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アベノミクスが株高、円安は実現できてもインフレは実現できなかった訳

 今週後半は、クルーグマンの心変わりをテーマにいろいろ考えることができました。

 私は、率直に言って、クルーグマンは自分の主張の一番柱となる部分を変えたと思います。

 だから、インフレターゲットの理論はガラガラと音を立てて崩れている最中である、と。

 何故かと言えば…

 (1)そもそも日本の経済パフォーマンスは決して悪くはなかたった(労働力1人当たりのGDP成長率でみれば、日本は欧米に負けていないし、潜在成長率に近い成長率を維持している)とクルーグマン自身が認めているから。

 (2)日本の自然利子率はネガティブ(マイナス)の状況にあるが、人口減少が続く中、それは永遠に続くように見えるので、人々にインフレが起きると期待(予想)させるのは困難だ、とこれまたクルーグマンが認めているから。

 (3)その一方で、クルーグマンはインフレターゲットをむしろ強化すべき(インフレ目標値を引き上げるべき)で、そのためには積極的な財政出動が必要と言っているが、仮に放漫財政を続けることよってインフレが実現できたとしても、それは人々の期待(予想)に働きかけた結果というよりも、単に放漫財政の結果そうなったというべき性質のものであり、従来の主張とは大きくかけ離れてしまったから。

 それに、かつて、筋金入りのリフレ派は、インフレターゲットを掲げた上で幾らでもマネーを放出すれば、インフレは簡単に引き起こすことができると言っていたことを思い出すべきなのです。つまり、彼らはインフレを起こすのに財政出動など必要ないと言っていたのです。そのことを考えると、財政出動なしにインフレは実現できないとの意見に変更したクルーグマンは、もはやリフレ派と呼ぶのは相応しくないでしょう?

 しかし…それでも私の記事にコメントを寄せてくれた人のなかには、「インフレターゲットの理論自体が崩壊した訳ではありません」と仰る人がいる。

 確かに、クルーグマンは、インフレターゲットを撤回しろとは言っていません。それどころか目標値を引き上げろとさえ言っています。しかし、彼の考え方とインフレ達成のための手法は全く当初のものと変わっているではありませんか。

 だから、インフレターゲットの理論はガラガラと音を立てて崩れていると言うべきなのです。

 但し、リフレ派の政策というか、アベノミクスの金融政策が円安と株高を実現したのは事実。

 それは素直に認めましょう。

 もっともアンチリフレ派の中には、円安になったのはユーロ危機が収束した影響が大きく、アベノミクスはそのきっかけになったに過ぎないという人もいます。

 私も、その主張にはある程度説得力があると思います、しかし、ここは百歩譲って、アベノミクスのリフレ派政策のために円安になったと認めましょう。

 そして、株価の方も、総じてみれば明らかに上昇を続けている。

 つまり、日銀の量的・質的緩和策は、円安と株高をもたらした、と。

 しかし、同時に皆が気が付いていることは、インフレにはならなかったという事実です。インフレ率は、最近、ゼロ%近辺で推移しています。

 では、為替と株価の2つについては良い結果をもたらすことができたのに、物価だけは何故所期の目標を達成できていないのでしょうか?

 何故なのでしょう?

 私は、これは、期待(予想)に働きかける政策が有している限界によるものだと考えます。

 そもそもマネーを市場に大量に放出すると、何故インフレが起きると考えられるのでしょう?

 そんなことを私が質問すれば、恐らく多くの人は、そんなの当たり前ではないかと思うのではないでしょうか?

 何故かと言えば、マネーが大量に放出されると言えば、国民一人ひとりにお金が沢山支給されるようなイメージがあるからです。

 実際にそんなことが行われれば…例えば、毎年政府が国民1人ずつに100万円を支給するようなことをすれば、確かにモノは飛ぶように売れ、従ってインフレになるでしょう。

 しかし、そのような政策は金融政策の範疇にあるものでありません。それは財政政策なのです。 

 金融政策としてのマネー放出策にあっては、国民や企業に国からお金が支給されるなんてことはないのです。ただ、日銀が例えば国債を購入することによって、その代金が市中銀行の口座(日銀当座預金)に振り込まれるだけなのです。

 では、再び質問します。日銀が、金融政策としてマネーを大量に市場に放出するとインフレになると期待できるのでしょうか?

 今度は、「待てよ…」と多くの人が考え込むでしょう。日銀が単に市中銀行から国債を買い上げただけでインフレが起きるのだろうか、と。現に、今その社会実験をやっている最中だが、所期の効果は出ていないぞ、と。

 しかし、その一方で、円安は起きたし、株価も上がりました。

 何故、そのような違いが生じたのでしょうか?

 それは、アベノミクスがスタートし、日銀が市場に大量に資金を放出することを約束したのだから、円安になるのが当然だと漠然と想像した人が多かったからではないでしょうか。そして、その際、重要なことは、円安になるとドル買いによって儲けることができるので、その波に乗らない手はないと思う市場関係者が多かったという事実です。

 だから、ドル買い円売りの連鎖が続き、円安が進行してきたのでしょう。

 ドルの価値が上がるなか、それを黙って見ていると損をしてしまうでしょう? だから、市場関係者は、ドル高に賭けた、と。そして、ドル高に賭けた者が儲ける姿を見て、益々ドル高に賭ける人が増えたのです。

 まさに、アベノミクスを信じればこそ大儲けができたのです。

 同じようなことが株価に関しても言うことができます。

 つまり、マーケット関係者が、心底アベノミクスの効能を信じていたかは別として、結構効き目はあるのではないかと思い、少なくても市場の大勢は効き目があると思っている筈だと感じたからこそ、皆アベノミクスを信じた格好になり、まさに信じる者は救われる状態が出現したという訳なのです。

 では、何故物価の方は上がらなかったのか?

 原油価格が下落したからだ、と言いたい人がいることは承知していますが、それは理由にはなり得ません。何故なら、仮に原油価格下落の影響を除去したとしても、直近の物価上昇率は1.2%程度のもので、2%の目標には依然及ばないからです。

 何故物価については、人々の期待(予想)に働きかける政策が功を奏さなかったのでしょうか?

 それは、為替や株の場合と違い、物価の関しては、モノの価格が上がることが自分たちの利益に直接関係しないから…もっと言えば、為替がドル高円安になり、そして株価が上がれば市場関係者の多くは儲けを得ることができるのに反し、自社製品の価格が上がればむしろ不利になるので、だから物価がそう簡単に上がるとは思えなかったからではないでしょうか。

 端的に言えば、仮に物価は上がるかもしれないと多くの企業関係者が思ったとして、彼らは、自社製品の価格をいち早く上げようとするでしょうか? 或いは、労働者の賃金をいち早く上げようとするでしょうか?

 そんなことはしないでしょう?

 何故かと言えば、そのようなことをすれば、自社の競争力が相対的に落ちてしまうからです。

 企業経営者たちが、自社製品の価格を引き上げようとするのは、原材料費や人件費が上がった後、どうしても値上げしないと利益が確保できないと判断した場合の話なのです。

 つまり、最後の最後まで企業経営者たちは自社製品の価格引き上げを回避しようとする、と。それが自分たちの利益に適っているからです。だから、幾ら日銀が人々に物価は上がるぞと暗示をかけても、人々は動かなかったのです。

 それが、物価と為替や株価の違いではないのでしょうか。

 要するに、為替市場や株式市場は、アベノミクスの信者で溢れかえっているが、その一方で、実体経済の参加者、イコール全ての国民のなかにおいては、アベノミクスの信者は僅かなものでしかなく、また、その僅かなアベノミクスの信者でさえも、自社製品の価格や従業員たちの賃金を上げろという教えにはついて、どうしてもついていくことができなかった、と。

 当たりまですよね、そんなことすれば、自分たちが苦しむのが分かっているからです。

 で、そうなると、物価や賃金に関しては、人々の期待に働きかける政策に効果がないということですから、それでもなおインフレを起したいというのであれば、クルーグマンの言うように国民にお金をばら撒くような手段しか残っていないということになるのです。

 でも、その政策は、改めて考えるとヘリコプターからお金をばら撒く政策のことですよね。

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今週の結論、クルーグマンはベン・バーナンキになった!

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