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続「疑似カジノ化している日本」なるレポートについて

前回エントリで言及したBig Issueによるレポート「疑似カジノ化している日本」について、Big Issueオンラインの編集長を務めるイケダハヤト氏と直接のやり取りがありました。以下、Twitterでのやり取り。


ということで、Big Issue側の調査責任者と本ブログでの指摘の件を共有して頂けるとのことで、改めて当該レポートの問題点を明確に指摘しておきたいと思います。ちなみに、前回エントリを未だ読んでいない方は以下のリンクからどうぞ。


「疑似カジノ化している日本」なるレポートについて
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9084381.html


本論に入る前に、まず改めて私の立場を説明しておきますと、当該レポートが趣旨としている「ギャンブル依存症対策の拡充が必要である」「現在のパチンコ業界の対策は不十分である」という主張に関しては全く異論をもっていません。というか、多分日本のギャンブル関連業界内で一番口煩くそれを言い続けていて、むしろパチ業界から最も「面倒くさい奴」と思われているであろう業界人の一人が私です。

このスタンスを明確にして置かないと、アイツはBig Issueのキャンペーンを邪魔する為にイチャモン付けてるとか、あらぬ方向から批判をしてくる人が経験上、絶対出てくるので。その点は、ご理解頂いた上で、以下よろしくお願いいたします。

私が、Big Issueによる当該レポートの内容について、この分野の専門研究者の立場として絶対に指摘をしておかなければならない事を端的に表現すると、「アナタ達、己の主張を論証し、世論そのものを煽るために、参考文献等の主張内容を意図的に選別したり、曲解したりしていませんか?」ということです。
 
例えば、前回エントリで私は当該レポートにおける記述に関して以下の点を指摘しています。


曰く
「パチンコは、海外のスロット・マシンゲームとは違って、物語性を前提にして強烈な視覚・音響効果を駆使し、大勝ちの高揚感を繰り返し刷り 込むように開発されてきた」

大変申し訳ないですけど、カジノを専門にする研究者として言うならば「物語性」だとか、「視覚・音響効果」とか、「大勝ちの高揚感」とか、別に海外のスロットマシンとそれほど大きな差はありません。「物語性」に関してはレトリックを求める日本人の方が追及度合は強いでしょうか。一方、音響効果なんかに関しては、海外のカジノスロットの方が日本よりも先を行っています。いずれにしても、両者とも開発側が見ている方向性は大きく変わるものではありません。


もう少し文脈が判るように該当する引用部分の前後部分も含めて改めて抜き出すと、Big Issue側の主張は以下のようなものになっています。


世界的に、電子的ゲーム機械はギャンブル依存症を引き起こしやすいことが実証されているが、とくに日本のパチンコは、ギャンブル依存症を招きやすいものと考えなくてはならない。パチンコは、海外のスロット・マシンゲームとは違って、物語性を前提にして強烈な視覚・音響効果を駆使し、大勝ちの高揚感を繰り返し刷り込むように開発されてきたものであるからである。


これは、当該レポートの要約として記述のある、レポートの前文部分に掲載されている言及なのですが、実はこれと類似する言及が、彼らが参考文献として使用しているEllis & Lewisによる"Pachinko, A Japanese Addiction?"という論文の前文に出てきます。以下、"Pachinko, A Japanese Addiction?"からの引用と邦訳。


パチンコは、英国のフルーツマシン、米国のゲーミングマシン、豪州のポーキーマシンなど、世界的に存在する電子的ゲーム機械と同様の性質を持っている。パチンコは、低い賭け金額で、視覚・音響効果を駆使し、ゲームを高速かつ繰り返し再生し、小さな勝ちの高揚感をしばしば繰り返し演出し、プレイヤーによる継続的な賭けを誘因する。

Pachinko has all the hallmarks and features of gaming machines worldwide, similar to ‘fruit machines’ in Britain, ‘gaming machines’ in the US and ‘pokie machines’ in Australia. Pachinko has a low initial stake; can stimulate visual and aural senses; has rapid and continual cycles of play; provides the opportunity to experience a frequent and regular ‘small wins’ (Griffiths, 1995, 1997, 1999); and can seduce players into continuous play.

(出所:G. Brooks, T.Ellis & C.Lewis : Pachinko, A Japanese Addiction? International Gambling Studies. Vol.8, No.2, p.193-205, 2008)
 

私はこれを剽窃だなどと言いたいワケではありません。問題なのはBig Issue側が、パチンコは「海外のスロット・マシンゲームとは違って」様々な演出でプレイヤーに高揚感を刷り込みむように開発されているのだと主張しているのに対して、彼らが参照している文献の中では明確にこれらは「世界的に存在する電子的ゲーム機械と同様の性質」であるとしている点です。

これは私が前回エントリにおいて、「(カジノとパチンコは)両者とも開発側が見ている方向性は大きく変わるものではありません」とし指摘したBig Issue側の主張の間違いとも一致します。この他にも例えば、Big Issueは自身のレポート内で、以下のような言及を行っています。


海外の研究者の眼には、日本のパチンコ産業は非常にわかりにくい巨大な沈黙の経済セクターと映る。もともと日本のパチンコへの関心は薄く、英語情報は限られているため、海外では一面的なパチンコ観が浸透している。

パチンコは、国際的にみれば EGM の代表的機種であり、ギャンブルである。しかし歴史的には、パチンコは戦後日本で庶民の娯楽や息抜きとして広く社会に浸透した後に、その拡大過程で波状的にギャンブル性を強めてきた。


ところが、これまた同様に彼らが参照しているEllis & Lewisによる"Pachinko, A Japanese Addiction?"はその前文によって彼らの調査の「前提」を以下のように明示しています。以下、同論文からの引用、および邦訳。
 

本論文において、我々はパチンコは「ギャンブルの代用物」であると捉え、その依存可能性に迫っている。そして、例えパチンコがギャンブルの一形態として位置付けられないとしても、現在の日本における(パチンコ)法制改革は、依存症対策としては限定的な効果しかないものと結論付けている。

 Here, we take the approach that pachinko represents ‘gambling by proxy’ and explore its addictive potential. We conclude that unless pachinko is recognized as a form of gambling, present changes in Japanese legislation will be of limited value in tackling addiction.

(出所:G. Brooks, T.Ellis & C.Lewis : Pachinko, A Japanese Addiction? International Gambling Studies. Vol.8, No.2, p.193-205, 2008)


すなわち、彼らが参考文献として挙げている海外論文においては、パチンコが日本の法制化で遊技という賭博とは異なる制度下で扱われていることは明確に認知した上で、「それらが賭博の代用物として利用されている限りにおいては、そこへの依存可能性は存在し、現在の日本の対策は不十分だ」と主張しているワケです。これは、Big Issue側が主張している、「海外の研究者の眼には、日本のパチンコ産業は非常にわかりにくい」だとか、「パチンコは、国際的にみれば EGMの代表的機種であり、ギャンブルである」としている主張とは全く異なります。

ちなみに、ここで繰り返しご紹介しているEllis & Lewisによる「Pachinko, A Japanese Addiction?」は、Big Issue側が今回の調査にあたって参照したとして巻末記載を行っている主要文献の中において、海外研究者の立場で日本のパチンコ産業に対する調査を行っている唯一の文献となっています。にもかかわらず、Big Issue側は「海外の研究者の眼には」だとか「国際的に見れば」などとして、自らが参照した唯一の主要文献と全く異なる主張をレポート上で繰り返し展開しているのです。

繰り返しになりますが、私は彼らがレポートの論旨としている「ギャンブル依存症対策の拡充が必要である」「現在のパチンコ業界の対策は不十分である」という主張には全く異論はありません。しかし、その主張への賛否は別として、その主張を論証するものとして発表したレポートの調査の「在り方」として、今回取られている手法は非常に「不誠実」であるとしか言いようがない。

そして、このように誰かが「調査」という体をもって意図して捻じ曲げて行った「世界では●●」とか「国際的には●●」という記述は、しばしば別論文に引用され、それがまた更に又引用され…という形で、さも真実かのように定着してゆくもの。アナタ達はそうやって社会問題を「煽って」アピールできれば、それで目的達成なのでしょうが、賭博研究を生業として生きているコチラの側からして見れば、正直この種のモノは迷惑以外のナニモノでもありません。

という事で、結論としては前回エントリの最後の数行に書いた記述と全く一緒;


 「問題は問題として正しく指摘すればいい」のであって、何で先入観のみの煽りエピソードとかをイチイチ挟むのでしょうか? それとも、この種の人達は「知りもしない余所の国の話とか持ち出して『海外では』とか『国際的には』とか無駄な煽りをしないと死んじゃう病」か何かなんですかね。そういう病気は早く直した方が良いと思います。


という事であります。

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