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激変するドキュメンタリーの世界

世界のメディア状況が激変している。

今回、オランダのIDFAドキュメンタリー国際映画祭に行ってきた。英国・BBCや米タイム・ワーナーグループの人気ケーブルテレビ局HBO、もちろんNetflixなど欧米・豪・中東・アジアのあらゆるメディアが、猛烈な勢いでどの作品に出資するか、早朝の朝食ミーティングから深夜のパーティまでエネルギッシュに情報交換をしている。地上波局・衛星局から放送コードの緩いケーブル局・有料動画サイトまでのプラットフォームが世界中から集まったドキュメンタリー制作者のプレゼンテーションを熱く聞いている。アジアからは英語の堪能な中国系アメリカ人・ソウルベースの韓国人・台湾人の制作者が多く参加している。

日本におけるドキュメンタリー制作状況を反映しているのか、あるいは語学の問題か、また技量・経験の問題か、日本人の制作者の姿はかなり少ない。日本からはNHK・WOWOWそして我々DWANGO等のプラットホームと配給会社が作品探し・出資先探し・国際共同制作相手探しの為に大部隊を投入している。

ドキュメンタリーのジャンルは広く、動物自然ものから、戦争もの、社会派もの、科学もの、人物を描くもの、歴史ものまで幅が広い。最近はキャメラが小型化・高画質化・低価格化し、小型コンピューターで編集できることもあり、劇場公開からネットによるVODまで対応出来る低コストで高品質の作品を作ることが出来る。

以下は我々のチームの一員、ヴェスビアス社の山本兵衛監督のリポートである。同氏の許可を得て全文掲載することにする。これを読むと世界のメディアが水面下で激しく変化している様子がわかる。山本氏はニューヨーク大学で映画制作を学び配給から劇映画監督まで手掛ける幅広い知識と経験を持つ、この世界の専門家である。


100円ショップ化する映像業界?

Posted on 2015/12/02 by 山本 兵衛

FORUM会場の様子。まるで裁判のような雰囲気。


いまドキュメンタリーが熱い。デジタル化にともない数々の国や地域からドキュメンタリーが続々登場して映画祭を騒がせている。その中でもドキュメンタリー映画祭の最高峰として評判のアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭 (IDFA) は、毎年300本程度の作品が上映されるだけでなく、フィルムメーカーがプレゼンをして投資を募る企画マーケット FORUM や、完成作品のセールスに特化した DOCS FOR SALE に加えて、様々なトークイベントも開かれている。2年前に FORUMに参加した際には、終始プレゼンの準備と打合せに奔走していて、上映やトークに参加する余裕がなかったが、今回はトークイベントを中心に参加する機会があった。その中でも一番人気だったのは、会場が満員で立ち見客もでたVOD (ビデオ・オン・デマンド) のトークイベントだった。日本でも、大手ネットフリックスが今年の夏に上陸して業界を揺るがしたことはすでに書いた。秋にはYouTubeも新しいVODサービスYouTube Redの開設を発表している。既存の配給システムに頼ることなく視聴者個人の趣味や興味に応じて作品を提供できるVODの視聴形態が、ドキュメンタリーにとっても成功の鍵として大いに注目されているのだ。 FORUM会場の様子。まるで裁判のような雰囲気。

トークイベントでは、数々のVOD会社が紹介され、それぞれのビジネスモデルや契約形態が説明された。欧米では大手以外にも様々なニーズに対応した数々のVOD会社が映像コンテンツを視聴者にダイレクトに提供している。その中には従来の配給からVODへと移行した会社もあれば、ネットセールスのコンサル業や、ネットのみに特化したセールス会社もあり、かつては重要なマーケットだったDVDやテレビ放映が姿を消して、VODマーケットが大きな役割を占めるまでになったことを如実に示していた。VODの世界は毎年大きな変革を重ねており、ドキュメンタリーにとっても大きなチャンスであるとゲスト講師は熱く語っていた。

その一方で、映像コンテンツ業界の飽和化を危惧する記事が欧米のブログやニュースサイトでチラホラ書かれるようになった。かつては公開される全ての作品をレビューすることを編集方針としていたニューヨーク・タイムズ紙では、900本以上の公開本数を記録した2013年以降、レビュー対象になる作品を毎週選定することを決定しただけでなく、膨大な作品数とは裏腹に全体的な質の低下も指摘していた。

先月末のINDIEWIREでは、<中流階級フィルムーメーカーの危機>という見出しで、 制作側に立った視点から、映像コンテンツ業界の飽和化と格差化を指摘している。ハリウッドの1%が、巨額の予算とマーケティング力でフランチャイズ商品(『スターウォーズ』『アベンジャーズ』など)で市場を独占し巨額の利益を手にする一方で、残り99%がインディーズとして苦戦を強いられている。さらにネットとデジタル化がインディーズ層の拡大にも貢献し、競争率はますます激しくなっているのが現状という内容だ。

アートとカルチャー専門ウェブマガジンSALON.COMでは、去年アメリカでの映画公開本数が1500本にのぼり、供給と需要のバランスが崩れているという記事を掲載した。スティーブン・ソダーバーグやジム・ジャームッシュなどが頭角を現したインディーズ創成期と違い、現在の状況は、競争率が激しいために労働賃金や制作費がどんどん削られ、現場スタッフが困難な条件で制作を強いられているだけでなく、作品が何らかの形で配給されるチャンスも少ない。にも関わらず、映画学校、映画祭、クラウドファンディングサイトなどの周辺産業が、作品数の増加を助長しており、飽和化が深刻になっているという。

この状況を日本に置き換えてみよう。東京で毎週公開される映画の本数は12から15本ほど。1年で最低700本程度の映画が公開されており、正式なルートで公開されない作品も含めると制作本数は最低でも1000から1200本程度だろうか。これだけで作品や配給会社にとって、観客を獲得するのが如何に熾烈な争いかは想像できると思う。いわゆる飽和化はアメリカだけの状況ではないのは明らかだ。

そんな飽和状態にありながらも、業界に身をおく者にとっては、この状況をチャンスとして捉えるしかないと思っている。才能があれば評価される、面白ければ観せる場があるという既存のシステムはすでに崩壊した。現状、マーケットは作品で溢れ返っている。そこで、フィルムメーカーに今まで以上に要求されるのは、マーケットの動きを踏まえた上で、チャレンジの価値ある作品を形にしていくこと。それは作品を観せる側にとっても同様で、需要を正確に踏まえつつ、チャレンジの価値ある作品を提供することだと思う。

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