記事

エンブレム耳打ち事件

昨日、夕方頃、「五輪旧エンブレム選考で不正」みたいなネットニュースのヘッドラインを見たが、確認する時間がなかった。今朝見たら、「ああ」と思ってしみじみ面白かった。面白かったというのは、やっぱりというか、「典型感」があったからである。

日本の「著名なデザイナー」8名にあらかじめ応募を要請した他、エンブレムの選考で二次に進むために、票が足りなかった著名デザイナーの2作品について「耳打ち」することで、追加投票して進めるようにしたのだという。

「耳打ち」というのがとても面白いが、いずれにせよ、談合というか、出来試合というか、阿吽の呼吸というか、情けないが、いかにも典型的で、というのも、日本の社会を見ると、今回の「エンブレム耳打ち事件」のようなことは頻繁に起こっているように思う。

すぐに思い出すのが「公募展」で、しばらく前に、「入選」作品が事前の根回しで調整されているというのがスキャンダルになっていた。それは是正されたけれども、日本社会のあちらこちらに、似たような話があることはいわば「常識」だろう。

質に基づいて、ガチの勝負をする、ということを避け、年功序列の出来試合をすることで、社会の安定を保つ。これが長い間の日本社会の「知恵」だったのだろうけれども、今回の五輪エンブレムの騒動でわかるように、そろそろ持続不可能になってきたように思う。

そもそも、国立競技場にしても、エンブレムにしても、参加資格に「著名な賞を受けた」などの要件を入れる時点で、年功序列、談合、出来試合の誹りを免れない。それでいい、と関係者が思っていたことが、日本の「エスタブリッシュメント」の典型的なメンタリティだと思う。

それぞれの瞬間に、どれくらいの仕事ができるかというperformanceよりも、いわば保有資産からの「家賃収入」(rent)をどれくらい確保できるかということが重視される。rent > performance ということで、日本社会は回ってきた。

rent > performance は、社会を安定させるための一つの知恵であり、すでに「特権クラブ」に入った人にとっては自分たちの利益を温存する仕掛けだったが、今回のエンブレム騒動は、そのような日本社会の旧弊が変化する兆しかもしれない。

「エスタブリッシュメント」の間で利益を回していても、社会にイノベーションが起こらなければ、「パイ」がどんどん小さくなっていくだけだ。有名無名に関係なく、ガチの勝負をして初めて活性化する。その時に必要なのは、真の「批評性」であろう。

批評性のなさ、ということが日本社会の課題だろう。映画批評のrotten tomatoesは容赦なく、スターウオーズの新作は高い評価を受けているが http://www.rottentomatoes.com/m/star_wars_episode_vii_the_force_awakens/ … 酷評される可哀想な映画もある。容赦無い批評が、米映画の質を高めている。

日本では、エスタブリッシュメントは一度「クラブ」に入ると、厳しい批評にさらされることもなく、ぬくぬくと既得権益を回しあって生きているのだろう。しかし、クリエーターとしてそれが幸せかと言えば、作品の質の琢磨という点から見て、かなり疑問だと私は思う。厳しく生きてこそ、愉しい。

あわせて読みたい

「佐野研二郎」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    田中康夫氏 脱ダム批判受け反論

    田中康夫

  2. 2

    アマゾン火災 責任の一端は日本

    ビデオニュース・ドットコム

  3. 3

    文政権 総選挙で「死に体化」か

    文春オンライン

  4. 4

    ラグビーW杯「日本不利」予想か

    BLOGOS しらべる部

  5. 5

    ZOZO売却でライザップ再建を想起

    大関暁夫

  6. 6

    ユニクロ会長の日本人批判に反論

    自由人

  7. 7

    若者に広がる自己中心主義の復活

    ヒロ

  8. 8

    質問通告遅らす森議員は官僚の敵

    天木直人

  9. 9

    橋下氏 徴用工の個人請求権残る

    文春オンライン

  10. 10

    よしのり氏 安倍首相に期待残す

    小林よしのり

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。