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「国家緊急権」を憲法に書き込むのは望ましくない〜橋爪大三郎氏に聞く

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11月11日の参院予算委員会で、安倍晋三首相が「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題であると考えています」と述べた

この発言は山谷えり子議員の質問に対するもので、昨年11月の衆院憲法審査会において共産党を除く与野党7党が憲法に「緊急事態条項」を創設する必要性に言及していることを踏まえてのもの。今後、憲法改正をめぐる議論において「緊急事態条項」もテーマの一つとなるとの認識を示した格好だ。

この「緊急事態条項」は、「国家緊急権」を明文化したもので、自民党が2012年に公表した憲法改正草案にも盛り込まれている。大災害やテロなどによる非常事態において、通常の対応では間に合わない場合、一時的に憲法秩序を停止したり、一部の機関に権限を集中させたりするものだ。事態が収拾されるまでの間、国民の自由や権利の制限をともなう可能性もある。

現在フランスではパリの同時多発テロ事件を契機に「非常事態」が宣言されており、大統領権限の強化も議論されている。さらに、EUでは旅客機の乗客予約記録を集める制度の導入が検討されるなど、世界的にテロ対策とプライバシーや「通信の秘密」などの"せめぎあい"が起き始めている。もし「緊急事態」に際会した場合、国家や自らの安全を守るため、自由や権利の制限を国民がどこまで受け入れるのか、一人一人が考えなければならない時代が到来しているとも言えるだろう。

そもそも、「国家緊急権」とは何なのか。また、憲法にその規定を盛り込むべきなのか。来るべき改憲論議に備え、国民が共有しておくべき認識とはどのようなものなのか。昨年これらのテーマに真正面から切り込んだ「国家緊急権)」(NHKブックス)を出版した、社会学者の橋爪大三郎・東京工業大学名誉教授に話を聞いた。【編集部:大谷広太】

「主権者」「憲法制定権力」とは何か

「国家緊急権」は、「緊急事態」に際して通常の憲法の手続きによっては対応ができない場合、憲法を無視し、定めがなくても、あるいは憲法が保護する「国民の権利」を制限してでも政府が対応する、という権限です。

ですから、そもそも「国家緊急権」と憲法は矛盾しますし、憲法を尊重していては「国家緊急権」などという権限は行使できません。では「国家緊急権」は存在しないのか。あっても行使しない方が良いのか。順番に考えてみましょう。

「国家緊急権」の源泉は、憲法ではありません。では何か。それは「国家主権」です。通常は憲法を制定し、それによって「国家主権」を行使しますが、「国家緊急権」の場合、憲法を飛び越えて、あるいは憲法とは別のルートで、「国家主権」を行使するのです。憲法も「国家緊急権」も、どちらも「国家主権」に源泉を持っています。そこで、「憲法」とは何か、「国家主権」とは何か、をまず考えなければなりません。

憲法を持つ国家体制を「立憲制」といいます。そこには「国家主権」の規定があるのが普通です。「国家主権」は誰が握っているのか(=「主権者」は誰か)と言えば、それは、君主か、さもなければ国民。そのどちらかです。日本国憲法では「主権在民」といって、国民が「国家主権」をもつ、としています。いっぽう旧憲法(大日本帝国憲法)では、君主(天皇)がもつとしていました。

君主の主権は「伝統」に由来します。君主の前の君主も、そのまた前の君主も、君主で、主権をもっていた。これが「伝統」です。いっぽう国民主権は、「意思」に由来します。国民は、大勢の人間の集まり(団体)です。その団体があるとき、「アメリカ合衆国を作ろう」、「フランス共和国を作ろう」、「日本国を作ろう」と意思するのです。なぜ意思することができるかといえば、それは人間一人一人の生まれついての能力(自然的能力)、あるいは「自然権」に由来します。

「自然権」とは、「一人一人の人間が等しく造られている」ことにもとづき、めいめいが、生存し、安全で、幸福を追求し、家族や財産を持ち、信仰や、教育や公共サービスや、そのほかの便益を受ける権利のことをいいます。

さて、孤立した一人の人間では、この権利を追求できにくいし、実現させにくい。そこで、これらの権利を保障するために、法律や、その法律を実施する政府が必要になります。また、安全を保障するためには、政府に、外交権や軍事権が必要になります。こうした「政府を樹立すべきだ」という意思。これが「憲法制定権力」です。国民が「憲法制定権力」を行使して政府を樹立し、政府と契約(憲法)を結ぶと考えるのです。

「主権者のこうした利益を図るため、政府を樹立し、以下の権限を授けます。立法権、行政権、司法権。軍事権、外交権、徴税権。場合によると徴兵権。そのほかの権限を授与しますが、同時に、この憲法の規定に従って、政府職員は行動するように。」こういう契約が、憲法です。権限を与えるが、その行使を制限する。ここに憲法の本質があります。

通常の場合、政府は、憲法を最高法規とし、政府の権力の源泉とし、行動の規準として、行動しなければならない。これに違反することを、「憲法違反」といいます。政府・国家機関は、憲法に違反してはならない。これが大原則です。「主権者」からの受託に違反してはならないからです。

ここまでは、どんな憲法の教科書にも書いてあると思います。

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