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ミャンマー・カチン州の和平の展望と、ミッソンダム建設凍結地への潜入

 11月8日に行われたミャンマー総選挙の監視活動に『ミャンマーの民主化を支援する議員連盟(会長:中川正春衆議院議員)』の一員として参加した後、ミャンマー北部カチン州に移動し、人々の投票行動の背景になった状況を調査すべく、様々な関係者との意見交換、および視察を行いました。

1.面会・視察を行った団体・個人、および場所

11月9日(月)
①カチン独立組織(KIO)ミッチーナ事務所事務局長 ヘンリー氏
②カチン独立軍(KIA) 大佐、少佐、キャプテン等の軍人
③ミッソンダム建設により居住地を追われた住民グループ
④ミッソンダム建設『凍結』現場
⑤ミッソンダム建設のために居住地を追われた住民の再定住村

11月10日(火)
⑥平和のための対話促進、仲介を行うNGO『Peace-talk Creation Group(PCG)』
⑦国内避難民を支援するクリスチャンの女性グループ
⑧国内避難民キャンプ

①〜⑤はKIOのヘンリー氏、⑥〜⑧はカチン州における様々なネットワークを持っている上村真由氏の案内で阪口直人、小市琢磨が訪問しました。

 まず実感したことは、報道において政府との停戦協定を結んでいない『反政府武装勢力』と称されるKIO/KIAは、カチン州において人々から広範な支持を得ていることです。その大きな理由が、カチン族の人々は連邦政府における自治を求めていること、そして、カチン民族のアイデンティティーともされるミッソン(川の合流地点の意味。ミャンマー最高峰カカボラジなどヒマラヤを源流とする川が合流する聖なる地)において、環境破壊、住民無視の象徴とされるダムが建設されていることです。『凍結』とはされるものの、いつ再開されるかわからず、十分な住民補償、そして原状回復が行われていないことが政府に対する不信感を生み出し、反政府勢力への期待を高めています。

 カチン州においては、多くの民族政党が候補者を擁立した一方、最大勢力であり、広範な支配地域を持つKIAは選挙には参加しませんでした。その結果、NLDが圧勝。KIOはNLDとは公式には協力関係にはありませんが、間接的にはサポートを行う。そして、NLD政権誕生を見越して、停戦協定は新しい政府と締結する考えであると見受けられました。

 様々なアクターにヒアリングを行いましたが、彼らの思い、そして要望は『内戦の終結とカチン族の文化やアイデンティティーを尊重した自治政府樹立』『ミッソンダム建設の中止と環境の回復、約束された補償の実現』の2点に集約されます。従って、団体ごとの視察報告ではなく、ヒアリングで得た問題意識をトータルで考察し、この2点の背景と、現状における問題点、日本として(または民主化支援議連として)どのような対応をすべきか、問題提起をしたいと思います。

Ⅰ.ミッソンダムをめぐる問題の現在地

1.ミッソンダム建設の背景と現状

 ミャンマー北部カチン州、ミャンマー最高峰カカボラジ山などヒマラヤを源流とするメカ川とマリカ川が合流してイラワジ川が始まる地点(ミッソン)で、中国国有企業「中国電力投資公司(CPIC)」が36億ドルを投資してミャンマー企業と合同で2009年から建設を進めてきた水力発電用巨大ダム。(高さ152メートル、設置出力3,600メガワット)

 発電量の約9割が中国に輸出される予定。契約によるとダムは完成後50年間に渡って中国が運営・管理する。開発に伴いカチン族の約50の村が水没し、強制移住される村民は1万人を越えるという。また、カチン州全体の50%に環境破壊の影響がおよぶとされる。

 ビルマ河川ネットワーク(BRN)の2011年7月14日付プレスリリースによると、事業を手掛ける中国電力投資公司(CPIC)は、自らが行った調査で建設を中止するべきという勧告が出されたにもかかわらず、同ダムの建設を推し進めたという。この調査はCPICが全額を負担し、ビルマ・中国両国の科学者らによって行われた。調査報告書はイラワディ川にミッソンダムを建設するべきでないと勧告している。「イラワディ川が生まれる地点(ミッソン)にこれほど大きなダムは必要ない」とのこと。

 CPICの計画はミッソンダムだけではない。イラワディ川の本流および支流でミッソンダムを含む7カ所にダムを建設しようとしている。この調査報告書によれば、それらのダムが建設されればイラワディ川に頼って生活する何百万もの人に影響が出て、多様な生態系を脅かす。報告書は「一連のダム建設によってイラワディ川が分割されれば、ダムの上流だけでなく遠く離れた下流の沿岸地域でも深刻な社会・環境問題が起きるだろう」としている。

 強制的に移住させられた住民によると、この地域に巨大ダムを建設する計画は、2003年に関西電力が調査を行ったことで知ったと言う。その時に現地に置き忘れた計画書が、後にCPICが建設を行ったものと同じであったので、この両者の関係がどのようなものであるのか、逆に質問された。環境破壊の大きさを知って計画を断念したのか、あるいは、日本に調査をさせて、後に中国がより安い値段で落札したのか、事実が判明すれば現地に報告することになっている。

2.テイン・セイン大統領、「任期中は工事を『凍結』」

 2011年3月に発足したミャンマー新政府のテイン・セイン大統領は9月末、軍事政権が進めてきたミッソンダムの建設凍結を突然表明した。

 「我々の声がようやく政府に届いた!」と、周辺の住民は政府の決定を歓迎。工事自体はストップした。しかし、ダム建設現場は現在もCPICが管理しており、ダム建設が本当に中止になるかわからない。中国政府、およびCPICからは建設を中止する正式発表はない。また、ミッソンダム以外の6つのダムも、大規模な環境破壊や、予測不可能な水位の変動、川に頼って生計を建てる住民への社会・経済的被害をもたらす。さらに、数千人規模の住民が移転を強制される可能性があり、決して楽観視はできない。

3.今なお苦境に立つ住民

 また、凍結によって住民の生活は変わっていない。

 この計画によって大きな影響を受ける、もっとも近隣に住む地域住民は4つの村の計約540世帯。立ち退きを迫られ、そのうち327世帯が新しい村(Aung Myin Thar)に移住した。住民によると「生活は今の3倍良くなる」と言われ、決してそのようには思っていなかったが他に選択肢もなく移住した。ところが、実際には粗末な資材を使った家々を提供され、非常に住みにくい。移転先で建設された家は、アジアワールド社が下請けとなりつくられたが、下の方は壁がない、木材の品質も悪い、2−3年で斜めになる、窓が閉まらない、屋根も崩れるなど、住環境は劣悪。今は自分たちで修理改善した。我々の家を作るという建前で、木材をダム予定地の裏山から伐採し、質の良い木材は車で下の方へ運んだ。質の悪い木だけを利用したと感じている。移転先に現在も住んでいるのは子供や年寄りが中心。その他の人は他の場所へ移ってしまった。また、漁業・放牧などで生活を立てているにもかかわらず、その村は車で30分の距離。仕事に大きな影響が出ている。ミッソンにもっとも近い村の280世帯のうち、実際には約100世帯の住民がもともと住んでいた村に戻っているが、不法滞在の位置付けになり、公共サービスは受けられない。女性の視点での問題として、学校などは新しい村にしかなく、子供との関係も分断された。このことにもっとも心を痛めているという。

 この6月には不法滞在であることを理解しろとのレターが政府から届いた。住民は結束して「同意できない」と返答した。凍結期間はテインセイン大統領の任期が終わる2016年まで。その後は再び工事が再開される可能性がある。

 従って、今回の総選挙でミッソンダム建設に強い懸念を表明していたNLDが勝ったことへの期待は大きい。

 一方、CPICが約束した様々な補償はこれまで反故にされ続けている。例えば、鉱山や住民の新たな居住地を含む大規模な土地を提供した事業主は、補償額14億2000万円のうち、2000万円しか補償されていないという。CPICに問い合わせたところ、事前に約束した補償金はすでにミャンマー政府に支払っているとのこと。政府の役人が着服したのか、CPICが真実を述べていないのか、わからない。しかし、約束した補償が行われていないことは大きな問題である。この点については新政権のもとで明らかにする必要があろう。

4.建設現場の視察

 ミッソンダムの建設予定地には行けないことになっている。道路は封鎖され、厳重に立ち入りが禁じられている。しかし、ここまで来た以上は、建設現場が今どうなっているか見る必要がある。住民の方に相談したところ、ボートを出してくれることになった。川においても厳重に警戒されており、監視塔から不審者を見張ることになっている。従って、現場視察は『監視の目をかいくぐって』の行動であった。
川を堰き止めるための橋脚(土台)はそのまま残っている。4年近く放置されているせいか、錆が目立っている。また、建築現場で働いていた中国人労働者の宿舎もそのままの状態で残っている。厳重な監視体制を見ても、いつでも工事が再開できる状態であることは明らかである。これでは周辺住民が不安を抱くのも無理はない。

 この地域は非常に風光明媚な風景である。しかし、ダムができるとこの地域は完全に水没し、聖地であるミッソンはそれ自体がなくなってしまう。また、住民によるとCPICは中国国内では守らなくてはならないルールをここでは守らないので水質は悪化し、漁獲量も激減したと言う。これは、外部から来た業者が、化学薬品を使って砂金を選別する影響もあるという。しかし、それでもこの川はカチン族にとっては聖なる川のようだ。何と言ってもミャンマーに恵みをもたらすイラワジ川が生まれる場所なのである。この地域に観光でやってきた人々が、ガンジス川で沐浴する人々のように、川の水を首筋にかけて祈りを捧げる姿もあちこちで見られた。

Ⅱ.カチン州における和平の実現に向けて

 2011年6月、はカチン独立機構(KIO)とビルマ国軍が、中国が建設しているダムのひとつターペインダム周辺で戦闘を開始した。これにより約3万人が避難したとされる。テインセイン政権下では各州において停戦合意が締結されているが、唯一、今なお戦闘が続いているのがカチン州だ。その主体である反政府武装勢力の行政機構がKIOで、軍事組織がKIAである。

 『反政府武装勢力』との呼称によりテロリストのグループであるかのように思われがちだ。実際に大使館関係の通訳経験が長い女性も、報道からそのようなイメージを持っていたという。しかし私の印象は、カチン民族の自治と尊厳を守るために広範な支持を受けているグループだ。KIOの事務局長ヘンリー氏によると8000人の戦闘員がおり、延べ2万人が動員可能とのことだ。しかし、対話による解決を第一に求めている。NLDへの政権交代はその可能性を高めるものだと思う。

 さて、カチン州には『Peace-talk Creation Group(PCG)』というNGOがあり、平和に向けた対話を促進する役割を果たしてきた。会員は約1000人。この地域にはひすいをはじめとする資源が多いが、事業家のグループが一切の資金援助を受けず、これまで計70万ドルにもおよぶ資金を自己負担で捻出してKIOとミャンマー政府、KIAと国軍の仲介役を務めてきた。日本でも国会で『ミャンマーの民主化を支援する議連』との共催で現地報告会を実施したこの団体を訪問し、これまでの活動と和平への課題について2回にわたって話を聞いた。

1.PCG代表による発言のポイントおよび対話による合意点

 戦争が開始して大きな被害を受けたのは弱い立場の人々であった。ミャンマー国軍兵士によって村は燃やされ、女性たちはレイプされた。日常的な命の危険に晒されるようになった。この状況を打開するため、大統領とKIOの調整役として活動をスタート。中国側の国境の町、チンチョンでKIAと国軍の会談の場を作った。あくまでも中立の立場でこのような対話の場をその後も作ってきた。

 中立的な立場で行動してきたが、今回の選挙でNLDが勝ったことは、より国民の声を聞く政府ができることと期待する。カチン族の多くの人はアウンサンスーチー氏に未来を託す選択をした。将来に希望が見えてきたように思う。しかし、彼女はカチン州の問題については目立った発言をしていない。スーチー氏にカチン州の問題を正しく理解してもらうことが必要である。以前、国軍兵士のポケットから上官の命令としてカチン族の女性を暴行したら10万チャット(現在の闇レートで約10,200円)の賞金を出すという紙が出てきた。どのレベルの上官からのものかは不明だが、実際に数多くのカチン族の女性がレイプされている。国軍が組織的にこのような犯罪を行っている懸念がある。

 平和を実現するにはDDR(武装解除、動員解除、兵士の再統合)を行っていくことが必要。しかし、信頼の醸成と、未来との交換がなければ武器を捨てることは不可能。一方で、国軍のSSR(Security Sector Reform)がまず必要だ。カチン側は連邦国軍になることを求めている。単に国軍に組み入れられることには決して納得はできない。2013年5月にはKIOおよび他の民族代表と政府の代表が初めて国内(国境の町・ライザー)で会った。我々はあくまでも中立な立場で対話の場を作り出していく。国際社会が理解・協力してくれることは必要であり歓迎だ。

2.日本として可能な協力の提言

 PCGは非常に意義のある役割を果たしている。しかし、国際社会による担保も必要になる。この点をどのように日本が果たしうるのか。KIO/KIAと新たなミャンマー政府の仲介役を引き続きになっていくPCGと国際社会を結ぶ仲介役になれる可能性がもっとも高いのが日本だと思う。一方で、これまでの日本は明らかに軍事政権寄りでアウンサンスーチー氏の信頼を十分に得ているとは言い難い。『民主化議連』が果たし得る役割は大きいと思う。
住民の中国に対する印象は非常に悪い。そして、中国にカチン民族の聖地を『売りとばした』ミャンマー政府への不信感は根強く、これらも自治政府を望む根拠になっている。KIOのヘンリー氏も「中国はインターナショナルトラブルメーカーだ」と言っていたが、人々は口々に中国産の食べ物の危険、中国製品の質の悪さなどを訴える。また、難民を受け入れないことへの不信感も強い。ミッソンダム建設においても必要以上に森林伐採などの環境破壊を行い、取り返しのつかない状況につながる恐れがあること、現地住民への配慮などはなく、洪水によっていずれ死ぬことになるだろうなど、中国に対する恐怖心が極めて強い。一方、日本に対する印象はとても良い。このような信頼関係をベースに仲介役を支え、武装解除、動員解除にかかる費用を国際社会が担保すること、また兵士の再統合や難民支援を主導することなどに、日本が主導的な役割を果たせる可能性がある。

 この地域はインド側のインパールにも近く第二次世界大戦における激戦地であり、兵站のない闘いであったインパール作戦で現地に多大な損害を与えたにもかかわらず現地の人々に命を助けてもらった旧日本兵も多いと聞く(阪口の叔父もそのひとりである)

 NLD政権の信頼を勝ち取る上でも、日本はこの地域において和平プロセスの支援、国内避難民などへの人道支援、教育支援、また環境問題への対応を軸とした支援を検討すべきではないか。前身の『アウンサンスーチー氏の解放を求める議連』以来の立場、活動の整合性があり、アウンサンスーチー氏が率いる新しい政権とも信頼関係を構築している『民主化議連』が果たし得る役割は大きいと確信する。国会での問題提起を強く希望する。


内戦で国内避難民になった子供たちと。彼女たちの将来の夢を語ってもらいました。


ミッソンダムへの道は立ち入り禁止になっていました。

ミッソンに向かう途中の村

ヒマラヤからの二つの河が合流し、大河イラワジ川が生まれるところが聖なる場所、ミッソンです。


『凍結』されたミッソンダム建設現場へボートで向かうと20分余りで見えてきました。


巨大な橋脚の真下で状況を視察

橋脚が錆びた状態で放置されていました


私たちの視察は監視されていました。


緑の枠内が環境破壊の影響を受ける場所とされています。広大なカチン州の約半分に及びます。

カチン族の農民の少女

平和に向けた対話を続けるグループPCG


国内避難民を支援する女性のグループと意見交換。その後、歌を披露してもらいました。


カチン族の帽子をかぶせてもらいました。

平和に向けた取り組みはバランスが大切!駒を贈る私。

PCGと二度目の会談

国会での対話の様子が本になっていました。私も載っています。

KIOおよびKIAの幹部との会談。

国内避難民の少女たち。彼女たちの夢を叶えるためには、まずは平和の実現です。

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