記事

投薬から電気椅子、ガス室、銃殺まで 矛盾を抱える米国の死刑事情 - 土方細秩子

カリフォルニア州は2006年以降、実質的に停止状態だった死刑執行を再開すべく、新たな法案を提出した。これまでの死刑執行法は3種の薬剤注入によるもの。米国では「死のカクテル」とも呼ばれるが、麻酔剤、筋弛緩剤、心停止に至る薬の3種で「死刑囚の苦痛を最も軽減する」とされる。

 しかし06年、カリフォルニア州地方裁判所で「3種の薬剤のうちどれかひとつがきちんと作用しないと死刑囚に多大な苦しみを与える」ため「同州の死刑執行法は憲法違反」という判決が下され、以来死刑執行が事実上不可能となった。

 一方でこの判決を承服できないのが、犯罪被害者遺族らだ。過去9年間、カリフォルニア州では「死刑を執行すべき」という遺族らが州を訴える裁判が複数起こされた。

 これを受け、同州最大の死刑囚収容所であるサンクエンティン刑務所は09年「薬剤投与による死刑執行室」を新たに設置したが、これまで一度も使用されたことはない。

 しかし、06年以降も同州では平均して月に2人が死刑判決を受けている。このためサンクエンティン刑務所はまさにパンク状態だ。現在死刑執行を待つ囚人はなんと749人に上る。

 この事態を打開するため、同州は3種の混合法ではなく1種類の薬剤で死刑囚を死に至らしめる方法に転換する法案を提出したのだ。

死刑執行法が州によって異なる米国
電気椅子、ガス室、銃殺

 米国の死刑執行法は州によって異なる。現在死刑を存続しているのは31州で、すべてが薬剤投与を第一の手段として採用。しかし他の方法として電気椅子を認めているのが8州、ガス室が5州、絞首刑が3州、銃殺が2州だ。

 現在、3種混合の薬剤投与は全米で薬剤の不足に悩まされている。主に欧州の製薬会社が「死刑は非人道的」として必要な薬剤の製造を停止したり米国への輸出を禁じる措置を取った。国内でも生産が行われておらず、一時は「中国からの輸入」も検討されたが「品質に問題があり、死刑囚を無駄に苦しめる結果となる」という議論が巻き起こり実現できていない。

 そこで10年以降、8つの州が3種ではなく1種の薬剤による方法に切り替えた。今回のカリフォルニアを含めた6つの州が同様の変換を提議しているが、心停止に至る薬剤に何を選ぶのか、など議論すべき点は多い。

今年3月、ユタ州が銃殺刑を復活させる法案を通過させた。「死刑執行予定日の30日前までに薬剤が入手できなかった場合」に限るが、それ以前は銃殺刑は「死刑囚本人が希望して選択した場合」とされていた。これは全米で議論を巻き起こしたが、それほど薬剤による死刑が困難になっている現状も明らかにした。

 今回全米で最大の死刑囚を抱えるカリフォルニア州が死刑再開に向け一歩を踏み出したことで、米国では死刑の是非という論議が再燃しそうだ。

安楽死では認められる1種類のみ薬剤

 カリフォルニア州の場合、749人の死刑囚にかかるコストは年間1億5000万ドル、という試算がある。この数字は死刑囚による再審請求などの法廷コストを差し引いた金額だ。

 「これだけ多大な税金を使って執行されない死刑囚を収監しておく必要があるのか」「死刑を廃止して終身刑とすることでコストは軽減できる」という意見がある反面、「死刑を再開し死刑判決から執行までのスピードアップを図るべき」という反論もある。

 いずれにせよ、1種の薬剤による死刑執行は今後公聴期間が設けられ、早ければ来年11月の住民投票にかけられることになる。そのため死刑賛成、反対を標榜する各種団体が今後活発な活動を繰り広げることになるだろう。

 皮肉なことに、カリフォルニア州は今年「安楽死法」を可決させ、来年1月から実施される。余命半年以内と宣告され、本人が望む場合、医師が「死に至る薬」を処方できる、という法案だ。こちらは最初から1種類の薬剤が使用される。今回の死刑方法の変更も、基本的には安楽死と同じ1種の薬剤により死刑を執行する、という内容だが、死刑反対論者からは「薬剤投与により死刑囚に多大な苦しみを与える可能性がある」との反論がある。

 なぜ同じ薬剤が安楽死の観点からは認められ、死刑の観点からは敬遠されるのか。この矛盾こそが米国の死刑執行の現状を象徴しているのかもしれない。

あわせて読みたい

「死刑」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    立民党はなぜ全く期待できないか

    宇佐美典也

  2. 2

    投資家がマイホームのリスク指摘

    内藤忍

  3. 3

    社民党を食いつぶした福島瑞穂氏

    文春オンライン

  4. 4

    桜疑惑 安倍氏かばう議員に疑問

    猪野 亨

  5. 5

    トヨタが学校推薦を廃止した衝撃

    城繁幸

  6. 6

    敗北認めぬトランプ氏 破産危機

    女性自身

  7. 7

    非効率すぎる日本の医療救急行政

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    人気のセ・実力のパに「違和感」

    中川 淳一郎

  9. 9

    もともと余裕ない医療 医師嘆き

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    自民重鎮 王毅外相何しに日本へ

    深谷隆司

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。