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価値観のぶつかりあいをなげかける──乙武さん流「あえて混乱させる」子育て

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「乙武洋匡さんこそ、日本でもっとも深く多様性について語れる人ではないか」と、サイボウズ代表取締役社長 青野慶久たっての希望で実現した対談。前編で異分子を認めることで実現する、多様性のある社会・組織の魅力について語りあった二人は、やがて、「日本社会が多様性を受け入れにくいのは”ひとに迷惑をかけないように”という思考に原因があるのではないか?」と、疑問を投げかける。

「常識」に凝り固まりがちな価値観をクリエイティブに更新したいと語る二人が提示する、「多様性を受け入れられる社会・日本」の新たな地平とは?

「仕事ができる」というものさしは増えている

画像を見る教育も大きく変わるべきだと思うんです。われわれの時代って、いかに暗記、インプットを上手にできるかが重視され、テストで正確に発揮するのがよいとされていました。いまは検索すれば、スマホが全部教えてくれる。インターネットに無限の知識が詰まっている。取り出した情報をどう応用できるかのほうが大事な時代に、いまだに知識を覚えることを重んじている。大きなジレンマを感じています。

戦後は工業化の中で、マニュアルを覚え、正確に、迅速に、他者と同じ作業をすることが求められてきました。けれど、もはやそうした仕事は機械やコンピュータに取って代わられています。

いかにひとと違う発想をできるか、いかにネットワークを築いて多くの情報を取ってこられるかなど「仕事ができる」というものさしが増えているんですよ。この人にはこういうよさがある、この人にはこういうよさがあると認めることが求められている。けれど教育現場では、いまだに暗記すること、他者と同じ作業を効率よくこなすことがメインの学力とされている。非常に偏っているなと思います。

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乙武洋匡。1976年生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。2014年4月には、地域密着を目指すゴミ拾いNPO「グリーンバード新宿」を立ち上げ、代表に就任する。2015年4月より政策研究大学院大学の修士課程にて公共政策を学ぶ。三児の父。

画像を見るどこからどう変わっていくんでしょうかね? 工業化社会のなかで管理主義が染み込んだ結果、いま弊害が出ているんですよね。でも、いまだにそんな感覚にしがみついている会社は負け始めている。そういった価値観だと沈没してしまうのではないでしょうか。 

一人一人が例外である

画像を見る以前、フリースクールを取材したんです。既存の学校に通えなくなった子が居場所を求めて通っている学校です。そこで彼らに学校って何かと聞いたら「社会性を身につける場所だと思う」という言葉が返ってきて、はっとさせられました。

なぜ彼らが既存の学校にはいられなくなったのか、それは社会性とは集団からはみ出さないようにすることだと捉えられているからなんです。

はたしてそれが本当の社会性でしょうか? 社会性とは、「人にはそれぞれ違いがある」ということを認めることではないかなと思うのです。しかし日本ではそうではなく、自分を押し殺し、集団に自分をあてはめていくことだと思われている。それでは不登校にもなるし、会社で鬱になる人も出てきますよね。社会性を身につけるとは、自分を殺してマニュアル通りに生きていくことではない。「一人一人が例外である」ということに、もっと多くの人に気づいて欲しいんです。

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乙武さんが翻訳したキャサリン・オートシ著の絵本『Zero ゼロ』『Oneワン』(講談社)。いじめに立ち向かう勇気の大切さや「みんなちがって、みんないい。」というメッセージが描かれている。

画像を見る社会って自分みたいなやつだけではないんだというのは、大きな気づきですよね。



画像を見る小学校教員時代、保健体育の授業で、思春期について教える単元があったんです。教材に「こうして異性を意識するようになる時期を、思春期といいます」と書いてある。同性愛については一切触れられていないんです。そこで、私は「教科書にはこう書いてあるけど、なかには男の人が男の人を、女の人が女の人を好きになることもある。それは数として少ないかもしれないけど、ちっともおかしなことではないし、からかうようなことでもないんだよ」と子どもたちに伝えました。

たまたま個人的に知識と理解があったからです。でも悪気などなく、それを知らずに伝えられない先生もいるんですよね。それに対し、小学校からそんなこと教えたら子どもたちが混乱するという外部からの指摘もあるかもしれない。けれど、その混乱とはなにかというと、ものごとは単純化しないといけないという考えが透けてみえるわけです。

画像を見る実は世の中は複雑ですからね。



価値観がぶつかるときにどうする?

画像を見る私は、いい意味で混乱させていきたいですね。私は3人の父親として子育てしていますが、意識的に子どもを混乱させるんです。道徳的な考えや行いを教えて導くことも親の務めかもしれませんが、そこをあえて混乱させる。

例えば、時間を守るということも、困っている人がいたら助けることも、社会規範としてはどちらも大切ですよね。それで長男の小学校入学に際して「自分一人で通学するんだよ」という話をするときに、「決まった登校時間に遅れないように道を歩いているとき、途中で倒れて困っているひとがいたらどうする?」なんてことも聞いてみたんです。「助けたら学校に間に合わないかもしれない、そんなときはどうしたらいいと思う?」と。長男の答えは「急いで助けて、急いで学校行く!」というものでしたけど(笑)。

子どもの答えが「遅れても助ける」なら、それはそれでいい。「申し訳ないけど、時間通り学校へ行く」でも、私は彼の価値観を尊重します。ただ、そうやって両方大事な価値観がぶつかって自分のなかでどちらかを優先しなければならない場面がいっぱいあるよ、ということを伝えていきたいんです。模範解答なんかない。自分で考えて答えをださなきゃ、と。

画像を見る面白いですね。模範解答だけだったらなにも悩まないですよね。



画像を見る自分はこう思う、と主張しつつ、でも自分とは違う意見も認める。そういう多様性への理解が問われるんですよね。共感はしないけど、理解はする。

「自分もそう思うとは言えないけれど、あなたがそう思っていることは理解したよ」と。これが多様性の原点ではないかと思うんですよ。

画像を見る自分とは異なる意見に対して、みんなけっこう攻撃しちゃうんですよね。お互いに「それも一理あるよね」でいいんじゃないのということですね。

画像を見るそうそう。見下したり排除したりではなく、受け止められるようにならないと。唯一絶対の解なんか存在しないんだから。

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青野慶久。1971年生まれ。サイボウズ株式会社代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、 松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役に就任(現任)。 社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。

画像を見る攻撃されるから反撃する。それはそれであるよねという風にはなかなかいきませんね。



画像を見る日本では出された食べ物を残すのは失礼だという「常識」に対して、残すのがマナーという国もある。

画像を見るウサギとカメの話も、国によってはなんで「カメはなぜウサギを起こさないのか、卑怯だ」という考えもあるそうですよ。色々な価値観があって、それでいいんですよね。

画像を見る教育現場でも、興味深い事例がいくつもあるんです。中学校で女子が十字架をモチーフにしたクロスペンダントをしている子がいたら、外せと怒られる。でも、キリスト教を信仰する外国籍の子供は着用を許される。信仰のあるなし、そんな目に見えないもので線引きをするのは難しいですよね。先生の判断が問われます。

新しい課題が出てくると、みんなが納得できる解決策を打ち出すのが大変。反発もでるし、労力もかかる。めんどくさいんですよ。だから、そういう「新しい課題」を提示するような存在にはなるべく来てもらいたくない、と排除されてしまう。このあたりも、多様性が進まない一因ですね。

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