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弁護士「営業」時代の懸念

 弁護士の口から自らの仕事に関して、「営業」という言葉が出ることもそれほど珍しいことではなくなりました。もっともその中身はさまざまで、肯定的な弁護士のなかにも、その姿勢には積極、消極の濃淡があります。しかし、「改革」の増員政策が弁護士に意識させることになった競争、一サービス業としての「自覚」、さらにいってしまえば、「背に腹はかえられない」といえるような生存への切迫感のなかで、やや大仰に言えば、この言葉は、この資格業全体に突き付けられた観があります(「弁護士が『営業』を意識する時代」)。

 一方で、弁護士の世界には、この言葉に対するはっきりした抵抗感が存在してきました。しかし、この「改革」の増員政策を肯定し、その先に法的サービスの向上というメリットがこの社会に生まれると描き込む論調のなかでは、その弁護士の抵抗感もまた、社会のために変えるべき保守的な発想。いわば、社会が本来得られるものが提供されなくなる、「改革」そのものへの抵抗感の一つとして、片付けられかねないものになったといえます。

 ただ、彼らの抵抗感は、本当にすべてそう片付けられるものなのか。前記「改革」のメリットが強調されるなかで、その抵抗感の意味もまた、果たしてフェアに伝えられたのか、という気持ちになるのです。

 弁護士の「営業」を語るうえで、弁護士がしばしば取り上げる規定が「弁護士の業務広告に関する規程」の中にあります。

 第5条(訪問等による広告の禁止)
 弁護士は面識のない者(現在及び過去の依頼者友人、親族並びにこれらに準じる者以外の者をいう。以下同じ)に対し、訪問又は電話による広告をしてはならない。
 第6条(特定の事件の勧誘広告)
 弁護士は、特定の事件の当事者及び利害関係者で面識のない者に対して、郵便又はその他これらの者を名宛人として直接到達する方法で、当該事件の依頼を勧誘する広告をしてはならない。ただし、公益上の必要があるとして所属弁護士会の承認を得た場合についてはこの限りでない。

 第5条は、いわゆる「飛び込み営業」の禁止規定とされています。見落とせないのは、両条文の趣旨を明確にしている「弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する指針」の解説です。

 第5条の行為を弁護士等の「品位および信用を害するもの」と位置づける、その理由として「指針」は次の2点を挙げます。

 「ア 当該広告の内容が弁護士等に関する一般的な情報の提供であったとしても、弁護士等が言葉巧みに勧誘すれば利用者が十分な考慮をする機会がないまま依頼することになるおそれがあること」
 「イ 面識のない弁護士等から直接訪問や電話を受けること自体が相手方に奇異な感情や不快感を生じさせることが多いと認められること」

 また、第6条の行為禁止の趣旨は以下のように述べています。

 「当該広告は、アンビュラス・チェイサーと呼ばれる者等、窮状に陥っている者に対しその窮状に乗じて事件をあさるという印象が強くもたれるものであり、当該当事者等に不快感を与えるおそれが高いばかりでなく、弁護士等の品位又は信用を損なうおそれが高いからである」

 かつてこの「指針」を初めて読んだとき、ある意味、正直な内容だと思いました。「飛び込み営業」で、それこそ法律専門家の弁舌にかかったならば、利用者はどうなるのか、そして、多くの市民ができればかかわりたくない、「不幸産業」ともいえる自分たちが、ずげずけと乗り込めば、利用者をどのような気持ちさせるのか、を率直に伝えているようにとれたからです。改正がなされてきたこの「指針」にあって、この表現はずっと維持されているところです。

 括り言葉になる「品位や信用」に目を奪われて、そこから入ると、何が私たちにとってマイナスなのかが伝わりにくい面がありますが、むしろ私たちの弁護士に対する付き合い方の「指針」にしなければならないことが書かれているともいえます。

 これまでは「営業」を意識する弁護士のなかにも、よく「プッシュ」ではなく、「プール」に徹すべきという捉え方する人がいました。積極的な勧誘ではなく、いろいろな情報提供の種をまくことで利用者に認知してもらい、いざ困った時に声がかかる状態をつくる営業が弁護士という仕事の性格に合っているというものです。

 しかし、あくまで営利を目的とした競争がそこで収まれば、の話です。現に、いわゆる士業向けの経営コンサルタントのなかには、前記した規定を知ったうえでか、知らないでか、堂々と弁護士に「飛び込み営業」を進める業者もいます(「最近の若手弁護士事情」)。また、弁護士のなかにも、競争状態のなかでは当たり前のセールスは認められるべきであるとか、積極的な提案の営業として認められるのではないかとする意見も聞かれます。弁護士「営業」時代に都合のいい解釈が、今後、堂々と登場してきてもおかしくはありません。

 もう一つ、このテーマで私たちが知っておくべき規定を挙げるとすれば、それは「弁護士職務基本規程」の第10条です。

 「弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法により、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない」

 前段の趣旨は、前記の規定と被りますが、ここで利用者が注目しなければならないことは、「事件の誘発」を戒めているところ。つまり、弁護士の手にかかれば、事件を作り上げることも可能であるということです。まさに増員論者の推奨する「掘り起こし」と、この規定が戒める「焚きつけ」の区別がつくのか、という問題につながります。

 メリットが回って来るはず競争の先に、あるいは「背に腹はかえられない」経済的困窮の先に、一サービス業として当たり前の活動のなかで、弁護士が私たちにどのようにかかわってくるのか、そして、その時、私たちは一番何を注意しておかねばならないのか――。これは「改革」推進論のなかからは、伝わってこない、私たち利用者にとっての現実問題のはずです。

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