- 2015年11月11日 22:44
「小中学生にお薦めする○冊」の欺瞞と、それでもオススメする10冊
2/2■最悪を想像しろ
「サイアク」「サイテー」を連呼するわりに、おまえらは本当の最悪を知らない、と父は言いたい。ヤバいヤバいと言うわりに、危険とはどういうものか、想像してない。なぜなら、最悪とは何か、危険と何かといった、材料がないから。そんなとき、いわゆるデザスタものが思考実験に最適だ。わたしが子どもの頃なら、『日本あやうし』『地球あやうし』なんて煽る本があったけれど、今出したなら、「科学的な正しさ」を追及されるだろうな。
リンク先を見る さいとうたかを『サバイバル』が鉄板だ。巨大地震による壊滅した日本を生き抜く少年を描いた傑作なり。渡すや否や、読むわ読むわ、寝る間も惜しんで全10巻を読み終えると、何度も繰り返し読んでいた。地震、火災、洪水、疫病、暴力、飢餓、炎天、寒波―――次から次へと襲い掛かる猛威に、知恵を絞り、勇気を奮い、逃げ、耐え、運にも助けられながら生きようとする。壊れた世界をかき分けながら「少年」から「男」に成長していく物語に、何度読んでも撃たれる。わたしが子どものころはフィクションとして読めたが、今では現実の(最悪のパターンの)予習としたほうがいいのかも。天災は忘れた頃にやってくる。マンガのようにはいかないが、「こうすれば生きる方に進める」選択をあきらめないこと―――この極意が伝わっただけで嬉しい。
リンク先を見る 一言なら「読むレイプ」。読んだら後悔する、おぞましい小説。最初は旧き良きアメリカンな光景で、ボーイ・ミーツ・ガールなのだが、それは罠。初恋の女の子が虐待される目撃者となる少年の話。どんどんエスカレートしていく集団暴行と、「見る」しかない少年は、どんどん胸糞悪くなりながらも、「読む」しかない読者とオーバーラップする。これに拒絶反応を起こす人は、世界は公正あれかし、と期待してるんだろうな。世界は(特に物語世界は)コントロール可能で、理解可能で、因果は応報する。そういう「常識」に慣れた人を叩きのめすのは現実なのだが、これは小説でそれをやってくれる。もちろん、お薦めしていない。本当の悪とは何か? 本当の痛みとは何か? が議論になったとき、「これは読むなよ、ぜったいに読むなよ」と念押しするつもり。
■別の視線を得る
物語の本質は、現実のシミュレーションだ。ありのままのリアルに向かい合ったなら、そのシビアさに痺れるから、辛すぎる現実を引き受けるため、自分で自分に嘘をつく。そのシミュレーターとして、物語が存在する。現実から目を背けるための快やハピネスとしての物語もそうだ。人は、物語を通じて複眼を得る(もしくは異なる視点・次元・側面があることを知る)。
リンク先を見る なぜか学校にて『はだしのゲン』が定期的に流行し、競うように読まれているらしい。イデオロギー的な面が強調されたり色々物議を醸す作品だが、隣の棚の愛蔵版『ブラック・ジャック』も読んで欲しいところ。さておき、原爆をこれだけで伝えるのは危ういので、こうの史代『夕凪の街 桜の国』を渡す。これも一瞬で読み切って、幾度も幾度も読み返している。むごくて緩慢な死を見守りながら、現実の小さな幸せは大量の瓦礫と死体の上に成り立っていることを、ほんの少しでも分かってもらえたら、と願う。次いで『この世界の片隅に』を渡す。これも、何度も読んでいる。井伏鱒二や原民喜に触れるとき、歴史を引き受けるための器としての物語を思い出して欲しい。
リンク先を見る 現実を裏返すと夢になる? いいや、もう一つの現実だよ、という真実を寓話にしてくれる星新一のショートショートもお薦めして反応が良かった。『ボッコちゃん』『悪魔のいる天国』『きまぐれロボット』など、手当たり次第に読んでいる。短く鋭く、風刺に溢れた短編は、朝読にうってつけみたいだが、父的にはSFワールドの入口として魅力的だと思うぞ。ようこそ、少し不思議な世界へ。目の前の現実とは異なる次元・異なる視点から見なおすための有用なツールなり。
この時代、「本が好き」とは結構変わった部類に入る。文字を追いかけるのは面倒だし、世界や構造を頭ン中で再構成したり、声や音や匂いや感覚を想像するのは手間かかる。ゲームやアニメの方が、ずっと入りやすいし分かりやすい。それでも、本の、物語世界へ誘いたいのなら、今の彼・彼女の興味から、きちんと導線をつくるのが大人の役割。「なぜ」その一冊なのか、説明すべし。
リンク先を見る そして、大人がおもしろがって喜んで読むのがもっと大事。「むかし読んで良かったから読め」といっても、「いま、わたしが読む」理由にならない。アニメ『ソードアートオンライン』にハマったなら、そのアイディアの源泉の『クラインの壷』を熱く語ればいいし、名探偵コナンが好きなら、シャーロキアンになる素質じゅうぶんだろう(その前に、ネタ集でもある『2分間ミステリ』が手軽でいい)。
リンク先を見る それでもエンデを推したいなら、再読してみろ。ノスタルジックな想いをさっぴいてもお薦めしたいなら、その訳があるはずだろう。そいつを自分の言葉で語れ。「おもしろい」だけならスマホゲーに勝てぬ。「愛読書はエンデです」と言い切る小学生には、『あずけて! 時間銀行』をお薦めする。『モモ』の本歌取りで、ここまでエンタメ&哲学寓話に満ちたものはない。「灰色の男」側の話と思いきや、もっと世知辛い。人生をやりなおしたい人のために、過去をオーバーライドする「時間銀行」なのだから。ラブ&バトル満載のちっとも軽くないラノベに込められたメッセージ「過去は変えられない、未来はまだない。だから、今に、集中しろ」を受け取るべし。
「おもしろいから」だけじゃ読まぬ。どうすれば伝わる? 大人がおもしろがるんだよ。大人の言うことは絶対に聞かないくせに、大人の真似だけは恐ろしいほど上手いのが、子どもなのだから。



