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海外売上が5割を超した電通 デジタルでは負けられない 今年も28社をM&A - 中西 享

テレビや新聞など国内メディア向け広告を中心にビジネス展開してきた電通が、昨年は25社の海外の企業を買収、今年も1月から11月までに28もの企業を買収し、一気呵成にデジタル分野を重視したグローバルネットワークを確立しようとしている。数年前まで国内市場の比率が高かった電通だが、すでに売上総利益の半分以上を海外で稼ぐまでになっている。電通の買収戦略について担当の伊藤誠司執行役員にインタビューした。

Q 海外の企業買収が加速したきっかけは

A 電通は過去50年間、海外の事業展開をやってきたが、必ずしもうまくいっていたわけではなかった。主として日系クライアント対応のために世界の主要都市に拠点を展開していたが、ローカルの一級の人材を雇うことが難しく、地域、拠点によっては必ずしもクライアントの満足を得られていなかった。
転機となったのが9年前に米国プロバスケットボールNBAのChicago Bulls(シカゴ・ブルズ)でマイケル・ジョーダンと一緒にプレーしていたティム・アンドレー(現在、電通本社の取締役専務執行役員)をヘッドハントしてからだ。

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アンドレー氏

 2006年に電通アメリカの社長として入社、彼がM&Aを積極的に手掛けてノウハウを蓄積した延長で、2012年7月に当時世界8位だった英国の広告会社「イージス・グループ」の買収を発表した(13年3月に買収を完了、買収額は約4000億円)。電通ももともとはメディアからスタートした会社だったので、イージスとはケミストリー(相性)が合った。

Q デジタル分野での買収が目立つがその狙いは

A 我々の業界ではいまデジタルの能力をどれだけ持つかが競争のコアとなっている。日本の広告市場ではテレビの比率が30%強を占めるが、英国などではテレビがインターネットに抜かれている。これからはデジタルとテレビ、新聞など既存のメディアをいかに組み合わせてキャンペーン効果を最大化するか、そこに消費者の気持ちをつかむようなコンテンツをどう組み入れていくかがますます重要になっていく。

 世の中はデジタルが浸透・進化してきたことで非常に複雑化すると同時に、利用者の消費行動データなどマーケティングの高度化に必要な多様なデータを取得することができるようになった。こうしたデータを使いながらクライアントと一緒になって、どうすれば一番効率的にモノやサービスを売ることができるか、という競争になっている。そのためのテクノロジーもどんどん進化しているし、デジタルのメディアそのものも広がってきている。モバイルメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、YouTube(ユーチューブ)、Netflix(ネットフリックス)など新しいサービスが日進月歩でマーケットに出てきているので、ほかのメディアと組み合わせてキャンペーン効果を最大化し、可視化された効果指標をもとにPDCAを高速で回していく競争がますます激化していくことになる。

 日本ではテレビの存在が大きいので売上総利益に占めるデジタル事業構成比はそれほど高くはないが、海外事業を統括している電通イージス・ネットワーク(DAN)でみると、デジタル事業構成比は14年度に43%、15年度上期に46%となっており、着実にデジタル比率が高まっている。

Q 電通は世界ランキングでどの位置にあるのか

A 世界の広告業界をみると、デジタルにマス媒体やプロモーション、クリエイティブなどを加えた総合的なグループ連結の収益では、英国に本拠地を置くWPPが首位、2位が米国のオムニコム(OMC)、3位がフランスのピュブリシス(PUB)、4位が米国のインターパブリック(IPG)、6位がフランスのアバス(HAV)で、電通は5位だ。しかし、メディアの広告枠を確保するメディアエージェンシーとしての収益では、電通は2014年の取扱高でWPP、オムニコムに次いで3位にあり、すでにメディアトップ3になっている。

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 伝統的なメディアを活用した広告ビジネスではWPPは電通の3倍くらいの規模があり、ここで追いつこうとはまったく思っていない。しかし、着実に進展するデジタルシフトへの流れの中で、電通グループとしてライバルとの競争に負けるわけにはいかない。また、単に規模を追い求めるのではなく、あくまでもクライアントに満足してもらえるためのサービス体制を整備していく必要があると考えている。

Q 海外事業の統括会社(DAN)と本社との意思疎通はできているか

A  一定金額までの海外M&AはロンドンにあるDANに権限移譲している。DANでは電通のアンドレー専務が取締役会議長を務めており、同社のCEOやCFOなどで構成するM&A委員会で様々な投資案件を決めている。私もそのメンバーの一人だ。ある一定レベルまでのM&Aについてはこの委員会で判断を行っているが、それを超える案件は本社の役員会の承認を得て決めている。これまでのところ、DANで決めたM&Aに本社がノーと言ったことはない。基本的にDANと本社の買収に関する目線は合っている。毎年、年頭に本社とDANの間でその年のM&A戦略を確認しているので、大きなずれは起こらない。DANの幹部や被買収企業の幹部がほとんど辞めずに電通グループにとどまってくれていることは、そうした戦略面での相互理解が図れているからだと思う。

Q イージスを買ったことによるシナジー効果は出ているか

A 海外市場での日本のクライアントに対するサービスがエリア的にも内容的にも格段に広がった。イージスにとっても日本国内のサービスを電通が実施してくれるということで、新しい顧客の獲得につながり、従来にはなかった顧客との取引が増えてきている。

Q 企業買収する際の基本戦略は

A 毎年、買収金額を決めて企業買収をしているわけではない。3つの戦略に基づいて買収をしている。1つは「インフィル」と表現しているが、クライアントが求めるサービス機能を満たせる会社、2つめは地域や国を広げられる「スケール」、3つめはデータやテクノロジーで広告コミュニケーションの高度化を実現する「イノベーション」だ。主な領域はデジタルで、昨年度実施したM&Aの半分はデジタル系のエージェンシーとなっている。

Q 海外企業の買収マネジメントはどうしているのか

A ロンドンのDANが、世界を3つの地域に分けて海外事業を統括している。3つとはEMEA(ヨーロッパ・中東およびアフリカ)、APAC(アジア大洋州、除く日本)、Americas(南北アメリカ)のことであり、それぞれの地域に収益の責任者を置いている。その下にカントリーマネージャーが国ごとの管理をする体制にしており、これが縦軸の管理。また、実際にサービスを提供するブランドごとのネットワークで管理する横軸を組み合わせて、全体を縦横のマトリックスで管理している。

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伊藤 誠司氏(いとう・せいじ)1980年に電通入社、2002年財務局長、06年経営企画局長、08年グループ経営管理局長、09年グローバル事業統括局長、13年4月に執行役員、現在に至る。59歳。札幌市出身

 今年の4月までは本社の取締役がロンドンに常駐して、イージス買収後の統合作業における経営管理にあたっていたが、統合が順調に進んだこともあり、いまは常駐していない。DANにとってM&Aは優れた人材、タレントの確保という面からも重要な戦略だと考えている。優れた人材を獲得し、相応しいポジションに就けて、良ければ引き上げる。人材の流動性が高い海外ではこうした人材の確保と維持は重要なポイントであり、DANではこの人材のマネジメントがうまくいっている。 

Q 売上総利益に占める海外事業構成比が50%を超えた中で、電通本社の外国人取締役が1人なのはバランスを欠くのではないか

A 海外事業構成比がいずれ70、80%になっていくと、外国人取締役が1人ではバランスが悪い。今後は国籍も含めた取締役の多様性を重視する必要が高まるだろう。

Q グローバル展開する電通の将来的な経営課題は

A 電通は日本の広告ビジネスについては誰よりも詳しいし、一番良いメディアの使い方を知っているという自負がある。日本では良い経営ができても、同時にグローバル市場を見据え、かつデジタルワールドはどこに向かっていくのか、といったことも考えながら経営していなかければならなくなった。海外事業構成比が50%を超え、今後、重要なグローバルの意思決定を日本人中心ですべきかどうか、といったことが経営課題になってくるだろう。単体としての電通ではなくグローバルな電通グループの経営をどうするのが一番良いのか、若手の人材を育てながら海外の人材をどのように取り入れていくのか、その仕組みを早期に構築していく必要がある。

本来、クライアントの黒子役に徹して目立たない存在だった電通が海外のデジタル関連企業を矢継ぎ早に買収、ドメスティック・イメージの強かった広告会社がグローバル&デジタルに大きく方向転換している。あとは本社の経営陣がこの流れを受けて、いかにして電通グループを世界で通用する広告会社、いや、ソリューションカンパニーへと進化させていくかに注目したい。

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