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シンガポールはグローバル企業へのスプリングボードになる

PRESIDENT 2015年12月14日号

ASEANの中核国家で、安定した政治体制と世界的な物流ハブを持ち、マルチリンガルのビジネス人材を擁するシンガポール。この国からは、人的、文化的につながりの深い中国やインドへの進出も容易だと、建国当初から、日本企業の進出支援を続けてきた経済開発庁長官は力説。事実、これまで多くの日本の中堅企業が、この国への進出を契機に、ビジネスを拡大させ、名実ともにグローバル企業に成長していった。

製造業がGDPの20%を占める工業国家

先日、JETRO(日本貿易振興機構)が発表した2014年の日本の対外直接投資統計によれば、日本からの投資先上位3カ国の金額は、それぞれ421億1300万ドル、82億6700万ドル、75億8100万ドルだった。

桁違いに大きい1位は米国で2位は英国。3位にランクインしたのは中国ではない。国内市場規模で見れば中国の何百分の1しかないシンガポールだったのだ。

シンガポールといえば、観光や金融立国というイメージが強いが、実は製造業のGDPに占める比率が約20%と、日本と同様の工業国家なのだ。

「一般の方々が驚くのも無理はないでしょうね。シンガポールは島国で、製造業のエリアは西側と北側に位置するため、観光客の目に触れることはまずありませんから」

にこやかに語るのは、シンガポール経済開発庁(EDB)のベー・スワン・ジン長官だ。

「幅広い産業を育てていれば、ある産業が低迷しても、経済に与えるダメージを抑えることができます。また、日本やドイツなど技術に強い国を見ればわかりますが、技術を有効に活かし、新技術を生み出せる国であり続けるには、製造業を育てるほかありません」

 

巨大成長市場と多様な産業プラットフォーム

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シンガポール経済開発庁長官
ベー・スワン・ジン
シンガポール国立大学医学部を卒業後、米国スタンフォード大学経営大学院で経営修士号を取得。1992年にEDB(シンガポール経済開発庁)に入庁。法務省事務次官などを歴任し、2014年12月より現職。

なぜ日本からの投資額が英国と肩を並べる水準なのだろうか。

第1に地の利が挙げられる。人口6.2億人、2.4兆ドルの市場を持ち、世界の成長エンジンと評されるASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国の中心にシンガポールは位置している。

「ASEANの市場は巨大で、経済成長率は年率5%を誇ります。しかも10カ国もあるので、例えばタイが経済的に低迷していても、ここ数年はインドネシアが好調というように、全体としての成長が維持できています」

第2は国家としての安定度だ。政治の透明性が高く、著作権保護や知的財産権保護の制度が充実している。

「シンガポールは政治の安定や行政・法制度の透明性に強みがあり、ビジネス環境は明快で確実性があります。こうした信頼性、確実性は、日本企業、とりわけグローバル化の第一歩を踏み出そうとしている企業にとって大きな魅力といえます」

第3は質の高い人材にある。

「国を挙げて教育に力を入れてきました。数学や科学の能力は突出しています。きちんと規則やルールを守れば高品質につながることを心得ているので、指示された手順を的確に実行して、期待通りの成果を出します。こうした教育や文化が根付き、日本人に近い価値観や労働倫理観を持っているのです」

さらに注目すべきは、その優れた言語能力だ。

「英語と中国語、あるいは英語とマレー語(インドネシア語の兄弟言語とされる)のバイリンガルが多く、日本企業が英語圏、中国語圏、マレー語圏(+インドネシア語圏)に事業展開するうえで必要なグローバル人材を確保しやすいのです」

しかも、彼らは常に変化する現地ニーズを確実に把握していることも強みだ。だからこそ牧野フライス製作所や横河電機、シマノをはじめ、多くの中堅企業がシンガポール進出後に現地経営陣に信頼を寄せ、安心して事業運営を任せてきたのだ。

グローバル企業へのスプリングボード

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左:シンガポール製造業躍進のきっかけとなったジュロン島(工業団地)。世界の主要なエネルギー・化学企業が拠点を置き、一大エコシステムを形成している。右:物品の移動、溶接、組み立てなど、多種多様な作業を行える産業用ロボット。アジア太平洋地域では中所得層の増加を背景に高付加価値製品に対する需要増も期待されている。

シンガポールは単にASEANへのゲートウェイだけではない。その先の、さらに巨大な市場とつながっている。

「例えば日本企業が中国で事業展開する場合、両国の歴史的な事情が立ちはだかる恐れがあります。その点、シンガポールには中国語を話し、中国の文化を知悉し、中国ビジネスに精通した人材が揃っています」

また、これからの有望市場であるインドへのアクセスも容易なのだ。

「シンガポールとインドは緊密な通商関係を築いており、さまざまな貿易協定が結ばれています。インド系シンガポール人も多く、現地ビジネスに通じた人材、パートナーが豊富なのです」

さらにシンガポールでは、建国以来、輸出重視の国家戦略を掲げ、さまざまな国々との自由貿易協定(FTA)を積極的に結んできた。日本が2002年に初めてのFTAを含む初の経済連携協定を締結した国がシンガポールだったことは注目に値する。シンガポールはFTA締結国数で世界トップクラス。それだけにシンガポールの港湾・空港は圧倒的な利便性を誇り、世界トップクラスの物流ハブとなっている。国土としては小さいが、実質的な経済圏、貿易圏にまで視野を広げると、とてつもなく大きな可能性を秘めている。

こうしたシンガポールには多くの日本企業が進出している。製造業だけでも住友化学、セイコー、村田製作所、ヤマザキマザックなど日本を代表するメーカーが進出。村田シンガポールなどは現地で約1000人以上も雇用するなど、一大生産拠点を確立している。

また、自転車部品で知られるシマノ、技術力で知られる化学メーカーのデンカなどは、シンガポールに拠点を持ったことをきっかけに、グローバル企業へと成長した。

中規模ながらキラリと光る技術を持つ企業にとって、シンガポールは東南アジアの成長を取り込みながらグローバルカンパニーへと飛躍する格好の場なのである。

「これからはとくにロボット、ICT、3Dプリンティングなどの分野でグローバル・リーダーの座にある日本の中堅企業に、シンガポールを活用していただきたい。確かにビジネスコストは安くはありませんが、政治的不確実性に悩まされることもありません。きちんと先が読める確実性と安全性があるのです。これから伸びようとしている企業が初めて海外進出する際、リスクや不確実性を最小限に抑えることは非常に大切だと思います。建国当初から日本企業の進出を支援してきた私たちEDBが、全面的に支援します。ぜひシンガポールをグローバル企業へのスプリングボード(跳躍台)として活用してください」

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