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【読書感想】「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する

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「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)


Kindle版もあります。

内容紹介

本の数が多すぎる! だから「読まなくてもいい本」を案内しよう。複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義の5つの分野で知の最前線を学ぶことができる。


内容(「BOOK」データベースより)

人生でもっとも貴重な資源は時間。「古いパラダイムで書かれた本」は、今すぐ捨てよう。


 「読まなくてもいい本」の読書案内?

 そんな本なんて、腐るほどあるだろ、ダメな本を罵倒して溜飲を下げるような内容なの?

 そう思いつつ読み始めたのですが、これが見事な「釣りタイトル」で。

 「複雑系」「進化論」「ゲーム理論」「脳科学」「功利主義」という5つのジャンルでの、新しい(そして、ある程度学問の世界で認知されている)知見を、それを提唱した人達の物語も含めて、なるべくわかりやすく解説してくれる本、なのです。


 読んでいると、今まで自分が「定番」とか「読んでおくべき基礎知識」だと思っていた本が、けっこう内容的に古くなっていたり、全否定されていたりすることに驚いてしまいます。

 読みにくい「古典」にとらわれすぎて挫折するより、積み重ねの結果である最新の知見をまず押さえておく、という考え方もあるのです。

 フロイトは19世紀末のウィーンの女性たちに蔓延していたヒステリーの治療から、無意識の影響力の大きさに気がついた。そして、神経症の原因は社会的・文化的に禁じられている欲望を無意識に抑圧しているからだという精神分析理論を唱えた。

 ヘーゲルに代表されるように、それまでの西洋哲学は意識と存在をめぐって難解な思索を延々と繰り広げてきた。それに対して、人間の行動のほとんどは無意識が決めていて、性的欲望が決定的に重要だと指摘したことはフロイトの大きな功績だ。だがフロイトの評価が難しいのは、そこから先の理論がほとんど間違っているからだ――それも、とんでもなく。

 エディプスコンプレックスなんてなかったし、女の子は自分がペニスを持っていないことで悩んだりしない。どのような脳科学の実験からもリピドー(性的エネルギー)は見つからないし、意識が「イド、自我、超自我」の三層構造になっている証拠もない。夢は睡眠中に感覚が遮断された状態で見る幻覚で、抑圧された無意識の表出ではなくたんなる「意識」現象だ。

 フロイトと精神分析への批判は、すでに1960年代からドイツの心理学者ハンス・アイゼンクなどによって行われてきた。

 アイゼンクによれば、フロイトは重度のコカイン中毒で、精神分析で有名になってからも実際の患者をほとんど診たことがなく、たとえ診療してもその診断は間違っていて病気はまったく治らなかった。


 そ、そうだったのか……

 精神医学を専門にやっている人にとっては常識なのかもしれませんが、フロイトはそこまで「過去の遺物」になっていたんですね。


 進化論の項では、ハヌマンラングール(インド大陸などに分布するオナガザル科のサル)についての、こんな話が出てきます。

 ハヌマンラングールは、一頭のボスザル(アルファオス)が10〜20頭のメスの子連れ集団を引き連れ、その他のオスは自分たちだけの集団で動いている。このオスだけの集団のトップにいるサルが、メス集団を引き連れているオスにとって代わることがあって、この乗っ取りが成功すると、新しいオスは月例6〜7ヵ月以下の子ザルを殺してしまう。

 この子殺しは、かつては個体数を調整する「種の保存」の仕組みだと考えられていた。

 だがこの説明には、さまざまな矛盾がある。子殺しは群れの乗っ取りが起こったときだけ発生し、同じオスが引き連れている群れでは起こらない。殺されるのは若くて死にやすい赤ん坊だが、個体数を減らすのが目的ならメスの子ザルだけを排除した方が効果的だ。さらに、これが「種の保存」のためのものなら、赤ん坊を殺されることにメスが激しく抵抗することが説明できない。

 現在では、サルの子殺しが利己的な行動であることがわかっている。群れを乗っ取ったオスが殺すのは、自分と血縁関係にない、以前のボスザルとのあいだに生まれた赤ん坊なのだ。

 ハヌマンラングールのメスは授乳中は排卵せず、次の子どもを妊娠できないが、授乳を終えると、数週間か、時には数日以内に発情する。赤ん坊はだいたい8か月齢になると乳離れし、母親の繁殖を妨げることはない。このような条件を考えれば、乗っ取りに成功したオスが6〜7ヵ月齢以下の赤ん坊を殺すのはきわめて「合理的」だ。この子殺しがメスたちに自分の子どもを産ませるのを目的としていることは、新しいボスザルが8ヵ月齢以上の若いサルにはなんの興味も示さないことからも明らかだ。


 「同種で殺し合うのは人間だけだ」なんて言われているのですが、実際は、そうじゃないのです。

 しかも「種の保存」ではなく、「自分の血を残す」というのが目的で「子殺し」が行われている。

 さまざまな研究やデータの蓄積によって、自然科学の世界も、どんどん「事実」が書き換えられているのです。


 僕としては、それでも、「人々の思考の歴史を辿ることは、有意義なのでは?」とも思うのですが、「そんな現在は否定されていることを学んでいくような時間の余裕はない。ただでさえ、膨大な情報にさらされているのだから」と言われると、まあ、たしかにそうだよなあ、と。

 まあ、実際に古典から流れに沿って読んでいるであろう著者が「これはムダだよ」と教えてくれているものの優先順位を下げるというのは、ひとつの考え方ではありますよね。

 この本を読んでいて感じるのは、これだけわかりやすく書いてあると、すごくありがたい、というのと、でも、こんなにわかりやすく噛み砕かれているものだけを読んで、「わかったような気分」になることは、逆に危険なのではないか、ということです。

 もちろん、ちゃんと勉強したい、という人のためには、それぞれの章の終わりに「いま読んでおくべき本のガイド」もあります。

 それも、専門家向きの本から、中高生でも読めるレベルの入門書まで、幅広く紹介されているのです。

 読み始めたときには「ちょっと難しいものに手を出してしまったかな」と思ったのですが、こういう「ちょっと難しいくらいの本」を読むというのは、馴染んでくると、なかなか楽しい。

 自分の知的好奇心みたいなものが、立ち上がってくるような気がします。


 なぜ、この5つの分野なの?と思ったのですが、最後に、これらがしっかり繋がってくるのです。

 ずいぶん長い時間がかかってしまったけれど、この本でいいたいのはこのかんたんな図にすべて表されている。遺伝学、脳科学、進化心理学、行動ゲーム理論、行動経済学、ビッグデータ、複雑系などの新しい”知”は、進化論を土台としてひとつに融合し、ニューロンから意識(こころ)、個人から社会・経済へと至るすべての領域で巨大な「知のパラダイム転換」を引き起こしている。これによって自然科学と人文諸科学は統合され、旧来の経済学、哲学、心理学、社会学、政治学、法学などは10年もすればまったく別のものになっているだろう。心理学が心理社会学に脱皮したように、進化経済学、進化社会学、進化政治学、進化法学が登場し、最後に「進化」の冠が取れて知の統合が完成するのだ(残念ながらそこに旧来の哲学の場所はないだろう)。

 だとすれば、きみがまるなすべきなのは新しい”知”のおおまかな地図を手に入れることだ。日本語でもすぐれた入門書が出ているから、ちょっと頑張れば高校生だってじゅうぶんできる。そうすれば、難解で高尚なことをいっているように思えても、パラダイム以前に書かれたり、新しいパラダイムを理解できていないものをすぐに見分けることができるようになるはずだ。

 「このかんたんな図」に興味がある方は、ぜひ、この本をめくってみてください。

 著者の主張を鵜呑みにする必要はないと思いますが、有限な時間のなかで、「何を読むべきか」を考えるきっかけになることは間違いありませんよ。

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