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東芝が4000億円もの「のれん代」を償却しない理由

東芝が87%の株式を保有するウェスティングハウス社が、1600億円もの減損処理を行い、その上2012年度と2013年度は赤字になっていたにも拘わらず、東芝の連結決算においてはのれん代の減損処理が行われていないことが判明し、関心を集めています。

 どう思います?

 まあ、急にそんなことを聞かれてもなんのこちゃいな、とお思いの方が多いでしょう。

 そもそものれん代って何? という人も多いでしょうし。

 ただ、いずれにしても、私は、この問題をメディアが大きく取り上げないことに憤慨しています。

 そんなことでいいのか、と。そういう姿勢だから、粉飾決算が横行するのだ、と。

 そう思いませんか?

■ 日経の報道ぶり

 ところが、本日の日経をみると、次のように書いてあるのです。
 「東芝に対する株式市場の不信が強まっている。米原子力事業子会社が過去の決算で1600億円もの減損損失を計上していたと伝わった13日の株価は急落。一時、前日比9%安の285円と約3年ぶりの安値水準まで売られた。東芝の決算訂正につながる不適切会計ではないが、消極的な情報開示や将来の損失発生のリスクを嫌がる市場家関係者は多い」
 どうでもいいことかもしれませんが…「市場家関係者」って間違いではないのでしょうか? 正しくは、「市場関係者」でしょ?(日経 11月14日朝刊、12版)

 それはそうと以上から分かるように、日経は、のれん代の減損処理を行わないことや情報を隠ぺいしたことが粉飾決算どころか「不適切会計」にも該当しないと言うのです。

 もう呆れてものが言えません。口があんぐり!

■ のれん代とは

 でも、そもそも「のれん代」の意味が分からない人は、私が何故憤慨しているかお分かりにならないでしょう。

 では、基本的なことから少しずつ説明致します。
 
 先ず、東芝は、2006年に約6000億円を投じて米国の原子力発電のプラントメーカーであるウェスティングハウス社という会社を買収し、子会社にしたのです。現在は、同社の株式の87%を東芝が保有していると言われています。

 まあ、ウェスティングハウス社に触手を伸ばしていたのは当時、東芝だけではなく、そのため買収価格が上がっていったと言われています。

 では、他社は幾らくらいが相場と考えていたかと言えば、2000億円程度ではなかったか、と。

 (注)「WH売却の入札に参加した三菱重工業など日本の業界関係者は「価格は2000億円から、どんなに高くても3000億円」と見ており、「相場の2倍超」という東芝の大盤振る舞いが当時話題になった」(2011年9月3日付、日経)

 ということで、当時のウェスティングハウス社の正味の価値も2000億円程度しかなく、従って、差額の4000億円程度は「のれん代」として資産計上するしかなかったのです。

 つまり、「のれん代」とは、買収金額から正味の価値を差し引いた差額を言うのです。

 例えば、ある会社の資産が1兆円であると同時に負債が8千億円であれば、正味の価値は2千億円となる訳ですが、その会社がどんどん利益を拡大しつつあり、さらに今後の発展が見込まれるのであれば、その会社を買収するために2千億円どころか、その倍、或いは3倍のお金を出す者が現れてもおかしくはありません。

 何故そのようなことが起こるかと言えば、正味の価値である2千億円というのは、スクラップ価格でしかないからです。つまり、その会社の営利組織としての収益力を全く評価していないからなのです。

 企業の真の価値は、単にその企業が保有する実物資産、つまり、建物や機械設備などから負債、つまり借金などを引いただけは算出できないのです。ネームバリューなんてものもありますし…。

 ということで、ある会社を買収しようとする場合、その買収金額から正味の価値(真の価値ではありません)を引いたものが「のれん代」になるのです。

 但し、のれん代は、将来の収益予想をどのように見積もるかによって大きく左右されるのです。どんどん儲けてくれる筈だと思えば思うほど、のれん代は膨らんで行くでしょう。その反対に、どんどん儲けることなど期待薄だと予想されれば、のれん代はゼロに近いものとなるでしょう。

 いずれにしても、そうしてウェスティングハウス社を買収したことによって、東芝は、それに関係するのれん代を4千億円ほど計上していると言われているのです。(他の買収に関わるものを含めると1兆円以上)

■のれん代の償却ルール

 では、そうしたのれん代を何時までも資産として計上していて問題がないのか?

 というのも、期待どおりに買収した子会社が稼いでくれれば問題はありませんが、期待どおりにならなかったら、のれん代として計上した資産は、まさに絵に描いた餅に等しいからです。

 ということで、のれん代は少しずつ帳簿から落とすことが望ましいと考えるのが、我が国の会計ルールであり、それによれば20年程度で全額を償却すべしとなっているのです。

 一方、米国の会計ルールは、そのような考え方をせず、買収した企業の業績が好調である間は、のれん代を償却する必要はないが、その代わり儲からなくなったら、つまり企業の価値が落ちてきたら、償却をすべしとなっているのです。

 ここまでのことは、ご理解頂けたでしょうか?

■東芝ののれん代償却の考え方

 では、東芝は、ウェスティングハウス社を買収して以降、日本の会計ルールに則ってのれん代を償却してきているのか?

 答えは、ノー。

 何故だか分かりませんが、東芝は、米国ルールに則って対応していると言明しているのです。

 東芝って、日本の企業でしょう? どうして日本のルールに則って、一定額ずつ償却をしてこなかったのでしょう?

 私には本当の理由は分かりませんが…4000億円ののれん代を20年で償却するとなれば、年間200億円の償却が必要となり…つまり、1年間に200億円分利益が吹っ飛んでしまうのです。

 そうでなくても、利益の水増しに腐心していた東芝なのですから、そのような余裕があったとは思えません。

 そこで、直ぐに償却をしなくてもいい米国ルールに則って対応することにしたのではないでしょうか?

 しかし、米国ルールでは、既に説明したように、買収した会社の業績が好調である間は、のれん代を償却する必要がないのですが、その反対に業績が悪化し、その会社の価値が低下した場合には償却が求められるのです。

■ウェスティングハウス社の業況の変化

 ウェスティングハウス社を買収したのは2006年。しかし、それから5年後の2011年3月には、ご承知のように福島第一の爆発事故が発生し、原発プラントメーカーを巡る営業環境は世界的に様変わりしてしまうのです。

 つまり、プラント建設の仕事が全く来ない、と。

 で、どうなったかと言えば…ウェスティングハウス社は、1600億円もの減損処理をし、2012年と2013年には赤字に転落していたのです。

 東芝の言っていることはやっぱりおかしいでしょ? というか、東芝は、つい最近までウェスティングハウス社の業績は順調だと言っていたのですよ?

 赤字の場合も、順調と言うのでしょうか?

 そして、東芝は、米国の会計ルールに乗って対応していると言いつつ、ウェスティングハウス社企業価値が大きく下がり赤字に陥っても、のれん代の償却に踏み切っていないのです。

■ 東芝がのれん代を償却しない理由

 何故規則通りにしないのか?

 多分、こんなことになるのであれば、最初から日本の会計ルールの則って処理しておけばよかったなんて今頃思っているかもしれません。日本のルールでは、毎年200億円ほど償却をすれば済むのに対し、米国ルールによれば、一度に多額の償却が求められるからです。

 どう考えてもおかしい!

 要するに、東芝は、会計ルールに忠実に従うならば、債務超過か、債務超過寸前になるかもしれないので、ルールに従うことができないのです。

 しかし、そうは言えないものだから、会計ルール上問題がないなんてうそぶいているだけ。

■ 東芝が強気な理由

 でも、東芝は何故そんなに強気な態度でいられるのでしょうか?

 その理由は、そもそも東芝が何故ウェスティングハウス社を買収しようと思ったのか、そこから考えれれば推測が付くのです。

 そもそもは、2006年に経産省が『原子力立国計画』を発表し、既存原発の60年間運転、30年以降も原発依存度30~40%を維持、核燃料サイクルの推進、原発輸出を官民一体で行うとぶち上げたことが背景にあるのではないでしょうか。

 つまり国家ぐるみの買収計画だったと言ってもいい!

 そして、その原子力立国計画を立案したのが、安倍総理の秘書官をしている経産省の人間だと言うのです。

 それに、安倍総理と東芝の社長などは何度も海外に原発プラントの売り込みに行っていたでしょ?

 東芝とすれば、これは国家プロジェクトだ、と。総理が後ろについているのだ、と。

 そこで、無理が無理を呼び、とんでもない会計ルール違反を犯してしまったのではないでしょうか?

 第三者委員会ですら、こののれん代に関しては、「これらは我々の調査対象外。会社が検討して、監査法人と協議されることだ」と、どういう訳か、知らない振りをしていたのですから。

 安倍総理が親しくしている米国のアーミテージ氏なども、日本が原発の再稼働をしなければ、対中国との関係上まずいと日本に迫っているようなことも少しは関係しているのかもしれません。

 まあ、そういう背景があるので、日経さんも、「決算訂正につながる不適切会計ではないが…」なんて書かざるを得ないのでしょうか。

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