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なぜ増える?イスラム教への改宗 - 浅川芳裕(ジャーナリスト)

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欧米でイスラム教に改宗する人々が増えている。その背景には欧米社会の行き詰まりがあった

 イスラム教は今、世界最速で成長している宗教である。その信者数は世界最大の人口を誇るキリスト教に肉薄し、2070年には追い越すと予測されている(米ピュー・リサーチ・センター調査、2015年)。

 キリスト教が信者数で世界最大の宗教になったのは大航海時代が始まった一五世紀以降のこと。600年を経て、イスラム教に信者数第一位の座を明け渡すことになる。人類史における大転換点と言えよう。

 その要因は三つある。一つめはイスラム教徒の出生率の高さ。二つめは若者人口の多さ。三つめが本稿のテーマである改宗者の急増である。前出の調査では、2050年までに1億600万人がキリスト教徒をやめ、改宗先として最も多くの割合を占めるのは、イスラム教だと予測されている(無宗教は除く)。

 ではなぜ、キリスト教徒はイスラム教に改宗するのか。どんな人が改宗し、その理由は何なのか。そもそも改宗者はイスラム教のどこに魅力を感じたのか。実際の改宗者の証言に耳を傾けながら、その背景や変遷を探っていくことにしよう。

女性改宗者の声

 改宗者が増えている国の一つがイギリスである。「改宗者数はここ10年で10万人を突破。改宗者の三分の二が女性でその七割が白人、平均改宗年齢は27歳となっている」(英スウォンジー大学調査、2011年)。

「イギリス社会に蔓延する消費主義と不道徳にうんざりしたこと」がもっとも多い改宗の理由だ(同前)。「消費主義と不道徳」の具体例としては、「アルコールと酔っぱらい文化」「性的な許容性の高さ」などが筆頭に挙がる。

 改宗後にもっとも変わった点について、女性回答者の9割が「保守的な服装をするようになった」と答えている。女性改宗者の一人は、次のように改宗の経緯を打ち明ける。

「私は典型的な白人でパーティ好きの十代の女性でした。露出度の高い格好で酔っ払っては、複数の男性とデートを楽しんでいました。そんな生活を続けていくうちに、ある日、何かが欠けていると感じたのです。そんなときイスラム教徒のボーイフレンドに出会って、19歳で改宗しました。ヒジャーブ(イスラム教のスカーフ)を身に着けていますが、以前の服装に比べて私はずっと自由です」(ジャック・ドイル氏による英デイリーメイル紙への寄稿記事より)

 どこが自由なのか。こう説明する。「自分の逃げ道が見つかったことに感謝しています。1日5回礼拝するのが幸せでモスクに通い、イスラム教の授業も取っています。おかげで私は壊れた社会とその期待に対する奴隷ではなくなったのです」(同前)

 米プレイボーイ誌の元モデル・ジャミーも似通った理由を挙げる。彼女が気に入ったイスラムの教えは「女性を尊重する点」だという。改宗すると女性として束縛を受ける印象を受けるが、どうも違うらしい。「男性が女性の外見によって惑わされることをイスラムの教えはちゃんと理解しています。女性が服の下に持っている魅力を分かっているのです。一言で言えば『セクシュアリティ』のことです。イスラムはその男女関係をリスペクトしていて、それに気づいたときイスラム教は私の心を捉え、改宗しようと思ったのです。今、私はヒジャーブを被ります。みんなに私がイスラム教徒だと知ってほしいからです。この姿が私は誇らしく幸福です。神が誰にでも宿るというのを示したいからです」(www.onislam.net)

 快楽主義や男性からの性的扱いにうんざりした彼女たちは、イスラム教が健全で秩序正しい生活を提供する基盤になると認識したのだろう。その規範は社会において男女間の適切な距離を要請するが、彼女たちは、それを束縛とはとらえないのだ。

 ここまでは若い女性のケースをみてきたが、若い男性の場合はどうなのだろうか。

 男性の改宗者はイスラム教に生き方の指針を見出す傾向がある。

 筆者が取材したところ、「イスラム教は人生に規律をもたらし、自分を評価する基準となる。どの行動が許され、どの行動が禁止されているかを明確にしてくれるのが魅力だ」といった声が聞かれた。

 イスラエルのバルイラン大学のチャイ・ケダル博士は次のように語る。

「機能不全もしくは離婚した家庭に育った人、アルコール依存症や麻薬患者の両親に育てられた人にとって、イスラム教が厳格であるほど、悩みや迷いに対して規範や行動の枠組を与えてくれたと感じるのです」

 とはいっても、一日五回の礼拝など、戒律を日々実践するのは大変ではないのか? 筆者のそんな疑問に改宗者の一人は「自分自身を強くし、自信になります。夜明けから日没まで継続的に神とコンタクトすることで、人生の道筋が明確になり、日々の労苦について助けを求めることができます」とあくまでストイックだった。

アメリカ軍兵士が改宗した理由

 改宗のきっかけは自分が身を置く社会への疑問や違和感、不満だけではない。

 イスラム世界を旅して改宗を決断する者もいる。

 例えば、元イギリス首相トニー・ブレアの義理の妹でジャーナリストのローレン・ブースは取材で訪れたパレスチナで「イスラム教徒の寛容さに感動した」(キャリーザライト・イスラム会議講演「イスラムへの航海」)ことで改宗を決意した。

 モスクを訪れて、「十字架やキリスト像、マリア像のない」シンプルな美しさに魅せられたとの証言も多い。そうした改宗者は元々、キリスト教会にある偶像に違和感を持っており、モスクではイスラム教における人間と神の直接的関係が説得力を持って迫ってきたと回想する。

 中東駐留中にイスラム教に魅せられ、改宗するアメリカ軍人も少なくない。「湾岸戦争時、サウジアラビアに滞在した兵士のうち、3000人が改宗」(www.islamicvoice.com)したという。彼らは改宗後、軍内での宣教役を務めている。アフガニスタンやイラクへの駐留でさらにその数は増えている。次のように語る改宗兵士もいた。

「日本や韓国で駐留していたが社会に馴染めなかった。サウジにきて初めて、歓待され心を動かされた」(同前)。普遍宗教と島国の懐の違いが現れているのか……。

 イスラム世界へ旅行や駐在までせずとも、近所の影響で改宗したとの証言もある。

「アパートの隣にたまたまイスラム教徒が住んでいた。コーランの一部を読んで聞かせてくれたとき、そのアラビア語の美しさが私の心を捉えた」(www.islamicgarden.com)

 これと似たきっかけで改宗したのがイギリスのミュージシャン「キャット・スティーヴンス」(ムスリム名ユースフ・イスラーム)だ。休暇中のモロッコで、アザーン(礼拝への呼びかけ)が耳に入ってきた。その"サウンド"に魅了され、何の音楽なのかと地元民に質問したところ、かえってきた答えは「神のための音楽」だった。この答えは「お金のための音楽」「名声のための音楽」「自己顕示のための音楽」にどっぷりと浸かっていた彼に深い衝撃を与え、改宗に至った(yusufislam.org.uk)。

 男女関係や社会慣習とは関係のない理由を挙げる改宗者もいる。

 オーストリアの科学者で改宗したアミーナ・イスラム博士は次のように語る。

「コーランは私の神と世界の概念に確証を与えてくれただけでなく、自然科学の分野から見ても全く現実と矛盾していない教えであることがわかりました」(islam.ru)

 具体的には地動説を示唆するコーランの章句(第二一章「預言者たち」三三節など)を例に挙げる。これは「啓示された七世紀のずっと後に発見された科学的事実」であることから、イスラム教徒はその章句を引用して、しばしばコーランが「神の啓示」であることの証明だとする。

解放とルーツの再発見

 現代科学との整合性に加え、人種への偏見が少ないことも欧米人を惹きつける要素として見過ごせない。この点に惹かれて改宗するのは、アフリカ系アメリカ人が多い。

 アフリカ系アメリカ人の改宗の多くは、映画『マルコムX』や『ルーツ』で描かれたように、白人優越社会すなわちキリスト教社会から解放されることや、自分のルーツをアフリカのイスラム世界に再発見することを目的としてきた(奴隷として売り飛ばしたのがイスラム教徒のアラブ人貿易商であることはあまり知られていないが)。その代表例は元世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリ(改宗前の本名カシアス・クレイ)だ。その転向は日本でもよく知られているだろう。

 服役中に改宗するアフリカ系アメリカ人も多い。著名人では同じく元ボクサーのマイク・タイソン(イスラム名はマリク・アブドゥル・アシス)が挙げられる。彼は『真相 マイク・タイソン自伝』で次のように書いている。

「刑務所で初めてイスラム教を知ったとき、その宗教に対して俺は敵意に満ちていた。俺が信じることを信じないやつは敵だった。勉強するにつれ、それは違うと気づき、謙虚になった。弱い人間になったかというと違う。神様に対して謙虚なだけだ」

 アメリカの刑務所には必ずチャプレン(施設付き宗教者)としてイスラム教イマーム(指導者)がおり、彼らが囚人を改宗へと誘う。

 改宗者の証言記事や動画を何百と当たっていったとき、改宗者が共通して語るのは「自己変容」である。  空虚だった人生に意味がもたらされ、混乱していた人生に調和がもたらされた。絶望していた人生に希望がもたらされた。それぞれが自分の境遇に平安を見出せた。そのような告白が続く。

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