記事

スマホとSNS時代という新しい時代の子育て/桑崎剛氏インタビュー

1/2
内閣府「青少年インターネット利用環境整備・普及啓発検討会議」委員長の桑崎剛氏

スマートフォンの急速な普及が、通信事業のみならず世界経済を一変させつつある。国民全体がICT(Information and Communication Technology)に触れる機会が増大し、子供から高齢者まででが、そのメリットを享受する一方で、情報モラルや情報セキュリティなど、国民全体の情報リテラシーの向上が求められている。

以前から懇意にして頂いている、教育ICT、情報モラル教育分野のスペシャリストであり、内閣府「青少年インターネット利用環境整備・普及啓発検討会議」委員長の桑崎剛さんに情報モラル教育の最前線についてお話を伺った。(聞き手として、幼児向けオンライン英会話事業を展開する、株式会社ハグカムの道村弥生社長にも加わってもらった。)

◆情報モラル教育をライフワークに

片岡:教育ICT(Information and Communication Technology)をやろうと思ったきっかけはなんですか?

画像を見る

桑崎:私の教員人生自体がICTと共に歩んできたというところがあります。ある時から学校でパソコンを使うことになりましたが、2000年を超えてからは、ITではなくICTと言われるようになり、IT機器がコミュニケーションツールとなると考えました。そんな折に「ガイヤの夜明け」というテレビ番組に出演し、子供たちのネットの扱い方について取り組んでいたことを紹介する機会がありました。それから情報モラル教育が自分のライフワークかなと思うようになりました。

◆アナログの勉強がさらに大事だということを見直す

片岡:スマホに関して言えば、良くも悪くも子どもたちの間では使うことが当たり前になってきています。「どのように使わせるか」が課題になってきていますね。

桑崎:2010年より前は、バイクと同じようにもう「使わせるな」「所持させるな」という世の中の雰囲気が強くありました。今でもそういう雰囲気の地域はあります。全国的にもかなり温度差があります。ただ、将来自動車の免許をとらないという子どもは多分一定の割合でいるんですが、モバイル機器、ネット機器をプライベートなり仕事で使わずに済むということは多分あり得ないですね。トラブルを起こさずに賢く使うためにはどうすればいいかというのをやっと教育機関では取組始めたところなんです。

画像を見る また、実態として高校生はスマホの所持率が急速に広まったという現実があります。結局連絡手段として使わざるを得ない状況です。部活の連絡や友達同士の連絡。あるいはスマホで勉強するという時代を迎えています。その中で、スマホの賢い使わせ方については教師も子供たちもまだまだ模索しているところです。

例えばこれは小学生の例ですが、牛乳パックから、トイレットペーパーが作れるということはわかっています。「何個分あれば1個のトイレットペーパーになるか?」という質問に対して、ネットでどう検索すればいいか。答えは6個なんですけど、「牛乳パック」と「トイレットペーパー」だけで検索したら、山のように検索結果はヒットしてしまいます。しかし数分で6個が探せた子に聞いたら、「再利用という言葉も入れればいい」と。

画像を見る 検索の仕方一つも、実は小学生でも発想豊かな大人以上の検索、目からうろこの検索ってあるんですよね。これが「再利用」の問題だと気づくということは、ネットが詳しいとか、ITの技術とはなんら関係がありません。この問題で一番大事なキーワードは、『再利用、リサイクルだって気づく』ということ。社会の出来事に関心があってニュースを読んでいると、そういうことが肥やしになります。上手にITを使うためには、きちんとしたアナログの勉強が大事だと見直すのが、今ネット社会が行うべきことかなと思います。

◆ICTの問題点と解決の糸口

片岡:現在、旬で課題となっているICTの問題は何でしょうか。

桑崎:関係者で話題になっているのは、「幼児スマホ問題」ですね。0歳児から使わせるなど、この2年くらいで環境は激変しています。赤ちゃんの「ガラガラ」は今やスマホですし、「鬼から電話」という、子供を躾けてくれる、叱ってくれるようなアプリがすごく使われている。今の幼稚園、保育園の親御さんたちは35から40ぐらいの世代なんですけど、これが悩ましい世代で、20歳の時ぐらいが2000年。日本のネット社会と青春期を歩んできた人たちなんです。

今みたいに情報モラル教育も小中高でのこういう取り組みもしてなかった時代ですので、残念ながらちょうど世代的に情報モラルの教育を受けることなく親の世代になった。そして今スマホ・タブレットが手元にあるという現状です。

◆ICT教育の良い影響は?

道村:いわゆる知育みたいな観点のアプリケーションや、動画でも勉強っぽいもの等がありますが、それが今までのように絵本ではなく、スマホを使うという形で教育に入れられたことによって、子供に対する良い影響はあるとお考えですか。

画像を見る

桑崎:鹿児島県のつるみね保育園の例ですが、園児を集めるのに苦労していた保育園が、園児が集まる有名な保育園になりました。ここでは9割のアナログ教育と1割のICT教育を標榜しているんです。ipadが園長先生の1台だけで、1週間に1回、1時間しか使わないですけど、それがすごく活きてるんですよね。

やっていることはコミュニケーションとプレゼンテーション能力。iMovieを使って子供が映してきた映像にコメントをつけて、週に1回順番にプレゼンをさせるんです。例えば養豚農家の子供は家の豚を撮ってきて「うちで豚を養っていまーす。」という風に。

道村:自分の好きなことを自分で話すんですね。

桑崎:「豚かわいいです」とか「うちの豚は鹿児島黒豚だから黒いんです。」という感じです。すると他の園児が「豚って臭くないですか」と聞く。それに対して「臭いです。でもかわいいです」とか、本当にそのレベルのプレゼンで、小学校中高学年のレベルなんですけど、園児でもやれるんですね。

道村:コミュニケーションツールとして使っているということですね。

桑崎:他にも「うちのおじいちゃんこんな人ですごく面白いんです」と言っておじいちゃん映してきて、実際のおじいちゃんもその場に登場してみたり、山形の保育園と結んで鹿児島側は半袖で、山形は雪が残っているのを映して、「日本ってこんなに広いんだよ」とか。

片岡:アナログでできることをオンラインでやるのではなく、オンラインでしかできないことをオンラインで最小限やっているということですか?

画像を見る桑崎:そうですね。しかも9割のアナログを大事にしているという。

道村:デジタルが1割入ることによって、いわゆる新しいスキルみたいに子供たちに養われる。その保育園は、コンセプトとしては何を養っているんでしょう。いわゆる学力とかではないですね。

桑崎:直接的ではないですが、学力の下支えになっている力を育てていると思いますね。園長の杉本先生が、今は小学校3年生となった元卒業生の園児のお母さんから、「先生の保育園に通わせたのでうちの子の好奇心スイッチは今もONのままです」というようなメールをよくいただくとおっしゃっていました。これって勉強というのは「勉強させる」のではなくて、「勉強のスイッチをどう入れてやるか」なんですよね。

ところが、ICTを導入するとか使うとかが目的の授業や取組は、概ねよくないし、評価されないし、成果があがらないんですね。

道村:発展したICT系のサービス、いわゆる人工知能とかAIなどのタブレットが出てくるほど、先生の存在意義とはなんだろうとか、チューターみたいな立ち位置でいいのか、昔でいう、「教育者=聖職者」みたいな部分がどんどん削られているのかなという気もしますが、その点についてどう思われますか?

桑崎:本質的なことはやはり機械じゃ無理だと思うんです。イノベーション自体は人間が考えないとだめなので、そのための補助ツールとしてICTはあり得るとは思うけど、機械自体がイノベーションを考えるということは、時代がどんなに進んでも難しいのではないかと個人的には思っています。だから素晴らしい教師というのは、子どもに応じて的確なアドバイスをするとか、その場をわきまえるとか、子供たちがまとまっているクラスというのは実にいい話していますもんね。担任が。

道村:やっぱり先生の力ですよね。そこは。

画像を見る桑崎:クラスを盛り上げるとか、チームワーク、結束力、ぎすぎすしたクラスになるのか、すごい思いやりのあるクラスになるというのはやっぱり教師の力。そういうことはICTで絶対できないです。自分のことを認めてくれる、評価してくれる先生を好きになりますよね。ないがしろにする先生はやっぱり好きにならない。

道村:先生と生徒と親は、子供の成長に寄与する三角関係だと思いますが、どのような位置関係がベストな三角関係だと思いますか?

桑崎:子育てを共に担っている共同教育者。親は家庭という立場で、教師は学校というフィールドで、共にその子の成長を支援しているという、そんなスタイルですね。

例えばパイロットと副操縦士がいて、どんな関係かというと、機長が絶対的な権限をもちます。その飛行機に関しては。じゃあ副操縦士は従うかというと、実は従っていない。協同運航者なんです。主と従じゃないんですよね。

あわせて読みたい

「メディア・リテラシー」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「2021年になって未だに?」 NHKきっかけに日本のFAX文化が世界に 海外からは驚きの声

    BLOGOS しらべる部

    07月29日 17:14

  2. 2

    都の感染者が3865人のからくり 検査数が増えれば陽性者数も増える

    諌山裕

    07月30日 13:07

  3. 3

    五輪で弁当4000食廃棄にショック 河野大臣も驚きのけぞる

    柚木道義

    07月30日 10:28

  4. 4

    不気味に大人しい小池百合子知事、目線の先にあるものは…?ワクチンの集中要請と追加経済対策を急げ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月30日 08:12

  5. 5

    もう、オリンピック・ムードに浸り続けるのは無理なんじゃないかな

    早川忠孝

    07月30日 08:37

  6. 6

    感染爆発の震源地 選手村のPCR検査は極めてズサンだった 

    田中龍作

    07月30日 09:14

  7. 7

    ニュースの見過ぎで疲れた人にすすめたい「ニュース・ダイエット」

    御田寺圭

    07月30日 10:35

  8. 8

    「ここまでのコロナ対策が失敗だったと認めた方がよいのではないか」杉尾秀哉議員

    立憲民主党

    07月29日 19:13

  9. 9

    コロナ感染急拡大で日本医師会が緊急声明、全国への宣言検討を

    ロイター

    07月29日 20:40

  10. 10

    列車内での飲酒について、JR北海道から回答「お客様に強制することは大変難しい」

    猪野 亨

    07月29日 10:28

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。