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そしてパレスチナへ【パレスチナ留学記2】

【1はこちら】
『イスラーム世界』との邂逅【連載パレスチナ留学記1】

ヨルダンにて

 大学1年の夏の旅行後、再び中東へと足を運ぶことになったのは、1年半後の2015年3月のことだった。日本中東学生会議の活動の一環で最初にエジプトに寄り、その後は一人でヨルダン、パレスチナへ渡った。

 ヨルダンでは学生会議の活動時に非常にお世話になったシリア支援団体サダーカというところで、3週間ほどボランティアとして活動の見学をさせていただいていた。活動の拠点はパレスチナ難民が多く住んでいる東アンマンで、この地域はパレスチナ難民キャンプもいくつか点在し、アンマンの中でも貧困層の多い地域だ。そうした理由から家賃等も比較的安く、シリアからの難民流入が増加して以降、ザアタリなどのUNHCRの管轄するシリア難民キャンプを出てきたシリア人が多く居住する地域ともなっている。

 難民と聞くと多くの方が難民キャンプを想像されるかもしれないが、多くのケースにおいて難民キャンプに居住している難民よりも、都市部に居住している難民の割合の方が多いとされている。ヨルダンにおけるシリア難民のケースも同様で、8割近くのシリア難民がアンマンをはじめとするヨルダンの各都市に居住していると推定されている。

 サダーカの活動も、こうした都市居住の難民への物資や家賃支援が中心であった。ここで家賃支援が重要になってくるのは、WFP発給のフードクーポンやUNHCRからの現金支援だけでは、ヨルダン国内での就労を原則制限されているシリア難民の多くが家賃を支払うのに十分な現金収入を得ることが出来ていないからである。滞在中はこうした支援対象の家庭に定期的に行っている家庭訪問への同行が主な活動となった。

 滞在中に出会ったシリア人の多くは、英語を話すことができなかった。1年時よりアラビア語を勉強してはいたものの、書き言葉と話し言葉に大きな乖離があるため、私も同行していた英語の話せるシリア人に、逐一通訳をしてもらわねばならない状況であった。もちろん英語の通訳や顔の表情などで、事実関係やそれにまつわる心情などは大まかに理解できるのだが、彼らの本音やより複雑な思いに近づくことは困難を極めた。この経験によって、かねてより感じていたアラビア語の必要性をより強く感じることになったのであった。

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東アンマンにあるジャバル・アン=ナーセルという地区。密集しあう住居の様子からも、元はパレスチナ難民キャンプであったことが分かる。(筆者撮影)

そしてパレスチナへ

 そうした中で縁があったのがパレスチナ西岸自治区にあり、現在留学しているアン=ナジャーハ大学だ。知り合いの社会人の方の紹介で、この大学への留学生派遣の斡旋を今年から始めようとしている会社があるとのことで、3月のヨルダン滞在時にパレスチナ西岸自治区も見て回った。

 大学1年生の夏にも訪れたイスラエル/パレスチナであったが、その時の交流相手はユダヤ人の学生のみで、イスラエル側の事物は彼らのネラティブの下でしか触れてられなかった。アラブ側の言説に慣れ親しんでいた身としては、パレスチナというと「被占領地」のイメージが非常に強かったのだが、実際には想像以上に生命力を持った文化と社会、歴史の蓄積を肌で感じることになった。同時に、そうした日常の中にイスラエルによる占領が構造的に埋め込まれていることの影響も垣間見えた。

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エルサレム旧市街の一角のアラブ人居住地区にはためく大きなイスラエル国旗。2階部分にイスラエル人入植者が住んでいるものと見られる。(筆者撮影)

 ここまで私がパレスチナ留学に至った経緯を書き連ねてきたが、自分自身の主要な関心が一貫してイスラエル/パレスチナ問題にあったとは言い難い。

 1948年のイスラエルの建国はその後の中東の政治および歴史、そして社会構造までをも根本的に変えてしまった出来事であると同時に、中東地域における近代ヨーロッパの植民地主義の象徴として捉えられてきた。もちろんイスラエル建国は単に近代ヨーロッパの植民地主義にのみ帰せられるものではなく、19世紀以降のシオニズム運動側からの活発な活動も非常に大きな役割を果たしてきた。48年以降の度重なる戦争と現在も継続しているパレスチナ難民問題に関しては、イスラエルや欧米の植民地主義だけではなく、アラブ諸国の責任も大いに問われるべきであろう。

 こうした観点からも歴史学を専攻する者として、パレスチナという視点から中東地域における近代の意味を考えることは非常に重要であると思えた。パレスチナの歴史に関する一部言説が過分に政治化され、プロパガンダ化されていることに対しても問題意識を感じた。そして何より、パレスチナ・アラブ社会の中でアラビア語を学ぶことが、この上なく魅力的に映ったのであった。

(文・田中雅人)

「東大の知をひらく」のテーマのもと、東大生の編集部員が運営しています。東大教授や卒業生のインタビューを中心に、いま東京大学で何が起こっているのかをお伝えします。http://www.todaishimbun.org/

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