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水没する三大都市圏 鬼怒川決壊は人災に非ず - Wedge編集部

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 江戸川の整備を行う国交省江戸川河川事務所の土屋秋男計画課長は「江戸川の上流となる群馬県利根川流域に今回と同じような豪雨が降れば、はん濫が起きる可能性がある」と語る。江戸川では13年5月から整備計画に基づき河川整備が行われているが、「整備には時間がかかるし、ハードだけで安全は確保できない」(土屋課長)。

 荒川ではまだ整備計画すら定まっておらず、「3日で472mmの雨が流域に降ると破堤する可能性がある」(国交省関東地方整備局の齊田勇志河川分析評価係長)。

 民主党政権が、事業仕分けで「スーパー堤防」を中止に追い込んだことが、今回の水害の一因だとする見方がある。首都圏で整備が進む「スーパー堤防」は、通常より高い堤防だと思われがちだが、実は“高さ”は変えず、“幅”を広げるものだ。街に致命的な被害をもたらす決壊を防ぐという意味の「高規格堤防」であり、越水による水害は起こる。

 幅を広げるためには、沿岸の広大な区画整理事業と同時に行う必要があり、その整備には「200年から300年」(中央大学理工学部都市環境学科の山田正教授)という膨大な時間がかかる。遠くない将来に大都市で起こると想定される「常総型水害」にスーパー堤防が間に合い、かつ功を奏するかはかなり不透明だ。

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(右上)常総市のハザードマップと実際の浸水区域 (左下)江戸川区のハザードマップと満潮時の写真

庄内川、淀川のはん濫リスク

 首都圏だけではない。三大都市圏は同じように水害のリスクを抱える。

 名古屋では00年の9月に東海豪雨で甚大な被害が出た。00年9月11日から12日にかけて、年間総雨量の3分の1に及ぶ567mmもの雨が庄内川、新川流域に降り注ぎ、新川が決壊。死者は7人、床上浸水2万1885棟、被害額は約6700億円にのぼった。

 名古屋を中心とした都市が広がる濃尾平野には、庄内川のほかにも、木曽三川や日光川などが流れこんでいる。東海豪雨のほか、過去には伊勢湾台風による高潮被害など、多大な水害を被ってきた。この約400平方kmに及ぶ地域には、約90万人が大きな水害リスクを抱えて生活している。

 淀川が流れる大阪も同様だ。約64平方kmのゼロメートル地帯が広がっており、淀川が決壊すれば約83平方kmが浸水、中心部である大阪・梅田駅周辺は4m以上浸水する。

 13年9月、淀川上流の桂川がはん濫し、京都の名所・渡月橋も濁流に飲まれた。下流にあたる淀川の水位もこれまでで最高の4.51mに到達し、はん濫危険水位まで1mに迫った。

 淀川の決壊を防ぐため、桂川は適度にはん濫することを前提にしている。河川整備のレベルをあげて、いま以上に水が流れるようになってしまえば「淀川が耐えられない」(京都大学防災研究所の中川一教授)。

 琵琶湖の役割も大きい。淀川に流れる水は「47%ほどが琵琶湖を経由して出てくる」(国交省淀川河川事務所の佐久間維美副所長)からだ。琵琶湖は460本もの河川の水を集め、その出口は瀬田川だけという“天然のダム”だ。桂川はん濫の際も、淀川の水位を下げるべく、国交省は41年ぶりに瀬田川と琵琶湖の間にある洗堰を全て閉めることで水をとどめた。同時に流域にある7つのダムでも貯水を行い、桂川の水位を数十cm低減させた。それでも淀川の水位は上がったが、幸運にも降雨はおさまった。

国が進める避難計画への疑問

 ハード整備を着々と進めつつも、水害が起こるまでに間に合うかは分からない。そこで国交省が推進しているのが「タイムライン(事前防災行動計画)」の策定だ。

 タイムライン防災とは、台風の上陸から3日前まで遡り、策定する行政自身や公共交通機関などの行動を事前に計画して整理しておくことをいう。

 国交省荒川下流河川事務所は全国に先駆けて、東京都足立区や北区などの関係自治体、東京メトロやJR東日本等の関係機関とともにタイムライン策定を進めた。

 15年5月に試行案を公表し、「9月の豪雨でも72時間前の体制整備に活用した」(荒川下流河川事務所の小池栄史副所長)そうだが、その先には「鉄道の運行停止」や「避難バス専用レーンの設置」など、かなり経済的、社会的影響の大きいメニューが並んでいる。

 前出の水害対策協議会のアドバイザーをつとめる群馬大学大学院の片田敏孝教授は避難のシミュレーションを示し「江東5区で犠牲者をゼロにするには、事前に住民の1割が自主避難する、半分以上が鉄道を利用して避難する、3階建て以上の人は避難しないなどの無理難題をいくつも達成しなければならないが、市町村にそんな強制力はない」と、行政主導のタイムライン防災で住民を救うことの難しさを指摘する。

 では打つ手はないのだろうか。

 「私がこの仕事に就いた三十数年前には、降雨量を把握するにも、広い流域内に数の限られた地点の雨量計しかなかった。当時はダム管理をしていたが、1時間毎に更新される雨量計の数字しか見られなかったので、今後の雨の降り方は想像するしかなかった。今はレーダー雨量計の数分毎に更新されるデータが公開配信されており、面的に移り変わる降雨情報が得られるので、これから雨が強くなるのか、雨が弱まるのかを、誰もが手軽に確認できる」(国交省庄内川河川事務所の瀬古眞一副所長)。

 幸いにも、現代には災害が起きるかどうか判断するための情報が溢れている。気象庁や国交省のサイトでは、リアルタイムで自らに関係する河川上流域の降雨や水位の状況を見ることができ、30年前の河川管理のプロたちを超える情報を手にすることができる。

 しかし、「1947年のカスリーン台風以来、大規模水害が起こっていないことで、行政依存ボケしてしまった」(前出の山田正教授)。情報があっても取りに行くマインドがない。

 逆に言えば、マインドさえあれば自分や家族の命は救えるはず。情報や指示が与えられるのを待つのではなく、自分が住んでいる地域の川は何川で、上流域はどこになるのかを知ることから始めよう。

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