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もう自殺できない~バナナフッシュからISへ

■パリ

今回のパリの事件は僕にとってもショックで、テレビ映像で流れるパリの光景は、10数年前に一度だけ訪れたパリそのものであり、その思い出のパリがテロの標的になったことによる虚脱感は僕だけではないだろう。

パリのセーヌ川の東岸がなぜ狙われるのかといったマニアックなパリ論はさておき(東岸は左翼と貧困層が暮らすという)、また「第三次大戦が始まった」というジャーナリズムも置いといて、あの911以来ずっと続いているテロの季節は「季節」ではなく、時代そのものだという議論は受け入れてもらえるだろう。

そう、世界的な平和の時代は過ぎ去り、やはりこの今の時代は紛争と戦争と動乱と殺しの時代らしい。

この平和な日本に住んでいるという免罪符も、あの新安保法案の成立とともに過去のものとなっている。戦争は対岸の火事ではなく、我々を土台から取り巻く事態だ。そうした事態を我々は多数決とはいえ選んでしまった。

まさかこんな早くその選択の責任を負わされるとは思っていなかったが、それが多数決というものだ。

■何vs.何?

僕が大学に入った時代は80年代前半で、今考えれば日本自体もだいぶ若かった。団塊世代も30才前後であり、今の東南アジア新興国のように、人口構成が圧倒的に日本は若かったのだ。

いまや日本はだいぶ老いた国になり、街を歩いても80年代のようにどこもかしこも学生という風景ではなくなっている。みな老いたので誰も語らないが、街中老いている。いいように言うと人々は落ち着き、悪いように言うと人々はエネルギーを全体的に失ってしまった。

そんな時、我々のニュースをISが支配している。ISは残酷で、日本のテレビでは流れないが、敵対する人々の首を切り裂く。日本人は誰もそれを正視できないが、それが「世界の今」だ。戦後ずっと地域紛争とローカルな恐怖政治は続いてきたが、それは対岸の出来事だった。

それが、少し前の日本人ジャーナリストの殺害と今回のパリ事件で根本的に変わってしまったと僕は思う。

何vs.何なのかはよくわからないものの、世界の憎悪の構図はどうやら長引くようだ。個人的には勘弁してほしいものの、そのうんざり感を覆うほどに、世界はグローバリゼーションに怒っている。それをIS的マイナーなテロ権力に委ねてしまうほど、我々の世界は混乱している。

■遠いサリンジャー

僕は高校時代、自殺したくてたまらなかった。死場所を求めて高いビルを彷徨し、そんなストーリーのアマチュア小説も書いた。

その時、いつも死は甘美であり、「終わりなき日常」を打破してくれる起爆装置だった。そして死とは常に甘美な自殺のことであり、そのような死を象徴するものとして、たとえばサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」等の小説があった。

主人公のシーモアのピストル自殺は、甘すぎるこの世をあざ笑う事象だったのだ。

が、2010年代になり、サリンジャーの自殺は遠いものとなった。死とは甘美で大人たちを挑発する余裕あるものではなく、徹底的に残酷な死の、その一面を強調するものとなってしまった。

死は「怖いもの」に集約され、それは避けられるものとなった。死は避けるものであり、「生」は貴重なものとなっている。

いまや思春期にとって、死とは甘美な実世界からの逃避ではなく、痛くて血が出て、首をどうにかされるものになってしまった。

死が、憧れの事象、究極の逃避、太宰治やサリンジャーやシドビシャスに重なるための行為ではなく、徹底的に今の自分を否定されるためにある事態に変質してしまったと思うのだ。

ということは、もう死に対して甘い幻想を抱く時代は過ぎ去った。

サリンジャーのシーモアは遠く過ぎ去り、自殺は甘くなくなった。

自殺にずっと無意識的に憧れてきた僕のあり方もついに終わった。自殺なんてとてもできない。

※Yahoo!ニュースからの転載

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