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北朝鮮牡丹峰(モランボン)楽団突然の帰国 その理由と今後どうなるのか - 西村金一

政策提言委員・軍事アナリスト  西村金一

 北朝鮮の女性音楽グループ「モランボン楽団」が、中国・北京で12月12日から3日連続で予定されていた公演を、直前になって突然キャンセルし帰国した。

 モランボン楽団は、「文学と芸術分野で劇的な変化をもたらす」とした金第1書記の肝煎りで2012年に結成された女性十数人から成る音楽グループで、金正恩氏が直々にメンバーを選抜したとされる。北朝鮮国内では圧倒的な人気を誇り、今回が初の海外ツアーとなるはずだった。

 前例がないドタキャンは、中朝の雪解けムードに冷や水を浴びせた格好ではあるが、その裏に隠れている本当の理由はなにか、そしてその結果、2国間関係はどうなるのかを考察する。

1.楽団のドタキャン突然帰国の理由をどうみるか

(1)中国や韓国の報道によると、理由について以下の憶測がある。

①中国国営の新華社電は「実務レベルでの意思疎通の欠如が原因」と伝え、中国外務省洪磊報道官は、北朝鮮の女性音楽グループ「モランボン楽団」の北京公演が突然中止されたことについて、「現場レベルの話し合いに関連する原因で、予定通りには挙行されなかった」と説明した。

②韓国の聯合ニュースによると、北朝鮮は当初、習近平国家主席や李克強首相の中国指導部の公演観覧を要求したが、中国側はこれに応じず、共産党の政治局員1人が観覧することで折り合ったという。しかし、金第1書記は、楽団が北京に到着した10日、「北朝鮮は水素爆弾の巨大な爆音を轟かせる強大な核保有国になり得た」とする金第1書記の発言を報じた。水爆保有発言が伝えられると、中国は観覧者の格を次官級へ大幅に引き下げることを決定。報告を受けた金第1書記は怒りを一層募らせ、「鶴の一声」で講演をやめ、楽団を北京から撤収させたとしている。

金正恩第1書記の「水爆保有」発言が発端との見方については、「提供できる新たな情報はない」と肯定も否定も避けた。

③チャイナ・デーリー(中国メディア)は、モランボン楽団のレパートリーの中には北朝鮮によるミサイル発射や核開発を賛美する歌が含まれ、中国側が歌詞と演出方法の修正を求めたが北朝鮮側が拒否、キャンセルにつながったと分析している。

④中国海外反体制派サイト「中国ジャスミン革命」は、楽団のメンバー2人が失踪・逃亡し、事態を憂慮した金第1書記が公演中止と即時帰国を命じたと伝えた。

(2)表面的な報道に出て来ない理由は何か
 まず、今年の10月10日の朝鮮労働党創建70周年軍事パレードに、中国の序列5位、劉雲山氏が訪朝し、ひな壇で友好関係を振りまいた。それは、北朝鮮のミサイル発射、核実験の一時停止が条件だったとみられている。習近平氏も、国連総会で北朝鮮に対し、「核実験やミサイル発射をやらないよう」公開の席で警告していた。

 つまり、北朝鮮は、党創建70周年記念行事でも中国の意見を取り入れて、ミサイル実験を延期した。北朝鮮は来年5月に、約36年ぶりに朝鮮労働党の党大会を開く予定であり、その時までに国威の発揚と金正恩氏の指導力を内外に示すため、新型で大型の弾道ミサイルを発射実験、あるいは核実験を実施したいと考えている。そのための北朝鮮北西部の東倉里(トンチャンリ)発射実験場は、大型の弾道ミサイルを発射できるよう修理が完了している。

 このようなことから、北朝鮮は、党創建70周年では中国の意向を受け入れてミサイルの発射実験は延期したものの、来年の約36年ぶりの党大会までには、米国に届く大型の弾道ミサイル発射実験を実施することで、中国の了解を取り付けようとした。だが、結果的に中国の了承を取り付けることはできなかった。交渉は決裂したと私は推測する。

 この交渉とモランボン楽団との講演がほぼ同じ時期でもあったが、中朝の交渉決裂により金正恩の水爆保有発言が飛び出し、その影響を受けて講演が直前にキャンセルされたと考えたほうが妥当性はある。中国首脳部が楽団の演奏会を観覧しないこと、楽団員から亡命者が出たこと、楽団の曲目が核開発を賛美すること、現場レベルの話し合いが原因だったなどと報道されていることは、恐らくミサイルや核実験実行の了承を取り付ける交渉決裂のカモフラージュに過ぎない。

2.その後、中朝関係はどうなるか

 モランボン楽団公演の直前キャンセルは、あくまで表向きであり、その奥底にある理由は、核実験と新型弾道ミサイル実験を中国に認めさせる交渉が決裂したことである可能性が高い。そのことから、2国間関係は今後かなり厳しくなり、冷却化することは目に見えている。さらに北朝鮮が、来年党大会の5月までに新型弾道ミサイルの発射実験を強行すれば、中国の面子を潰すことになるので2国間関係は更に厳しくなる。中国は、これまで支援していた石油や食料の援助をストップさせ、雪解けが始まるかと思われた2国間関係は、極端に悪くなるものと予想される。

 北朝鮮は、新型弾道ミサイルの実験を強行して金正恩の指導力を高めるか、中国との関係を重視して実験をやめ実質的な国家の安定を求めるのがよいのか、どちらを選択すべきか非常に悩んでいるのであろう。

 モランボン楽団の直前キャンセルは、2国関係を見た場合、海面上のさざ波程度のものだ。

西村 金一(にしむら きんいち)

1952年、佐賀県生まれ。陸上自衛隊少年工科学校生徒入隊、法政大学文学部地理学科卒業、自衛隊幹部候補生学校修了、幹部学校指揮幕僚課程(33期CGS)修了。

防衛省情報分析官、防衛研究所研究員を経て、第12師団第2部長、少年工科学校総務部長、幹部学校戦略教官等として勤務。定年退官後、三菱総合研究所国際政策研究グループ専門研究員、ディフェンス・リサーチ・センター研究委員、現在は軍事・情報戦略研究所所長。

著書『北朝鮮の実態』―金正恩体制下の軍事戦略と国家のゆくえ―(原書房)、共著『自衛隊は尖閣諸島をどう戦うか』(祥伝社)など多数。

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