記事

日本のダイバーシティって、ぶっちゃけどうなんでしょう? / 『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』著者、入山章栄氏インタビュー(聞き手・飯田泰之)

3/4

飯田 ジェフリー・オーウェン(インディアナ州立大学教授)のサーベイ論文では、多くのメガイベントに経済効果はないというのがこれまでの研究の大勢であることが示されています。イベント中の外客の増加は、イベントがなかったら来ていたであろう人をクラウド・アウトするだけです。そして土木建設工事の方に経済効果があるとしたら、それはメガイベント関係なしに公共事業を増やせばいいというだけの話ですから。

とはいえ、ぼく自身は、東京オリンピックはすごく応援しているんですよ。だって、お祭りだし、東京でやるのが単に楽しみです。でも、「経済効果はない」と経済学者だから言うと、「水差すな」ってけっこう怒られたりするんです。

ダイバーシティの話も同じだと思います。企業の業績とはあんまり関係ないかもしれない。だけど必要なんですよ。オリンピックも、経済効果ないかもしれないけど、「やりたいからやろうよ」でいいじゃないかと。

入山 それだと話が通りづらいんでしょうね。数字的な根拠が必要なので、どこかの調査会社に怪しい経済効果の計算をしてもらう(笑)。

飯田 そういうときに、「いや、経済効果がない」と言うと、冷たい人みたいになってしまいますしね。冷静な現状分析とこうあって欲しいことは結びつかないことがある。べき論と統計的な特性は違うんだと。

入山 ぼくも「アメリカの経営学者はドラッカーを読んでない」と言ったら「入山はドラッカー読むべきでないと言っている」と勘違いされたことがあります。

飯田 そういう話じゃないですよね。アメリカの経営学者や院生が読んでいないからこそドラッカーを読め……という主張もありえるわけですから。繰り返しますが、「経営学的」に「経済学的」にマイナスの効果だったとしても、社会的に意義のあるものはやる! ぼくはそう思います。

学問のダイバーシティ

入山 ちなみに、聞きたかったんですけど、飯田さんはピケティについてどう思っているんですか。

飯田 これはまさに今お話したダイバーシティと関わってくると思います。彼は、ハーバードでトップレベルの数理的な研究もやっていたんですが、いまはフランスで歴史的なデータを中心とした研究、難しい数理や統計技法不要の研究研究をしている。

これがフランスの懐の深さかなと思うんです。アングロサクソンスタイルの、いうなればノーベル賞向きの研究を行う研究機関と、数理的なモデルや統計分析をつかわないフランス独自の経済学をする研究者を雇う大学がある。そして、後者の方から、一世代に一人ピケティのようなスーパースターが出てくる。

入山 なるほど。もしかしたら、日本の経営学もそういうところがあるのかもしれません。ぼくは、「日本の経営学は国際化されていない」とよく言うので、なぜか日本の経営学の事例研究を批判していると思われがちなんだけど、実はみなさんかなり面白いことをやっているなあ、と思っているんです。

飯田 そうそう。だから、全部をアメリカらしい徹底的なジャーナル主義にする必要はないと思うんです。「超ガラパゴスな研究を続けて、30年後にすごい発見があった」みたいな出世方法があってもいい。両パターンの研究者が併存することで、日本国内の学者の中でスキルのダイバーシティが起こるんじゃないかな。

入山 経済学は良くも悪くも国際標準に染まり過ぎているのですかね……

飯田 変わった分析をする人がなかなか出てこないのはもったいない。やっぱりピケティが登場したのはフランスの学会のダイバーシティのおかげだと思います。

入山 一方でそこでは国際的なレベルでの競争に晒されないから、すごいモラルハザードがおきるのかもしれません。だからせいぜい一世代に一人なんでしょうね。

飯田  ですね。当たり外れも大きいし、サボろうと思えばいくらでもさぼれちゃう。その一方で、経済学者からすると、事例研究中心の経営学はどうも厳密さ欠ける気がするのは確かです。そのためか、どうしても「経営学はビジネス書を難しくしたものでしょ?」みたいに感じてしまいます。

入山 でも、世界のトップジャーナルに載る経営学の事例研究って、実はハンパないんですよ。一本の事例研究書くのに、平気で200人くらいにインタビューしたりするんです。

飯田 へぇー、事例研究というより調査になっている。

入山 本当のトップジャーナルの事例研究は会社の中に深く深く入り込んで、すごい場合は10年近い時間をかけて、トップから末端まで何十人、何百人にインタビューして、内部の会議にもいくつも出席して……と本当にすごいんです。

飯田 それはすごいなぁ。普通、できないですよね。

入山 ですから、もしみなさんが経営学の事例研究を「会社の数人にインタビューして、関連本を読めば事例研究」と思っているのであれば、それは世界標準の事例研究とは全然違いますね。ボクは統計分析をつかった研究を主にやりますが、正直海外トップジャーナルを狙うレベルの事例研究をやるのは嫌ですね(笑)。たいへんすぎる。

たとえば、「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセンが、著者の一人となって最近「ストラテジック・アントレシップ・ジャーナル」に発表した「イノベーティブな起業家」についての論文があります。

これまでの経営学では、「起業家」といっても範囲が広範だったんです。極端に言えば、スティーブ・ジョブズのような人から、細々とラーメン店を開業した人までをすべて「起業家」と言っていたわけです。だけど、クリステンセンは「これまで存在しなかった製品・サービスを生み出し、世界にインパクトを与えた起業家」22人にしぼり、その思考法などの研究を行ったんです。

その調査対象がまたすごく豪華なんですよ。ジェフ・ベゾス(amazon)、マイケル・デル(デル・コンピューター)、ハーブ・ケラー(サウスウエスト航空)、ニクラス・ゼンストローム(スカイプ)……まさに超著名な起業家ばかりです。

これは、クリステンセンの高い知名度があったからこそできた研究だと思います。これはひとつの極端な例ですが、このように世界の経営学の事例研究は本当にすごいところまで来ていると思います。ちなみに、この研究から得られた知見は、私の新刊に書いてあるので、ぜひ読んでみてください。

飯田 クリステンセンだから可能な研究かもしれない(笑)。ですが、やはりどっちが良い悪いじゃなく、スキルのダイバーシティが必要だということですね。

画像を見る

飯田氏

あわせて読みたい

「イノベーション」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河野大臣「ワクチンは十分に足りている」接種状況について説明

    河野太郎

    08月03日 09:13

  2. 2

    在宅勤務で生産性低下した国は日本だけ? 背景に対面コミュニケーション依存の働き方

    非国民通信

    08月02日 15:12

  3. 3

    男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由

    PRESIDENT Online

    08月02日 15:27

  4. 4

    森林大国ニッポンが木材不足のナゾ ウッドショックは林業に変革をもたらすか

    中川寛子

    08月03日 08:07

  5. 5

    この1週間を凌げば、オリンピックが終わります。もうしばらく我慢しましょう

    早川忠孝

    08月02日 14:37

  6. 6

    コロナ軽視派「6月で感染者数減少」予想大ハズレも、重症者数が大事、死亡者数が大事とすり替え

    かさこ

    08月02日 10:29

  7. 7

    何をやっても批判される「老夫婦とロバ状態」の日本

    内藤忍

    08月02日 11:52

  8. 8

    人権尊重、企業は本気か-DHCの不適切文書に批判

    山口利昭

    08月03日 08:42

  9. 9

    来るべき自動車産業戦国時代を勝ち抜ける日本がなぜEVなのか?

    ヒロ

    08月03日 11:52

  10. 10

    学生の自由と大人の責任。政党学生部の発言・活動に議員が介入するのは、言論封殺や圧力なのか問題

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    08月03日 08:37

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。