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新政権成立も前途多難のミャンマー - 岡崎研究所

ミャンマーの歴史学者、タンミンウーが、11月10日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説で、総選挙後のミャンマーの課題について論じています。

出発点にすぎぬ総選挙の大勝

 すなわち、11月8日に行われた総選挙の結果、アウンサンスーチーの率いる国民民主連盟(NLD)が25%の軍人枠を含めても議会の過半数を獲得できることが確実なほどの大勝を収めた。

 しかし、総選挙は出発点に過ぎない。これからミャンマーの独特な憲法に基づく解りにくいプロセスが始まる。先ず、1月に新議会が招集され、3名の副大統領を決め、その中の一人を国会が大統領に選ぶこととなる。

 アウンサンスーチー自身は大統領にはなれないが、NLDが大勝を収めたので、このプロセスを管理できる。但し、全ての権力を握ることはできない。副大統領の一人と警察・地方行政を担当する強力な内務省を含む三つの省が軍部の管理下に留まることとなっているからである。

 このような憲法の規定は民主的とは言えないが、5年前の純然たる独裁制からの移行を図る上で、軍部の核心的利益を保護するために必要な仕組みであった。今日の微妙な瞬間は、民主主義に向けての決定的な第一歩となるかもしれない。あるいは、疑似的な軍政を更に強化するだけに終わるかもしれない。

 過去数年間に亘り改革を進めて来た閣僚の何名かは議席を失った。少数民族政党も選挙では振るわなかった。スーチー女史は、国民的和解にしばしば言及してきた。国際社会はそれを支持すべきである。

 本当に困難な課題が出て来るのは政権が成立してからである。先ず、20以上に達する少数民族武装集団との間の和平プロセスがある。更に、中国との国境地帯には、数百の武装グループや犯罪組織が存在し、採鉱、木材伐採、麻薬取引に関与している。

また、経済の問題がある。何百万人もの人がNLDに票を入れたのは、独裁的支配の拒否だけでなく、電気、水道、ヘルスケアなどもない現在の生活を改善したいとの期待からである。こうした期待は極めて高い。

 中国での商品価格の下落はミャンマーにとっては厳しい。土地改革、電力供給の拡大、崩壊した司法組織の再建等に取り組むことは、外資を呼び込むために不可欠となる。

 新たな施策だけでなく、現在の組織のオーバーホールも必要である。現政権内の改革派だけでは、惰性と既得権益に勝つことが出来ない。国際社会が組織改革を支援し、雇用創出に役立つ投資を奨励すべきである。

 経済発展だけで民主的移行を確保することはできない。しかし、国民の福祉が改善しないままで民主的な変化を強化できるとは考えにくい。

 長い間孤立し貧困であったアジアの中心にある国家が地域の成長のエンジンとなる日も遠からず来る。さらに重要なことは、ミャンマーが権威主義体制から平和的移行を遂げた世界のモデルとなり得ることである。ミャンマーの成功は国境を越えて拡がることになる、と論じています。

出典:Thant Myint-U,‘Myanmar’s election is a first step on a hard road’(Financial Times, November 10,2015)

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/dcda84fc-879e-11e5-90de-f44762bf9896.html#axzz3rDAyHRkt

*   *   *

軍部との協力が左右する新政権の成否

 筆者のタンミンウーは、ウタント元国連事務総長の孫で、‘Where China Meets India: Burma and the New Crossroads of Asia’などの著書があります。この論説は、ミャンマーの新政権が今後取り組むべき課題につき期待感も込めて解説した好論文と言えるでしょう。ミャンマーが前途に多くの困難な課題を抱えていることが良く解ります。

 NLDが新政権を樹立するまでに、軍部との間の協調関係を樹立できるか否かが同国の将来を決めることになりそうです。長期に亘り国政を担ってきた軍部の協力が無ければ、行政経験のないNLDがまともな政治を行えないことは明らかだからです。スーチー女史の政治的力量が問われることになります。スーチー女史は軍のトップと会談するなど、軍の協力を求める姿勢を見せており、これは楽観的材料です。他方、「私は大統領の上に立つ」といった発言は、混乱をもたらしかねない懸念材料と言えるでしょう。

 次に重要なことは経済発展でしょう。我が国を含む国際社会の支援が必要ですが、ミャンマー側としても、外資が進出しやすい環境を早急に整えることが必要です。11月27日にNLDの最高幹部の一人ニャンウィン中央執行委員長と岸田外相が会談し、日本の投資、技術を含む協力関係について話し合ったのは歓迎できる動きです。ニャンウィン氏は日本のマスコミとのインタビューで、外国企業がミャンマーで活動しやすくするため、日本の制度なども参考にしつつ、税制改革、手続きの簡素化などをしたい、と言っています。引き続き両国の協力関係が維持、発展させられることが期待されます。

 なお、筆者は明示的に触れていませんが、国際社会はロヒンギャ問題に強い関心を示しています。しかし、ロヒンギャ問題はミャンマーの努力だけでなく国際的取り組みも必要とする問題であり、ミャンマーのみを責めるのは適切ではないでしょう。まして、課題山積の新政権をこの複雑な問題について追い詰めることは賢明とは言えません。

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