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「職人賛美」は進歩を遅らせるのか?

職人技というのは、日本人が大好きな世界のようで、テレビなどでもよく取り上げられる。先日、高層ビルの窓掃除をする「ブランコ師」が出ている番組をやっていたが、JR東日本の東京駅折り返し7分間で掃除するチームの話は見聞きした人も多いんじゃないだろうか。

もちろん掃除だけではなく、この職人技の世界は日本の伝統芸術への憧れと、昭和へのノスタルジーが一体となっていまもなお魅力的だ。

この手の世界を取材して、外国人が“Oh!”と驚けば、まあそれなりの番組ができる。この手の職人技は、誰もができるわけではないけれど、日本人の心の拠り所になっているところもあるのだろう。

でも、職人技信仰って進歩を妨げている面もあると思う。窓拭きだって「じゃあ自動化すればいいじゃん」とか、「そもそも拭かないでもいい窓は作れないのか」という発想から新しいことは生まれてくるんじゃないか。

自動運転やドローンもそうだし、マイナンバーなどの制度でもやたらと「危険じゃないか」という話が先行しやすいのは、「過剰なリスクゼロ志向」と「自動化への懐疑」がセットになっているように思う。

その一方で印鑑登録制度のような、江戸時代から続くシステムが温存されている。

そして、自動化への懐疑は、職人技への憧憬と表裏一体になる。そりゃ下町ロケットは上手なインサイトを突いているわけだ。

もっとも、高度成長期はどんどんオートメーション化を進めてきたわけだが、ここにきて職人賛美が受けるのはどうしてか?

これについては、船曳建夫氏の『「日本人論」再考』(NHK出版・2003)に鋭く面白い論考がある。この本は、明治以来に論じられた数多くの「日本人論」を分析したものだが、その中に「職人~もの言わず、もの作る」という一章がある。

職人が単なる技術屋ではなく、日本人の「生き方の」モデルになってきたという論考は1960年代までの取材記事から、「プロジェクトX」(今なら「ザ・プロフェッショナル」か)まで多岐に及んだ事例から見事に描かれている。

一方でロボットによる代替、というのはよく話題になって、「なくなる仕事」という記事も目にしたことはあるだろう。この空気は、職人志向をますます強めるという循環になりそうだ。

ただし、そうした感傷があるべき進歩を鈍らせて、世界から取り残されて日本人全体が不利益を被るかもしれない。高齢者は変化を嫌うし、政治が彼らの言うことに従う傾向があるからその可能性は結構高い。
ちなみに、先の本には「日本人論は不安の時に書かれ、読まれる」という仮説で全体が構成される。つまり、いまでも続く職人賛美とそれを題材にした「ニッポンすごい」的なものが受容されるのは、変化に対する不安と裏腹なのだろう
ただ、僕などは「職人礼賛」の記事や番組をみるたびに、ますます不安になってしまうのだが。

※ちなみに、例の「なくなる仕事」という話題の元になった論文は、オックスフォード大学のオズボーンが書いた” The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation?”という論文なのだが、これを読むと「職人」と言っても、自動化(論文表題ではcomputerisation)の影響を受ける仕事と、そうでない仕事がある。この辺りについては、また後日書こうかと思う。

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