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インド代理母規制、道を絶たれた外国人カップル

【ニューデリー】米シアトル在住のギア・バセットさんとダグ・スミスさんは2人目の子どもを持つという長年の望みをかなえるため、インドの代理出産サービスを当てにしていた。ところが、インド政府は最近になって外国人への代理出産サービスの提供を禁止。2人は慌てて、自分たちの凍結受精卵をムンバイの不妊治療クリニックから取り戻そうとしている。

 受精卵は「私たちの赤ちゃんです」と37歳のバセットさんは言う。「冷却器に入れてタクシーに乗せ、飛行機に持ち込むことを話し合っています。無事に到着するかどうかは分かりません」

 政府機関であるインド医療研究評議会(ICMR)は先月、国内の不妊治療クリニックに対し、海外の顧客に代理出産サービスの提供を中止するよう指示した。代理出産ビジネスはインドの貧しい女性たちを搾取していると批判されており、政府は規制強化に動いている。

 政府の政策転換でインドの不妊治療ビジネスに衝撃が走った。インドには代理出産を求めて多くの外国人がやってくる。人気の理由の1つは、体外受精も含めておよそ2万5000ドル(約300万円)という価格の安さだ。英医学誌「ランセット」によると、米国で代理出産を依頼すれば費用はその10倍の25万ドルにもなるという。

 これから親になろうとする人たちの間にも混乱が広がっている。インド西部のグジャラート州にある「アカンクシャ不妊治療クリニック」の医長ナヤナ・パテル氏は「非常に多くの人が身動きのできない状態に置かれている」と話す。このクリニックでは、登録している約150組の外国人カップルが卵子を受精させ、代理母に移植する過程の最中にあるという。

 政府のその後の通知で、代理母に受精卵が既に移植された一部のカップルについては、州保健当局に申請して、このまま代理出産を継続できるかどうかを個別に検討するよう要請できることになった。

 インド政府は代理出産ビジネスに段階的に歯止めをかけようとしている。代理出産業界が規制当局の監督がほとんどないまま拡大していると批判する女性の権利擁護者の中には、外国人を対象とした今回の規制を歓迎する人たちもいるが、規制強化は支持するが代理出産の禁止は支持しないという意見もある。不妊治療に携わる一部の医師や代理母は規制をめぐって異議を申し立てている。

 タイ政府は今年、商業目的の代理出産を禁止した。米国では一部の州が代理出産を認めている。インドが外国人を対象とした代理出産を禁止したため、低料金でサービスを提供するのは主にロシア、ウクライナ、メキシコだけとなった。他の国では非営利での代理出産だけが認められているか、もしくは代理出産が完全に禁止されている。

 インドには現在、代理出産に関する法律がないが、その代わり、業界は政府機関であるICMRが発表するガイドラインによって規制されている。ICMRのトップにはインド保健省の一部門である保健調査庁の最高幹部が就任している。

 ICMRの通達に先立って、保健省は外国人による国内での代理出産への関与を刑事犯罪とする法案を発表した。インドの国会は来月、この法案を取り上げる見通しだ。

 不妊治療に携わる一部の医師はICMRの新たな規制をめぐって裁判を起こした。今月、ムンバイの判事は市内の2つのクリニックに対して一時的に規制を解除、代理出産に向けて「治療中の」カップルへの医療提供を15日から20日間継続することを認めた。他のクリニックに同様の救済措置が認められるかどうかは明確に示されなかった。

 シアトルのバセットさんとスミスさんがインドでの代理出産を選んだのは代理出産サービスを提供する他の外国と比べて安全と感じたからだという。米国での代理出産にかかる費用をまかなう余裕がなかったことも理由の1つだった。

 バセットさんはインド人の代理母によって3人の子どもを持った米国人カップルについて書かれた「The Baby Chase: How Surrogacy Is Transforming the American Family」を読み、本で取り上げられていたムンバイのクリニック「サロガシー・インディア」を選んだ。

 バセットさんとスミスさんには11歳の長男がいるが、2人目の子どもをつくろうとしたところ3回の流産を経験した。2人は今年インドを訪れ、医師がバセットさんの卵子をスミスさんの精子を使って受精させ、受精卵を凍結保存した。バセットさんとスミスさんは10年以上のつきあいがあるが、結婚したのは昨年7月。インド政府は結婚して2年以上の異性カップルに限定して代理出産を認めているため、2人の受精卵を代理母に移植するには2016年7月まで待たなければならなかった。

 先月末になって、2人はクリニックから、新たな規則が導入されたため治療を進めることができなくなったという連絡を受けた。クリニックは、受精卵は安全に保存する、規制が法律になれば受精卵を国外に持ち出す方法を検討できるだろうと説明したという。

 バセットさんは受精卵を海外に運ぶには4000ドルから7500ドルの費用がかかると聞いているそうだ。今現在、バセットさんはこの費用とリスクが見合わないと考えているという。

 サロガシー・インディアの顧問弁護士、ビクラント・サブネ氏は同クリニックが新規顧客の受付を中止したことを明らかにした。既存の患者について「どのように対処するかはまだはっきりしない」という。サブネ氏は「さまざまな官庁に説明を求めているところだ。個別の顧客についてはコメントすることは適切ではない」と述べた。

 「胸が張り裂けるようでとても悲しい」とバセットさんは言う。「でも、この世界に足を踏み入れて(代理出産の)プロセスを始めるにはどのようなリスクを背負うことになるか、分かっていました」

By JOANNA SUGDEN AND ADITI MALHOTRA

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