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「2つのインフレ」 賃金インフレとコモディティ・インフレについて

普通、賃金インフレは、インフレの最終局面で訪れる……そういう風に大学の経済学の講義では教わります。

ところが現在のアメリカを見ると、賃金インフレはすでに到来しているけれど、ガソリンをはじめコモディティの値段は下がっています。

つまりインフレを論じる際、「2つのインフレ」に分けて考えないといけないということです。

FRBにとって、より警戒すべきは、賃金インフレです。

昔、僕が駆け出しの証券マンだった頃、元NY連銀総裁、トニー・ソロモン(当時僕が勤めていた投資銀行の副会長でした)の、月例お食事会の世話役をやらされたことがありました。

これは毎月、米国の機関投資家のバイサイドのエコノミストに声をかけて、トニーを囲んで無礼講みたいなカタチで放談するという企画で、FOMCのディシジョン・メーキングの過程や、メンバー個々人のキャラなどについて、言いたい放題言うという、とっても勉強になるお食事会でした。

そこでトニーが言っていたことのひとつに「FRBは賃金インフレを厳粛に受け止める」ということがあります。

FRBが賃金インフレに細心の注意を払う理由は、賃金が上がりはじめると、それは経済の隅々にまで波及しやすいし、賃金インフレには、硬直性があるからです。言い換えれば、ひとたび賃金が上がりはじめると、ずんずんずん……と、とどまるところを知らないということです。

米国の経済の7割は消費です。このところ小売業やレストランの会社の決算カンファレンス・コールを聞くと、各社とも、賃金インフレについて大きな時間を割いて説明しています。つまり賃金インフレは「仮想敵」などじゃなく、「眼前の、いますぐ対処すべき危機」なのです。

12月16日にFRBが利上げを発表した背景には、そのような事情があるのです。

なぜ賃金インフレの方が、コモディティ・インフレより先に到来してしまっているのか?

それはコモディティは中国経済の減速の影響とシェール・ブームの影響を受けているからです。

だけどFRB、もっと言えばジャネット・イエレンにとって、コモディティ価格の下落より、経済のたるみ(slack)が無くなっていることからくる賃金インフレの方がはるかに重要な問題です。(=これは彼女がマサチューセッツ大学アーマースト校でのスピーチで熱弁していました)

さて、過去に米国が緩和から利上げに転じた際は、ドル安になりました。また原油は上昇しました。さらにゴールドも上昇しました。

これは少し頭を使えばすぐにわかることです。

利上げをする本来の、そして唯一の狙いは「好景気を、なるべく長持ちさせる」という点にあります。じゃぶじゃぶの状態を長く続けるとインフレになるリスクが増すわけです。

逆の言い方をすれば、利上げを断行したということは、景気が後退するリスクより、インフレが手に負えなくなるリスクの方が、もっと心配だとFRBが判断したことに他ならないのです。

実際、FRBメンバーの予想では、2016年の米国のGDP成長率は今年より加速すると見ています。失業率の予想も、一段と下がっています。

さらにインフレ率は2015年にくらべて上昇すると予想されています。

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一般論として、インフレ気味の国の通貨は、弱含むことが知られています。すると2016年の米ドルは、セオリー通りであれば、ドル安でないとおかしいのです。

よく「利上げすれば、当然、その国の通貨は強くなる」と信じて疑わない人が居るけれど、それじゃあ訊きますが、なぜブラジル・レアルやロシア・ルーブルは「通貨防衛」の目的で利上げしても、強くならないんですかね?

ドル安になれば、新興国経済は、ホッと一息つくことが出来ます。

アメリカの投資家はドル高局面では海外投資、とりわけ新興国投資に消極的になります。その影響で2015年は新興国株式は冴えませんでした。

もし2016年にドル安になるのであれば、久しぶりに米国のマネーが新興国へ向かうと思われます。

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