足した。大手携帯キャリアによる協調的寡占状態を解消するきっかけになるのか、その4回の会合(1回は非公開)を追ってみた。

表面的対処に留まったタスクフォース

 「急激な変化によってマーケットを撹乱させることなく、数年かけて徐々に事業者自らが段階的に適正化する取り組みを行うものと考えている」

 12月16日の最終回(5回目)の会合でタスクフォースの取りまとめの案が採択されたが、その最後の締めは、なんとも腰の引けた言葉だった。「急激な変化によってマーケットを撹乱させる」とは、どんなことを懸念した言葉だったのだろうか。

 第1回の会合では、有識者(構成員)から次のような発言があった。

 「アメリカは、いわゆる2強2弱と言われる、Verizon、AT&Tと、T-Mobile、Sprintがいて、T-Mobileが縛りのないことを売りにするシンプルなプランを打ち出して、果敢に市場をかき回したわけですよ。それが時流にぴったり合ったのでしょうね。アメリカの国民も、やはりそれまでのプランというものは複雑でわかりにくいと思っていたのでしょうね。いろいろな縛りもありました。 チャレンジャーがいると市場は動くのです。T-Mobileが果敢に新しい、シンプルを売り物にするプランを出したことが、大手も巻き込んでアメリカ全体のプランをシンプルにさせていっている、シンプル競争が進んだ、そういうふうに私は理解しています 」

 「せっかくこれまで頑張って自由化してきた料金を、この際直接規制で、というのはいかにもよろしくないといいますか、結局、すごく競争制限的な方向にしか物事は進まないように思いますので、今日伺った限りですと、やはり特にMVNOを中心とした競争促進ですね、MVNOの参入の障壁を取り除いてMVNOの参加を促進するような方向なのかなという、この1回目の時点ではそんなふうに感じました」

 タスクフォースの基本的な認識は、大手携帯キャリア3社が寡占状態の中で、似たような料金設定や販売方法をしていることが問題だということだった。その根源は、総務省電波局による裁量行政によって割り当てられている電波を、大手携帯キャリアが既得権として独占していることだということは明白だ。これらの発言は、その問題を解決しようとするものと思われた。しかしその後の議論や、携帯キャリアやMVNOからの非公開のヒアリングなどを経てまとめられたものは、表面的な問題の対処だけにとどまっていた。

大手キャリアに向けた総務省の要請とは

 高市総務相はタスクフォースを「実効性が重要、速やかに政府としての対応方針を策定する」と結び、12月18日には取組方針が総務省から公表され、総務大臣名で、大手携帯キャリア3社に対して講ずべき処置についての要請を行った。その取組方針はタスクフォースで採択された取りまとめを踏襲したものだ。

(1)スマートフォンの(通信)料金負担の軽減

(2)端末販売の適正化等

(3)MVNO のサービスの多様化を通じた料金競争の促進

 携帯キャリアへの要請は(1)と(2)に関係するもので、その取組状況を書面で報告することを求めている。

・ライトユーザや長期利用者向けの料金プランを導入すること

・通信の契約と一体化した端末の値引きや料金プランを理解しやすくすること

・MNP利用者への行きすぎた端末購入補助を適正化すること

 この要請が高市総務相が言う実効性を発揮し、安倍首相の発言に対する国民の期待に応える結果に結びつくかは疑問だ。「カルテルをして仲よくしましょうねと言っているわけではなくて、各自が独自に自分で判断すると、同じことをしたほうが得だということだ」というタスクフォースでの有識者の言葉のように、大手携帯キャリアがお茶を濁しただけという結果になってしまうのではないだろうか。

 会議では、端末や通信の料金はすでに自由化されており、行政が干渉すべきではないという意見もあった。ならば自由競争と市場原理によって端末や通信の価格が決まるように、MVNOの自由度を上げて競争力を向上させ、3社の協調的寡占状態を解消しなければならない。しかし総務省の取組方針と携帯キャリアへの要請は、逆の結果を招く危険性をはらんでいる。

価格以外独自の価値見えぬMVNO

 スマートフォン用の格安SIMを販売するMVNOは、携帯キャリアからデータ通信を帯域という単位で調達するが、SIMのエンドユーザには、例えば「月に3Gバイトまでの通信ができるプランが900円」というようにデータ量で提供する。データ通信の量が3Gバイトを超えると通信速度が制限される(遅くなる)が、頻繁に動画を見たりオンラインゲームなどをしないライトユーザにとっては問題にならないだろう。 しかし、MVNOがどのくらいの帯域を調達して、どれだけのSIMを販売しているかは明らかになっていないので、3Gバイトまでの高速なデータ通信が保障されている訳ではない。効率よく帯域を使って、価格と品質のバランスをとることがMVNOの格安SIMビジネスのポイントになる。そこに価格以外の独自の価値は見えない。

 MVNOが(例えば)NTTドコモに支払う、Xi(LTE)サービスの2014年度の接続料は、10Mbpsという帯域について月額945,059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに94,505円増加する。この料金は、総務省のガイドラインに従って毎年見直されており、2008年度は10Mbpsで月額1,267万円だったので、6年で92.5%の値下げが行われたことになる。

 しかし「2008年度に比べると2014年度の平均通信速度は41.3倍になっており、NTTドコモと同等の通信品質を維持するための実質接続料は3.1倍の値上げになってしまっている(日本通信)」という意見もある。「接続料については、改正電気通信事業法に基づき、その算定方法等を定める省令・ガイドラインの整備を着実に進め、引き続き、適正性・透明性の向上を図るべき」と言うに留めたタスクフォースの提言(方向性)も、総務省の取組方針には盛り込まれていない。

MVNOの存続危機

 一方で、音声通話の料金は、携帯キャリアからSIMごとの従量制で課金される。そのためMVNOは、携帯キャリアのような電話かけ放題や独自のプランを提供することができず、通話料金はほとんどのMVNOが30秒ごとに20円という料金設定で横並びになってしまっている。データ通信が安いMVNOの格安SIMに乗り換えても、通話の多いユーザにとってはトータルでは携帯キャリアより高くなってしまうこともある。

 取組方針(3)の「MVNOのサービスの多様化を通じた料金競争の促進」については、携帯電話番号、端末の所在地、顧客の契約状況などの情報を管理するデータベース(HLR/HSS)をMVNOが保有するための加入者管理連携機能について、来年3月に予定されている改正電気通信事業法の施行に向けて準備中のガイドラインの中で、「開放を促進すべき機能」に位置付け、事業者間協議の更なる促進を図るとしている。

 しかし、MVNOがHLR/HSSを保有することによって、どのような通信サービスを提供できるかは明確になっていない。携帯キャリアのような電話かけ放題や独自の音声通話サービスを提供するためには、さらに携帯キャリアの設備の開放やMVNOの設備投資、そして関連する法令の整備が必要になる。ガイドラインには、携帯キャリアの設備投資やイノベーションに係るインセンティブに配意するほか、その仕組は事業者間協議による合意形成を尊重するという前提もあり、その道筋はつけられていない。

 このような現状のまま、大手携帯キャリアがライトユーザや長期利用者向けの料金プランを導入すると、多くのMVNOは競争力を失ってしまい、格安SIMの市場から撤退する事業者も出るかもしれない。もちろん理解しやすく利用しやすい料金プランの導入自体は、消費者にとって悪いことではない。しかし、それが自由競争と市場原理によるものでなく、大手携帯キャリア3社の協調的寡占状態のままで、総務省の要請に従うための落とし所として決められたものであるならば、冒頭の「数年かけて徐々に事業者自らが段階的に適正化する取り組みを行うものと考えている」という甘い期待だけが頼りになってしまう。

(HLR/HSSの開放は、IoTのためのモバイル通信にとって非常に大きな意味がある。それについては発売中のWedge1月号のWEDGE REPORT「モバイル・ガラパゴスが日本のIoTを阻害する」で詳しく説明しているので、是非お読みいただければと思う。)

「実質0円」は容認

 タスクフォースは、スマートフォンを「実質0円」にするような高額な端末購入補助は著しく不公平であり、MVNO の参入を阻害するおそれがあると指摘したが、総務省の要請には「店頭において端末販売価格の値引きや月額通信料金割引等に関する利用者の理解を促すための措置を講ずること」としか記されていない。総務省は「MVNO の参入を阻害するおそれがある著しく不公平な実質0円」を容認したことになる。第5回のタスクフォースでは、「実質0円」の禁止を直ちに型落ち端末にまで適用すると、売れなくなって携帯キャリアに在庫がたまってしまうので配慮が必要だという意見も出た。

 最終的にはすべてについて「実質0円」を禁止すべきだが、時間をかけることによって携帯キャリアが調達から調整するようになるという。ここまで携帯キャリアに気を使わなければならない理由は何だろうか。

 製品の割引をすることは問題ではないだろう。型落ちした製品や売れ行きの悪い製品を値引きして売ることは普通のことだ。問題なのは値引きではなく、通信の長期契約と絡めて、あたかも端末を値引きするかのような誤解を与えかねない販売方法だ。

 端末の割賦代金が月々の補助金によって「実質0円」になるが、長期(2年)契約を途中で解約すると、割賦の残金を支払わなければならない。髭剃りのホルダーと替刃のように、最初に購入する製品の価格を安くして、その後の消耗品や有償サービスで利益を得るビジネスモデルの場合、消耗品の購入や有償サービスをやめた場合は製品が使えなくなるだけだが、「実質0円」の場合はペナルティ(残金)を払わなければならない。総務省は、それを利用者に周知徹底するよう要請しているだけで、その販売方法を止めさせるつもりはないらしい。

画像を見る
拡大画像表示


 このような総務省の過保護によって、いまだに日本の通信産業はガラパゴス状態が続いている。2015年の上半期のスマートフォンの市場を見ると、日本ではiPhoneが50%を占め、ソニーモバイル、シャープ、富士通などの日本メーカも35%程度のシェアを取っている(MM総研)。しかし世界市場でのiPhoneのシェアは16%で、5%以上のシェアを持つ日本メーカはいない(IDC)。

 日本メーカのスマートフォンは、日本というガラパゴスでしか生息していない。自由競争と市場原理が働かない日本の通信産業では、世界に通用するイノベーションは生まれない。

あわせて読みたい

「携帯電話」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    河野氏の停電対応 元医官が絶賛

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    真実知らされぬ韓国国民を心配

    小林よしのり

  3. 3

    食材追求した料理人に農家で皮肉

    幻冬舎plus

  4. 4

    韓国が戦略石油備蓄の放出検討へ

    ロイター

  5. 5

    政治家が被災地視察 迷惑の声も

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  6. 6

    韓国法相任命 正恩氏の指示と噂

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  7. 7

    iPhone8~11 今買うべきはどれか

    S-MAX

  8. 8

    世界大学ランキング 日本の課題

    ヒロ

  9. 9

    千葉の復興妨げる観光自粛を懸念

    かさこ

  10. 10

    佐野SAスト1か月 資金残りわずか

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。