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不正弁護士増加をめぐる現実と「覚悟」

 弁護士の「多様性」が、ある種の皮肉を込めていわれるのを最近、耳にします。報道を通して、やたらに目につくようになった印象がある不正を働く弁護士についていわれるものです。多様な弁護士が社会に登場するというのは、こういうことなのか、と。今回の「改革」に社会のなかの多様なニーズにこたえる弁護士の登場を、額面通り期待した市民がどのくらいいたのかは分かりませんが、少なくとも弁護士「多様性」に対する、社会の実感はより前記のようなもの、いわば「負の多様性」のイメージの方が、もはや上回っているのではないか、ということを疑いたくなる話です。

 こうした社会の実感をさらに後押ししてしまいそうな内容を、12月20日付け読売新聞朝刊が1面トップ記事で掲載しています。「弁護士の着服20億円超 3年で23人起訴 『後見人』悪用など」。この一面に踊る大見出しに、日曜の朝から暗澹たる気持ちにさせられた弁護士も少なくないようです。読売が2013年1月から約3年間に代理人や成年後見人として扱った金銭の着服で起訴された弁護士を調べた結果で、東京、大阪など13都道府県の弁護士会員23人が業務上横領や詐欺で起訴され、事件数は103件。23人のうち9人は成年後見人として、管理していた高齢者のカネに手をつけたケースで、被害総額約20億7800万円の使い途として、事務所経費、ギャンブルなどの遊興費、借金の返済などを列挙して伝えています。

 この背景として、この記事は、「改革」の激増政策に言及しています。
「司法制度改革により、今年の弁護士数は05年の約1.7倍の3万6415人急増。過当競争による収入減が不祥事増加につながっているとされ、懲戒処分も05年の62件から、昨年は最多の101件に増えた」
増えたらば増えた分だけ、問題弁護士は増える――。素直に読めば、この記事がストレートに伝えてしまうのは、そうした現実のはずです。もちろん、この「改革」を是とする立場からすれば、当然、これは想定内のことのはずです。いうまでもなく、これは競争による淘汰の過程ということになるからです。問題弁護士はあぶり出され、法的な処分を受け、舞台からどんどん降ろしていく。その過程で良質な弁護士が残る、という描き方になります。

 この捉え方からすれば、あるいは「負の多様化」は増員政策に伴う「正の多様化」のために避けられないものということになるかもしれません。ただ、問題はそれが、やがて問題弁護士の退場によってなくなるのか、それともえんえんとリスクとして受けとめなければならないのか――そのいずれにしても、この社会が覚悟として受けとめているといえるのか、ということです。やがてくるメリットへの期待が、その覚悟を支えているという現実もあるのでしょうか。

 少なくとも読売のこの記事は、「過当競争」という言葉も使っていますが、この現状に対して、増員政策をそれでも肯定的に伝えようとする無理は、とりあえずしていないように読めます。その一方で、日弁連が対策として被害者への給付制度を設けることを紹介しながら、その財源として弁護士会費を想定していることに会内からは、一部の弁護士への会費拠出の点で異論が出ることを予想しています。社会面の関連記事でも石田京子・早稲田大学准教授が、この件を弁護士会が放置すれば弁護士に任せられない、要は自治の問題に波及するという見方を示しています。

 ただ、読売の記者の意図は別にしても、ここから見えるのは、決して楽観視できる未来ではありません。弁護士の懲戒件数からは、会員数に占める問題弁護士の占める割合、いわば「含有率」はほぼ一定であるというデータもあります(「懲戒請求件数・処分数の隔たりと『含有率』いう問題」)。この記事も言及した「増えた分だけ増える」、つまりは「含有率」を下げることができない、あるいは困難であるという現実は、監督権を持つ弁護士会の関係者が一番分かっているはずのことなのです。それでも、弁護士自治を守るためには何もしないわけにはいかない。しかし、そのための会員コンセンサスは、増員政策が生み出している経済状況のなかで厳しく、それを押し通せば、ますます弁護士自治の屋台骨がぐらつきだす――。

 要するに、ここで見えてくるのは、「改革」の現実と弁護士自治堅持の板挟みのなかで、袋小路に追い込まれつつある弁護士会の姿の姿です。

 このまま弁護士増員が続き、競争のなかで弁護士の良質化が進み、その間、弁護士会の効果的な救済制度によって、社会の実害も回避できる。やがて淘汰の過程が終わればよし、終わらなければ、延々とこの支援は続くが、それも弁護士の需要回復によって、弁護士会は会費収入でそれを持ちこたえる。弁護士の効果的な開拓によって需要が回復すれば、この世界への志望者数も回復するが、そのころには、一定の競争下のなかでも、経済的な回復によって、実害を及ぼすような弁護士は、今のように生み出されない世界になっている――。

 こんな楽観的な展望を、私たち社会は本当に信じ、「改革」に付き合い続けるのか、ということが、今、問われているように思えてなりません。

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