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またニセ医療に子供が殺された

 また卑劣なニセ医療によって子供が殺された。
 糖尿病を患っていた7歳の子供に、適切な医療を受けさせないようなアドバイスをして死亡させたとして、自称「祈祷師」だという60歳の男が殺人の容疑で逮捕された。

 調べによると、男は子供の両親に対して「腹の中に悪魔がいる」などとして、治療のために必要なインスリン注射を辞めさせ、結果として死に至らしめたということだ。

 両親はインスリンの注射を嫌がる子供をかわいそうに思い、祈祷師の男にすがってしまったという。(*1)

 去年にも「ズンズン体操」という子供を激しく揺さぶる運動法で、子供が亡くなった事件を記事にしたが(*2)、この手のニセ医療はあとを絶たないようだ。

 死亡した子供は1類糖尿病という重度の糖尿であり、1日に4回以上のインスリン注射を行っていたと思われる。そのたびに大泣きしていたのであれば、ご両親の心労は如何程ばかりだろうか。そうした両親の苦悩に付け込み、金を巻き上げた挙句に子供を見殺しにしたのが、今回の祈祷師の男であり、そのやり口は卑劣という他ない。

 しかし、そうした卑劣な行為は、決してどこかの街中に潜む、怪しげな人間だけが行っていることではない。それどころか、マスメディアや行政がニセ医療に加担していることも決して少なくない。

 例えば、「ガンは治療してはならない」などという、ありえない放言を行う医師が、さもガン治療の権威であるかのように、平気でメディアに出演して紹介されている。そして、その治療を元にした感動ドラマが放送され、それが東京都の「優良映画」として青少年の健全な育成に有益であると推奨されるなどということが、実際に起きている。(*3)

 こうしたことは、決してメディアの無知だけで起きていることではない。

 ネットメディアが刺激的な見出しをつければページビューが跳ね上がるのと同じで、それこそ「ガン治療に殺される!」とか「アトピーにステロイドは危険!」といった、標準治療に異議を唱えるかのようなセンセーショナルな見出しを付けた本が出版されると、それが売れてしまう。

 するとマスメディアは「○○万部のベストセラーを出した大先生」として、こうしたニセ医療を行うでたらめな人間を、さも「標準医療を否定する、患者本位の素晴らしいお医者さん」であるかのように仕立てあげてしまうのである。

 そこには「標準医療を否定するようなお医者さんには、支持者が付いている」という計算が存在している。メディアは番組や記事を見てもらうために、こうした刺激的なことを口にする人たちを重用し、宣伝の場を与えてしまうのである。

 医療というのは、多くの医者たちの知識によって、ゆっくりと、しかし確実に発達してきた技術である。だからこそ、標準医療は、多くの人たちの病気を治したり、病状の進行を遅らせることができる。

 ところが、こうした標準医療を良しとしない患者もいる。理由は今回のような「インスリン注射を毎日何度も打たせるのは不憫だ」といった医療の辛さから逃れるためものや、「治療に時間をかけたくない、すぐ治ってほしい」という安直な欲望であったりする。

 また少し前にTwitterに「標準医療という言葉は、松竹梅で言うところの「竹」だと思っている人が居るのではないか」というツイートをしていた人がいたのだが、なるほど、芸能人などのセレブが時折この手の高額なニセ医療に引っかかるのは「標準ではない、スペシャルな治療を受けたい」と考えているかと合点がいく。

 そうした患者たちが様々な理由でニセ医療を支持し、当人たちからすれば「善意」でそれを周囲に教えたりする。そうしたことでニセ医療は草の根的に支持され、またそうした医療行為を続けるだけの資金が回っているのである。

 大人がいろんな理由でニセ医療を賛美し、その結果、自身の病気が悪化して死んだところで、それは当人の選んだ道だから仕方がない。しかし、今回犠牲になったのは、自身で選択などするだけの知識もなければ権限もない子供である。

 こうした事件が起きた時に「祈祷師が悪い」とか「騙された両親が悪い」と断罪して溜飲を下すのは簡単だ、しかし実際にニセ医療は私たちの社会全体に喰らいついている。

 このような状況が続く限り、いずれ別の子供が死ぬし、今でも標準医療を取り上げられ、無駄に苦しんでいる子供が居るであろうことは、疑いようがない。

 私たち大人が積極的にニセ医療を社会から切り捨てないかぎり、悲劇は何度でも繰り返されるだろう。

*1:<糖尿病小2死亡>両親「わらにもすがる思い」容疑者に依頼(毎日新聞)
*2:親の純粋な良心が、子供を危機に追い込む(BLOGOS 赤木智弘)
*3:優良映画の推奨及び不健全な図書類の指定について(東京都)

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