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元銀行支店長が語る「下町ロケット」~佃航平の経営者としての資質~ - 大関暁夫

視聴率20%を超え、TVドラマとしては昨年最高視聴率を記録した「下町ロケット」が、大好評のうちに幕を閉じました。

原作はあの大ヒットドラマ「半沢直樹」と同じ池井戸潤氏。氏は私とほぼ同世代の元銀行員です。「半沢直樹」は銀行そのものを舞台としたドラマでしたが、今回の「下町ロケット」は中小製造業が舞台となっています。中小企業は銀行員にとってのまさしく現場。バンカー経験8年の元銀行員池井戸氏が描く現場物語を、同様の現場を経験した私も実に興味深く見させていただきました。そこでバンカー経験22年の元銀行支店長の立場から、私なりの「下町ロケット」検証を少しばかりさせていただきます。

最先端技術開発を行う下町工場という設定は現実味が薄い

物語の肝となるのは、主人公の佃航平がロケット打ち上げ失敗の責任をとって大組織をやめた日本有数の技術者でありつつ、父の後を継いで下町工場を継いだ二代目であるとした人物設定です。舞台となる昭和の香り漂う下町工場は、今の時代の中小企業でもごくごくありふれた風景です。しかしその舞台は同時に、主人公の人物設定ゆえ最先端技術研究開発の場でもあるという少々現実味が薄い感じも漂うのです。

町工場は大抵、大手の下請けとして存在し、世界に通用する技術力はあっても多額の費用がかかる独自開発にはなかなか手が出ません。現実にあるとするなら、本体とは切り離された別会社のベンチャー企業が、ベンチャー・キャピタルの支援に恵まれて全く別の事業体として展開する、ぐらいが精一杯だからです。

かと言って主人公をベンチャー企業社長としたのでは、物語そのものの面白みに欠けてしまいます。中小町工場を父から引き継ぎながらも、自らはリベンジ精神でロケット部品開発に夢を託す経営者というやや無理のある人物像こそが、視聴者の共感を得、物語の面白みを存分に増幅させるわけなのですから。

ロケット編で垣間見えた佃航平の経営者としての限界

筆者の巧みかつ苦肉の設定がそこにあると感じつつ同時にドラマを見進めるうちに、この無理無理な人物設定が銀行員的視点から見た経営者佃航平の経営者としての限界点をも作りだす結果となってもいることに気づかされます。特にただひたすら自己の夢の実現に向かった、番組前半のロケット編にその点は顕著に表れていました。

具体的な問題点は、まず佃社長自身が“無念の夢の続き”として追い続けるロケット搭載の水素エンジン開発そのものにあります。特許申請には至ったものの事業化の見通しは立たず。本業が下降線に陥り一部社内にも「社長の趣味はやめて欲しい」という不協和音が聞かれ、挙げ句に資金協力を要請したメインバンクの白水銀行からは、業績に結び付かない特許申請は完全無視の上、「資金協力はできない」との厳しい通告が発せられます。多くの視聴者は、必要以上に嫌味っぽく描かれたこの銀行の対応には強い嫌悪感を覚えたことでしょうが、対応はともかく実はこれはかなり的を射た経営指導であると言えるのです。

技術者としては優秀だが経営者としては“ポンコツ”

佃製作所の成り立ちを考えるなら父の代からの精密機械製造業こそが本業であり、その本業が低迷している時に、事業化のメドが立たない本体で取り組んでいる高コストの研究開発をストップしろというのはごくごく常識的な経営指導です。社長の夢であろうがなかろうが、銀行の融資審査の基本は、「貸したおカネがちゃんと返済されるか否か」が全てであり、その意味ではそのまんま東演じる白水銀行支店長の言い分は至極正論であると思われました(繰り返しますが、言い方は別にしてです)。

経営者に求められることは、夢を夢のままで語るのではなく、夢をより明確かつ具体的にいつまでに何を実現するのかを描き切るビジョン生成力なのです。佃社長は、夢は語れどもビジョンは提示できず、です。計画性のなさ、特に開発費がかさむ水素エンジン事業に関する具体的な展望がない限り、融資を応諾するのは難しいと言わざるを得ないでしょう。

融資を断られた後のロケット編の流れは、運よく自社の特許が大手の帝国重工から必要とされたから良かったものの、社長の本業が危機にありながら無計画な新規事業への取り組み姿勢は銀行的視点からはあまりに危ういです。仮に私が支店長でも、佃社長の強い正義感や人を大切にする人物像には一目置きながらも、あの時点での融資そのものは拝辞とせざるを得なかっただろうと思います。残念ながら佃航平は、銀行員から見れば技術者としては優秀だが経営者としてはポンコツだと言わざるを得ないのです。

メインバンク見直しは賢明ではない

そしてもうひとつ、裁判に勝ち巨額の賠償金を手にし佃製作所が息を吹き返したことで、社長自身が白水銀行に、メインバンクの見直しを告げるシーンがありましたが、これも経営者としては安易です。自身の計画性のなさを棚に上げて融資金を断られた腹いせ的に、出向者まで迎え入れているメインバンクを他の銀行に替えるというのは、決して賢明なやり方とは言えません。もちろん、ドラマ的には十分おもしろい展開ではありますが…。(ちなみに、白水銀行の名前から現実に思い浮かぶのは白水会すなわち住友グループであり、作者は「えげつない」と言われた旧住友銀行をイメージして描いているフシがあります)。

仮に気の合わない支店長や対応の悪い担当者がいたとしても、2年も我慢すれば銀行のスタッフは転勤で入れ替わるのです。賢明な経営者は、長年の取引実績を一時の感情でソデにして、新たに別の銀行をメインに替えるリスクの方が大きいと考えるべきでしょう。「メインバンクと喧嘩別れした」という噂は銀行間ですぐに広まり、新たなメインバンクからもむしろ警戒心をもって受け止められることになるでしょう。この点でも佃社長は、経営者として考えが浅いと言わざるを得ないのです。

「下町ロケット」の続編に期待したいこと

ただし、白水銀行がメガバンク(筆者や私の時代の言い方をするなら都市銀行)であるなら、話は若干違ってきます。声を大にしてお伝えしておきたいことは、メガバンクと地域金融機関すなわち地方銀行や信用金庫では、中小企業取引に対する全くスタンスが違うと言うことです。メガバンクはそもそもが大企業のための金融機関であり、何かあった時に主要顧客ではない中小企業が冷たく扱われるのはやむを得ない、という一面もあるのです。

中小企業は背伸びすることなく、地域金融機関をメインバンクにすべき。これは企業マネジメントの隠れたセオリーであり、取引銀行選択もまた経営者の重要な役割のひとつです。佃航平社長がもし仮に今回の一件を機として、長年くすぶっていたメインバンクの地銀への移行を果たしたのならば、それはむしろ正解であったと言えるでしょう。

ドラマ内で新たにメインバンクとなるのは、あの半沢直樹が勤務している東京中央銀行なので、そこまで考えられているとは思えません。ですので、もしそうなら、続編では、こうした事情を踏まえて、メガと地銀の違いという正しい認識を視聴者に与えるべく、後継メインバンクである地銀との共同戦線で「大企業+メガバンク連合」にひと泡吹かせる新「下町ロケット」の登場に期待したいところです。

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