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南シナ海と人工島建設と国際法 - 髙井晉

一般社団法人日本戦略研究フォーラム常務理事・東京都市大学講師
髙井 晉

はじめに

2015年度版防衛白書(2015年7月)は、「海洋をめぐる動向」の項目の中で、中華人民共和国(以下、中国)が南沙諸島の岩礁で急速かつ大規模の埋め立て活動を強行するほか、滑走路や港湾を含むインフラ整備を推進しており、国際社会は、これらに対し懸念を示していると指摘した。また同白書は、中国の人工島建設を批判して、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みなど高圧的ともいえる対応を継続させ、自らの一方的な主張を実現しようとする姿勢を貫いていると分析した。これ対して中国外交部の陸慷報道官は、南シナ海の南沙諸島での埋め立ては完全に中国の主権の範囲内のことで、非難されることではないと反発していると報道された。

これに先立つ7月7日、米国のオバマ大統領とベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長は初めての首脳会談を行い、中国の海洋進出を懸念する共同声明を発表した。ベトナム戦争(1965~1975年)終結から40年、国交正常化後20年の節目に、「昨日の敵は今日の友」として南シナ海における海洋安全保障の協力関係を表明したのであった。会談後チョン書記長は、国際法に従わず、状況をさらに複雑化している最近の活動に対して懸念を共有したと述べた。

南シナ海における中国の海洋進出は、世界共通の関心事でもあり、地域の安全保障と国際法の観点から様々な問題を惹起している。中国が進めている南シナ海の南沙群島の7つの礁(reef)における急速な人工島建設は、西沙群島及び中沙群島に及ぶ広大な三沙市の建設と相俟って、中国による南シナ海とその上空をコントロールするための準備段階であると囁かれている。

南沙群島に対する中国の礁の埋立てによる人工島建設は、国際秩序違反であり即時中止すべきであると議論されているが、本小論は、中国が自国の海と主張する「中国の海(Chinese Waters)」および南沙群島で急速に進めている人工島について、国際法上どのように評価されるのかを検討している。

1 中国の海洋進出と南シナ海

(1)中国の国家目標と戦略
中国は、共産党一党独裁の国家であり、中国共産党の将来は、偉大な中華民族の復興と海洋強国の建設の成否にかかっていると言えよう。中国政府は、公共・文化外交を推進し海外の中国の合法的利益を確保するかたわら、軍事的には近海防御(接近阻止(A2)/領域拒否(AD))戦略を推進し、四戦(法律戦・世論戦・心理戦・地図戦)でこれの強化を図っている。

また、経済戦略として改革開放路線の堅持と深化を進めるとともに、収入の格差是正への取り組みとして2020年までに国内総生産(GDP)を10年比で2倍を達成するとしている。そしてこれらを支えるものとして、急速な経済成長を支える資源・エネルギーの安定的供給、(陸上・海洋)資源供給源と海洋通商路の安定的利用の確保が必要であり、「一帯一路」経済戦略構想(2013年)とシルクロード基金の設立、およびこれらと表裏一体をなすアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立(2015年)により、アジア・中東経済を中国のコントロールの下に一体化を図ろうとしている。

これら中国の国家戦略を推進するための外交・安全保障戦略として、国家主権、安全保障、発展利益のために外部圧力に屈しないこと、海洋資源開発能力を高め海洋権益を断固守ること、人民解放軍(PLA)の機械化情報化を建設すること、海洋、宇宙、サイバー空間の利用を重視すること、平時から海警力と軍事力を積極的に活用すること、海軍力を強化して太平洋の分割と潜水艦発射ミサイル(SLBM)基地を建設することなどが挙げられている。

南シナ海には、漁業資源の他に石油、天然ガス、希少金属等の豊富な資源の存在が見込まれ、これらはベトナムやフィリピンが主張する排他的経済水域(EEZ)の中に偏在していると言われている。また、南シナ海は、東西の海上輸送ルートの要衝であり、経済大国となった中国にとって、海外からの資源の海上輸送ルート確保は、経済発展を支える上で不可欠のものと考えて不思議はない。南シナ海問題の背景には、これら資源の独占と海上輸送ルートの安定的利用と確保を狙った中国の強い意図があると言えよう。

南シナ海の原油輸送路
出典:http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=10671



一帯一路の経済戦略構想
出典:http://insight.amcham-shanghai.org/wp-content/uploads/OBOR1.png



(2)南シナ海の9断線と管轄権の主張
南シナ海は、中華民国(以下、台湾)、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシアに囲まれた海域で、西沙群島(Paracel Island)、南沙群島(Spratly Island)、中沙群島、東沙群島(Pratas Islands)が点在している。これらの群島のうち南沙群島と西沙群島は、日本がフランスと領有権をめぐる外交交渉の最中の1939年に領有宣言を行い、島嶼名を付して台湾県高雄市の行政区画に編入し、リン鉱石等の開発が行なわれていた。しかし日本が第2次世界大戦に敗れた後、南シナ海は沿岸国間の紛争の場となった。

日本は、第2次世界大戦の講和条約である対日平和条約(1952年4月28日発効)の第2条(f)項で、それまで日本領だった新南群島(現在は南沙群島)と西沙群島に対する「すべての権利、権原及び請求権を放棄」した。台湾は、同条約発効前の1946年に南沙群島の太平島を軍事占領し、日本が領有権を放棄した南沙群島、西沙群島を含む南シナ海全域をカバーする11断線を引き、これに含まれる島嶼の領有権を主張し、フィリピンも同年に11断線内の中沙群島のスカボロー(黄岩)礁などの領有権を主張した。

中国は、1953年に台湾の11断線に重なるように、そしてベトナムとの境界協定合意の後、トンキン湾内の2断線を削除した9断線を引き、南シナ海と同断線内の全ての島嶼や礁の領有を宣言した。これ以降今日に至るまで、南シナ海の島嶼や礁は、台湾、中国、ベトナム、マレーシア、フィリピン諸国間で領有権の対立が続いている。これら諸国は、自国領と主張する島嶼や礁を起点にそれぞれEEZを主張している。

日本は、対日平和条約第2条(b)項で台湾および膨湖諸島に対する全ての権利・権原・領有権を放棄しているが、第2条(f)項で放棄した南沙群島と西沙群島は、台湾と別個に放棄しているので、台湾と法的地位が同じではない。したがって日本が南沙群島と西沙群島を放棄したことと、それが自動的に台湾の領域になったこととは別個の問題である。その後中国は、9点線で囲んだ南シナ海を「中国の海」と主張し、2010年には台湾、チベット、ウイグルと同レベルにある核心的利益と位置づけ、これを確保するためには武力の行使をも辞さないことを表明している。

南シナ海の9断線
出典:https://encrypted-tbn3.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcSF2aPHog7AYf1A9wHxsw6f4tufofSYx YaPlMk5166gVBAHX1r3BA



9断線と各国のEEZ主張の範囲
出展:http://c.share.photo.xuite.net/suin1023/1c0d5c6/5114615/1027914191_x.jpg



(3)ベトナムからの島嶼と礁の奪取
南シナ海の島嶼の領有主張が交錯する中で、中国が西沙群島のクレセント(永楽)島やウッディ(永興)島を武力で占拠する事件が発生した。西沙群島の西部にあるクレセント群島は、1953年以来、当時の南ベトナムが領有していたが、中国もまた同島の領有権を主張していた。インドシナ半島の統一問題がこじれ、北ベトナムに対し南ベトナムと米軍が戦闘を行なったベトナム戦争は、パリ和平協定(1973年)に基づいて終結し、米軍は1974年に南ベトナムから撤退した。南シナ海に中国が進出する契機となったのは、南シナ海からの米軍の撤退に伴うプレゼンス空白の顕在化がある。

中国は、1974年初めに改めて同群島の領有権を主張し、米軍のベトナム撤退の間隙をつい西沙群島でベトナムと衝突した。両国軍による武力行使の結果、中国はクレセント島やウッディ島を占領し「西沙群島の戦い」が終結した。ベトナムは、西沙諸島の領有権を主張して外交交渉を求めたが、中国はこれに応じなかった。その後中国は、ウッディ島の周囲を埋め立て、1988年には2,600m級の滑走路を建設し、南シナ海進出の戦略的拠点とした。

さらに中国は、南沙諸島の礁に進出した。南沙群島は、南シナ海のほぼ中央に位置し、同群島周辺には豊富な漁業資源のみならず、油田、天然ガスなどの海底資源の存在が有望視され、海上交通の要衝でもある。中国は、1988年にベトナムに対し「赤瓜礁の海戦」を仕掛け、ベトナムが領有していた南沙諸島、すなわちジョンソン南(赤瓜)礁、ファイアリー・クロス(永暑)礁、ガベン(南薫)礁、ヒューズ(東門)礁、クロアテロン(華陽)礁、スービ(渚碧)礁などの島嶼や礁を武力により占拠した。

中国による島嶼の奪取
出典:http://blog-imgs-73.fc2.com/t/o/r/toriton/i0528_0010.jpg



南沙群島の島嶼と岩と礁
出典:http://www.cchere.com/topic/4010632/16



(4)フィリピンからの礁の奪取
今日問題となっている人工島建設の問題は、中国がベトナムから奪った南シナ海の6の礁と、中国からフィリピンから奪ったミスチーフ(美済)礁における人工島建設である。

フィリピンは、マニラ条約(1946年)に基づいて米国から独立したが、米国に基地の使用権を認める米比軍事基地協定(1947年)を締結した。米国は、植民地時代に築いたスービック海軍基地とクラーク空軍基地を維持することにより、独立後のフィリピンの国防と国内治安に備えた。その後フィリピンは、米比相互防衛条約(1951年)を締結し、自国の安全保障を米国に依存することになった。

在比米軍基地は、ベトナム戦争時に兵站や艦船修理の基地として重要な役割を果たし、冷戦中にはソ連との勢力均衡政策を可能にした。また1970年代の在比米海空軍基地は、南シナ海をはじめ太平洋やインド洋へと作戦任務を拡大した米太平洋軍にとって、兵站支援基地を担っただけでなく、米国の世界戦略を遂行する上で重要な役割を果たしていた。

しかし、フィリピンのナショナリズム高揚期にあって、在比米軍基地が新植民地主義の関係を維持するものであり、フィリピンの主権を侵害し経済発展を妨げていると指弾され、米国は1992年に米軍基地を全面返還した。米国は、ソ連の脅威が消滅したこと、基地使用料が高騰したこと、フィリピンの安全保障観との相違などにより、基地存続の熱意は薄れていた。

米軍のプレゼンスは南シナ海の安定化に貢献していたが、1995年になると中国は、フィリピンが領有する低潮高地(low tide elevation, LTE)のミスチーフ礁に自国漁船保護の名目で進出し、同礁を奪取した。その後、2012年に中沙群島に位置するスカボロー(黄岩)礁で中国の政府公船と海軍とフィリピン海軍が睨み合い(stand off)、フィリピン海軍の隙を突いてこれを奪取した。かくして中国は、2012年に西沙群島、南沙群島、中沙群島を単一行政区の三沙市を設置してウッディ島に守備隊を配備し、南シナ海を自己のコントロール下に置くための戦略的拠点としたのであった。

スカボロー礁におけるスタンドオフ
出典:http://image.search.yahoo.co.jp/search?p=Scaboroug+Schoul+Stand+off&aq=-1&oq=&ei=UTF-8#mode %3Ddetail%26index%3D16%26st%3D456



西沙群島のウッディ島を中心とする三沙市
出典:http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-1911.html



2「中国の海」と核心的利益

(1)中国の海の法的地位
中国は、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島の島嶼が「中国の海」に位置しているため、これらは歴史的に中国の島嶼であったと主張する。「中国の海」は9断線で囲まれた南シナ海を意味し、中国は、2010年に南シナ海を核心的利益であると一方的に主張し、海洋資源の独占はもとより、礁を埋め立てる人工島建設を正当化している。

中国は、9断線内の南シナ海を歴史に根拠がある「中国の海」として領有権を主張しているが、国連海洋法条約(UNCLOS)の当事国であり、条約規定を無視することはできない。UNCLOSは、各締約国に対し12カイリ領海の外側に188カイリのEEZを設定する権利を認めている(第5部)。ベトナムやフィリピンその他の沿岸国は、南シナ海にEEZを主張しているが、中国はこれらの国と未だ境界画定交渉を行っていない。中間線または等距離線でEEZの境界を画定すれば、中国のEEZは中国本土の沿岸域に局限されることになる。

UNCLOSの締約国は、自国のEEZの海水部分、海底およびその地下の生物資源や非生物資源を含む経済資源に対する主権的権利が認められ(第56条)、人工島、施設および構築物に対する排他的管轄権を有している(第60条)。また締約国は、他国のEEZにおける船舶の航行や上空飛行の自由を認められている(第58条)が、沿岸国は、自国のEEZ内の生物資源の保存管理のための法令を制定でき、その遵守を確保するために他国船舶への乗船、検査、拿捕等の必要な措置をとることができる(第73条)。しかし中国は、未だ自国EEZと画定されていない海域について、領海または内水と同じような漁業規制を行っているのである。

中国は、米海軍海洋科学調査船インペッカブル(2009年3月)を始め、ベトナムやフィリピンの海洋科学調査船や漁船等に数々の嫌がらせを行ってきた。UNCLOSは、沿岸国に対して領海における海洋科学調査を規制または許可する排他的権利を認めており、他国は、沿岸国の同意がなければこれを実施できない(第245条)。また沿岸国は、自国のEEZにおける海洋科学調査に関して、規制または同意する権利を有しているが、通常、専ら平和的目的で人類の利益になる海洋科学調査は、これに同意を与えるものとされている。中国は、「中国の海」における海洋科学調査の一方的な規制を行っており、同水域をEEZに類推していると思われる。

USNSインペッカブルに対するハラスメント
出典:http://edition.cnn.com/2009/WORLD/asiapcf/03/10/us.navy.china/



ベトナム沖のオイルリグ攻防戦
出典:http://www.47news.jp/47topics/e/253285.php




(2)歴史的水域と海洋法
中国は、UNCLOSに規定する領海やEEZにおける沿岸国と他国に対する権利義務の規定を知らないはずがなく、南シナ海のほぼ全域にわたって排他的管轄権を行使し、その正当性の根拠を歴史的水域(historic water)に置いていると思われる。UNCLOSは、湾の規定を歴史的湾(historic bay)について適用しない(第10条)と規定するだけで、歴史的水域の規定を置いていないため、歴史的水域の内容や成立要件は国際慣習法に委ねられている。

歴史的水域や歴史的湾は、それ自体では内水や湾の条件を満たしていないにも拘らず、沿岸国の長期にわたる主権の行使によっては内水と見做されるものをいう。国際司法裁判所は、1951年の漁業事件(イギリス対ノルウェー)の判決において、歴史的水域は内水として扱われるが、歴史的権原(historic title)がなければ内水としての法的性格をもつことはなかった水域であるとした。

ちなみに内水は、沿岸国の領海基線の内側にある領域主権に服する水の部分で、沿岸国は、自国の内水における船舶通航や資源利用を一方的に規制できる水域である。沿岸国は、自国領海における外国船舶の無害通航権を認めなければならず、有害通航か無害通航かの判断は沿岸国に委ねられているとはいえ、沿岸国はそれを証明しなければならない。他方で内水は、沿岸国の主権行使として、外国漁船の操業はもとより、外国船舶の通航や海洋科学調査を自由に規制できる水域なのである。

国連法務事務局は、1962年3月、「歴史的湾を含む歴史的水域の法制度」の研究成果を発表し、歴史的水域が成立する3つの要件を挙げた。第1は権限行使の要件で、歴史的権利を主張する国は、実効的な権限の行使が必要で、水域に対する主権を主張する場合は、外国船舶の航行排除や漁業禁止を含む主権の公の行使でなければならない。第2は継続の要件で、歴史的水域として見做されるためには、主権行使の活動が相当の期間にわたって繰り返され、慣行にまで発達している必要がある。第3は黙認の要件で、権限行使に対する他国の黙認の存在あるいは抗議の欠如が必要になる。

従って「中国の海」は、後述するように、その海域中に領海やEEZを主張しているため、歴史的湾でも歴史的水域でもないことが理解されるであろう。

歴史的湾のピョートル大帝湾
出典:http://pacificinfo.ru/data/nowpap/res/pc/



歴史的水域の瀬戸内海
出典:https://www.env.go.jp/water/heisa/heisa_net/waters/setonaikai.html



(3)中国の領海法と排他的経済水域法
中国は、南シナ海沿岸国のEEZの主張が交錯しているのを尻目に、1992年に「領海及び接続水域法」を制定し、中国大陸並びにその沿海の島嶼、台湾および釣魚島を含む附属の各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島の全ての島嶼が自国の領土であると規定した。外国船舶は、これら島嶼の12カイリ領海で無害通航権を行使できるが、軍用船舶は事前許可を要求されている。 また中国は、1998年に「排他的経済水域及び大陸棚法」を制定し、これら島嶼の領海基線から200カイリをEEZと規定し、大陸棚については自然の延長論を採用している。興味深いことは、この法律がUNCLOSの原則を体現するものであるとしている点で、中国は、UNCLOSの規定を重要視しているかの如きポーズを取っているのである。

中国が主張する南シナ海の「全ての島嶼」の中に岩と低潮高地である礁を含めているのかは判然としない。国連海洋法条約に従うと、島は、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの(第121条1項)で、領海、EEZ、大陸棚を主張できる(同条2項)。しかし、「人間の居住又は独自の経済生活を維持」できないものは岩であり、EEZや大陸棚を有しない(同条3項)。換言すると、島と岩との違いは、人間の居住または経済活動の維持が可能かどうかであり、この点については議論がある。

高潮時には水没しているが低潮時には一部が海面上に現れる低潮高地の礁は、島でも岩でもないため、領海やEEZを主張できない。ちなみに英語では、礁の自然形態に応じてatoll(環状さんご礁)、reef(礁、岩礁、暗礁)、shoal(浅瀬、州)などの用語が使用されている。しかし中国の領海法は、前述したように、南シナ海に在る岩や低潮高地を領土である島嶼と規定し、その周辺海域12カイリを領海としている。したがって、南シナ海における礁が領海を主張するためには、礁等の低潮高地や岩を島と強弁せざるを得ず、人工島建設は既定の方針だったと言えよう。

南沙諸島の島嶼をめぐる領有権紛争は、さらに複雑である。南沙群島は、南シナ海のほぼ中央に位置し、同群島周辺には豊富な漁業資源のみならず、油や天然ガスなどの海底資源の存在が有望視され、海上交通の要衝でもある。南沙群島で最大の島嶼である太平島は、1946年以来台湾が領有しているが、その他の島嶼は大部分が岩や礁であり、中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア等がこれらの領有権を主張している。今日クローズアップされているのは、南沙群島の中国が占有する岩と礁における人工島建設の問題である。

岩のファイアリー・クロス礁に居住?
出典:http://bbs.wenxuecity.com/rdzn/ 3688326.html



低潮高地のヒューズ礁に居住?
出典:http://pic7.dwnews.net/20141021/3e35cebbb 0610cffd36011f3274b92a6_h.jpg



3 環礁の埋め立てと領域化

(1)急速な岩や礁の埋め立て
今日、世界が注目している人工島建設は、1988年にベトナムから奪取したジョンソン南礁、ファイアリー・クロス礁、ガベン礁、ヒューズ礁、クロアテロン礁、スービ礁、および1995年にフィリピンら奪取したミスチーフ(美済)礁の7つの岩や礁である。ちなみに、前述したウッディ島周辺の埋め立ては、同島をめぐるベトナムとの領有権問題こそ存在しているが、島の周辺を埋め立てる領土の拡張であり、国際法上、違法性の問題はない。

中国が2015年5月26日に発表した国防白書は、一部の域外の国が南シナ海問題に全力で介入し、海洋や空域で近距離の偵察行動を頻繁に行っていると非難している。白書発表の記者会見で、国防相の楊宇軍報道官は、南シナ海の人工島建設は、本土における住宅、道路、その他のインフラ開発と同じものであるとし、主権の観点から違いは全くないと説明したという。中国は、ベトナムやフィリピンから奪取した環礁に、両国との協議なしに強引に人工島建設を進めてきたのであった。

中国は、米国の出方を見極めつつ「中国の海」を実効的に支配する機会を狙い、素早く礁を埋め立て、港湾施設や滑走路の建設を開始した。米海軍の対潜哨戒機P-8Aポセイドンが撮影したファイアリー・クロス礁の人工島建設を公開したが、その際、中国海軍から軍事警戒区域に接近しつつあるので直ぐ立ち去るよう警告を受けた。中国の急激な人工島建設に危機感を抱いた米国は、5月にケリー国務長官を中国に派遣しこの問題について協議させたが、中国は強硬な態度でこれに応えたという。その後、6月11日に中央軍事委員会の范長龍副主席が米国防相を訪問した際、カーター国防長官が人工島建設を中止するよう釘を刺したが、効き目は不明確である。

ウッディ島の拡張(滑走路の一部と黄色の部分)
出典:http://www.wantchinatimes.com/news-subclass-cnt.aspx?Id=20141226000136&cid=1101



急速なミスチーフ礁の人工島建
出典:http://www.afpbb.com/articles/-/3045287



(2)海洋環境の保全と平和的目的
国連海洋法条約は、自国のEEZ内における人工島の設置および利用について、締約国の主権的権利を認めている(56条)。この場合、締約国は人工島建設とその周囲500m以内に設けた安全水域を他国に通報する必要があり、この安全水域は国際航行の妨げになってはならないと規定する(60条)。また締約国は、自国の大陸棚にも人工島を建設できるが、その条件は排他的経済水域の場合と同じである(80条)。公海における人工島の建設は、大陸棚の規定の適用が妨げられない限り、これが認められている(87条)が、かかる人工島は平和的な目的に利用されなければならない(88条)。

中国は、9断線内の水域を歴史的な「中国の海」とし、これを根拠に中国の島、岩そして礁を島嶼と規定し、これらを基点とする12カイリまでの領海を主張すると共に、かかる領海の基線から200カイリの経済水域を設置している。低潮の際に岩礁が海面上に現れる礁は、UNCLOS上、島としての地位は認められないことは前述したが、中国は、礁や岩を島と解釈して自国領域内における人工島建設を合法であるとしている。

   
人工島建設と海洋環境の破壊
出典:http://pic.xilu.com/20141121/1000030000006537.html



多数の浚渫船によるスービ礁の埋め立
出典:https://johnib.wordpress.com/tag/subi-reef/



(3)対抗措置としてのOPK
礁か島かの解釈の相違は重要だが、人工島建設の違法性は、UNCLOS第12部に規定する海洋環境の保護及び保全の観点から主張できる。UNCLOSは、締約国に対して海洋環境の保護及び保全の義務を有している(192条)。すなわち締約国は、全ての発生源から海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための措置をとらなければならない(194条)のである。

UNCLOSの締約国は、同条約の解釈又は適用に関する紛争が生じた場合、平和的手段で解決しなくてはならない(279条)。すなわち外交交渉、調停で解決できない場合は、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所、特別仲裁裁判所で解決を図ることになる(287条)。しかしながら、人工島建設の問題を平和的手段で解決するには多くの時間を必要とするし、その間に人工島と軍事基地建設が既成事実化されると思われるので、早急に効果的な措置を講じることが重要である。

中国は、2012年にフィリピンから奪取した中沙群島のスカボロー礁を埋め立て、三沙市の一部として大規模な滑走路と港湾施設を建設する計画と言われている。そして「中国の海」の管轄権を確保し、その上空に南シナ海防空識別区の設置を予定しているという。中国は、「中国の海」における航行の自由を認めると弁明しているが、中国領海法は、人工島の周囲12カイリの領海に入る外国軍艦に事前通告を要求しており、防空識別区が設置された暁には、上空を飛行する軍用機に対し対領空侵犯措置を講じるであろう。 このようなことを回避するためには、力を背景にして国際法の遵守を要求する他はないと思われる。国家責任条文に従うと、国際法違反の行為により損害を蒙る国は、違反国の義務履行を促すために対抗措置をとることが認められている(49条)。従って人工島建設に対する対抗措置として、人工島周辺12カイリの海域で多国籍の海軍が中国の事前許可を得ないまま共同して航行し、島でない人工島は領海を主張できないと示す方法がある。

人工島の問題ではないが、リビアがシドラ湾全域を領海と宣言した際、米国は、国際法上認められる領海は12カイリであるとして、1981年と1989年に空母機動部隊をシドラ湾内に進入させ、迎撃してきたリビア空軍戦闘機2機を艦載機で撃墜した事例がある。その後、リビアは領海宣言を撤回している。

このような武力を背景とする威嚇は賛否が分かれるところである。しかしながら、南沙群島の人工島建設により損害を蒙る恐れのある沿岸諸国の海軍は、多国籍のパトロール部隊を人工島周辺12カイリ内に展開し、島として認めない強い意思を行動で示すことが肝要である。1998年以来、海洋の安定化のための地域海軍の海上共同活動としてOPK(Ocean -Peace Keeping)が提唱されているが、かかるOPKの実践は、南沙群島における人工島建設と軍事基地化を阻止する上で唯一の有効な手段になると確信している。

ミスチーフ礁と戦闘機
出典:http://www.mamoretaiwan.blog100.fc2.com



計画中の南シナ海防衛識別区
出典:http://www.wantchinatimes.com/news-subclass-cnt.aspx?id=20141222000014&cid=1101



おわりに

中国が武力行使をもってしても確保する核心的利益と位置付けた「中国の海」は、これまで検討したように、国際法上の内水でも領海でもなく、ましてやEEZにも該当しない特殊な水域であると判断される。また、南沙群島における人工島建設それ自体は、平和目的に限定される限り国際法上の違法行為ではないが、UNCLOSに規定する海洋環境の保全義務の違反の可能性がある。中国は、人工島周辺に12カイリの領海を設定しているが、低潮高地の礁へ建設した人工島は、領海のみならずEEZや大陸棚を主張する根拠にはならないこと、そして人工島建設の領域化と軍事利用を阻止するために、関係各国の海軍が共同してパトロール(OPK)することが必要であることを提示した。

中国による急速な人口島建設は、「中国の海」の軍事拠点化のためであとの懸念がある中、中国が「巨大浮島(Mega Floating Island)」の建設を計画中であると報道されている。中国が将来構想として計画中の「巨大浮島」は、50~150万総トンあり時速10~15kmで移動できると予測されている。超大型タンカーの出光丸が20万総トンで、今日の世界最大級の50万総トンクラスのメガタンカー(全長460m、全幅70m、深さ30m)を考慮すると、「巨大浮島」の大きさが容易に想像できる。「巨大浮島」がどのような機能を有するか明確ではないが、海空域の管制能力を拡大する多正面への抑止システムを装備すれば、近い将来、南シナ海防空識別区が設定された暁には、有用な管制拠点となる。

移動可能な「巨大浮島」は、人工島ではなく船舶と見做され、他国領海内において無害通航権を行使できることになるため、南シナ海の沿岸諸国は、それが軍用でない限り沿岸への接近や領海への進入禁止や侵入を阻止することはできない。科学技術の発達により実現が可能となった人工島や「巨大浮島」の建設は、南シナ海における海洋環境、航行の自由と上空飛行の自由が脅かされる可能性があるにも拘らず、30年以上も前に作成されたUNCLOSには適切に対応する条項がなく、残念ながら多くの点で現状に合わなくなっているのである。

現存するメガタンカーのサイズ比較
出典:http://www.largestships.com/biggest-oil-tankers/



巨大浮島のイメージ
出典:http://ryotaroneko.ti-da.net/d2013-04-12.html

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