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親に気持ち良く生前贈与してもらうには - 運を逃がさない人になる全課題

税理士・公認会計士 天野隆 構成=大塚常好 撮影=堀 隆弘

妻と子どもは連れていかない

「遺言書はできるだけ早く書いてよ、相続が争続にならないようにね」

40~50代の子どもが、70~80代の親にこう言ったら、恐らく親は相続対策に関与したがらなくなるでしょう。そう私が考える根拠を述べる前に、相続・贈与税の現状と今後の動きを確認しましょう。

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相続税は、2015年から基礎控除縮減と税率アップにより増税されました。一方、贈与税も同じく改正され、例えば課税額が400万円なら現行の税率20%から15%となるなど、比較的少ない額の場合は減税となります。

贈与税には暦年課税(財産をもらった人が1年間に受けた財産の合計額に対して課税)という制度があります。基礎控除額は110万円。つまり、1年間に贈与された金額が110万円以下なら税金はかかりません。

さらに、15年12月までは30歳未満の子や孫に対する教育資金の一括贈与(信託銀行といった金融機関に信託などをする)が1500万円まで非課税。そうした背景もあり、現在はちょっとした生前贈与ブームです。

冒頭のシーンに戻りましょう。

50代になった男性の多くは妻子を持ち、住宅ローンを抱え、子どもの教育費負担に苦しんでいます。可能ならば、親に支援をお願いしたい。そんなときどう言えば、老いた親は生前贈与や相続対策に前向きになってくれるのでしょうか。

タブーなのは、前出のような「直言」。理由は、子どもが親を「じきにこの世を去る存在」としか認識していない発言だからです。そもそも親の心理としては子どもを大人に育てあげた段階で、「お役御免」といったところ。相続税に関しても、実際に税金を払うのは自分ではなく子どもだから、あまりピンとこない。それがごく普通の親の感覚です。

でも、親が一切、生前贈与に応じないわけではありません。子どもがステップをきちんと踏めばいいのです。主な流れは次の通りです。

(1)子どもが親を思う気持ちを表明する。(2)それによって親子の信頼関係が強まり、親が子どもに自分の死期(葬式や終末医療など)についての考えを語り出す。子どもはそれをよく聞く。(3)そうしたやりとりがあったうえで、親が自主的に贈与や相続、遺言に関して取り組むようになる。

特に大事なのは、(1)のステップです。担当した事例を紹介しましょう。

55歳の男性Aさんは親の住む実家を「自分の子どもに伝えたいから家系図を調べたい」と訪ね、あれこれ親戚関係の名前を聞きました。

57歳の女性Bさんは、「父さん、母さんが新婚時代に住んでいた場所へ行きたい」と申し出て、共にセンチメンタル・ジャーニーをしました。

52歳の男性Cさんは自分の誕生日に母へ手紙を送りました。「僕を生んでくれてありがとう」。母親は、「これまでの苦労が報われた」と感じ、相続対策の相談のため私の事務所にやってきました。

以上3人の共通点は、生前贈与や相続といった言葉を親にあえて言わなかったこと。親は子どものそうした行動に、驚くとともに「ああ、自分(たち)に興味・関心を持ってくれている」と、とても嬉しく感じるのです。自分の気持ちや思い、そして生きてきた長い道のりを、子どもを含む後の世代が引き継いでくれる。親はそう感じると、再び子どものために「何かしてあげたい」という欲求がむくむくとわきあがってくるものです。

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相続税対策に成功したケース

そうなれば、もはや子どもが特別に何かすることはありません。ただ、(2)の段階で、親の希望をしっかりと聞くということも大切です。さらに言えば、(1)も(2)も(3)も、親と直接話すのは、子ども(息子か娘)に限ります。子どもの伴侶(妻や夫)や孫などは同行しないのがポイントです。

親にとって、嫁や婿は近しい関係とはいえ、血がつながっていません。孫も小さい頃はかわいいけれど大きくなれば……。唯一、何歳になろうと目の中に入れても痛くないのは、実の息子・娘だけなのです。

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