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社会的に成功しても埋まらない「充実感」の格差 ~社会性と自分性 - “マネジメント”からの逃走 第36回

満足しているのに、充実していない人

現代において、「格差」という言葉は、単に「程度の差がある」ということをいうのではなく、社会問題の意味合いをもって使われます。

その「格差の問題」ですが、これまでは、生活の“水準”や教育・福祉など公共サービスの“レベル”など、社会的な基準で測ることができるようなものがほとんどでした。

しかしここのところ、社会的に与えることができる・保障することができるような外的なものではない、人間一人ひとりの精神的・内面的なものの格差が、深刻な問題になりつつあるように感じます。

その1つが、「充実感」の格差です。

例えば、「社会的に立派な仕事や役職に就いていて、給料などには満足している。でも、毎日会社にいくだけで、人生がまったく充実していない」というような人がいる一方で、「給料は安いけど、趣味があり、友達もたくさんいて、毎日が充実している」というような人もいるわけです。

つまり、社会的な水準やレベルが満足できるところまで高いからといって、それに連動して人生の充実感も高まるというわけではないということです。社会的・経済的な「勝ち組」の中にも、「充実感の負け組」が存在します。

ソーシャルメディアの投稿などを見ていても、充実感を求める人、あるいは充実感をやたらと顕示する人が増えているように感じます。

今どき、「こんないい車に乗っている」とか「ブランドものを買った」というような生活水準の“満足アピール”はダサいみたいです。一方で、「友達たくさんで、ご飯を食べに行った」とか「休日の趣味でこんな楽しいことがあった」といった“充実アピール”があふれています。

レベルアップでは埋まらない格差

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若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教

福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド http://wakashin.com/


本当に充実感のある人は、それを人にアピールなんてしないのでしょうが、いずれにしても、その充実感の格差はどんどん広がっているようです。

この格差は、勉強や仕事を頑張って社会的に「レベルアップ」すれば埋まる、ということではありません。それが、この問題の複雑なところです。

充実感の高い人は、いろいろな趣味を持っていたり、仕事とは別の活動を楽しんでいたり、人間関係が良好だったりと、人生に「幅」や柔軟性が見受けられます。そして、どのような仕事に就いているにせよ、それと日々の暮らしとをつなげたり、バランスをとったりすることが上手にできているようです。つまり、高いか低いか、ということではないのです。だからこそ、格差を埋めるのはなかなか難しい。

そして、日々の充実感なるものは、年収や生活水準のように数値化できない、非常に主観的であいまいなものです。「心が充たされません」という人に、他人としてどうアドバイスすればいいのか。的確な答えなんて存在しません。

仕事においては、資格を取って、スキルアップして、給料やポジションを上げていけばいいということではありません。仕事を通じて新しい情報や価値観に触れることができたり、想定外の経験があったり、同僚やお客さんと信頼関係ができるといったようなことが、自分の精神的な豊かさをつくっていきます。

社会性と自分性

このような、自分にとって主観的で内面的なものは、先輩のアドバイスや専門家の知識を取り入れて訓練したところで、決して充実しないわけです。むしろ、人から与えられた手法や基準を意識すればするほど、それにとらわれて窮屈になり、疲れてしまいます。

自分の内面的な世界を広げたり、深めたりしていくためには、社会的な水準やレベルを追い求めるのではなく、自分の心の声や感覚に素直に向き合うことで、人生の途中段階、プロセスを楽しまないといけないのだと思います。僕はこれを、社会性に対して、「自分性」とよぶことにしています。

社会的には損をするのかもしれないけど、どうしてもこだわりたいこと。人から見たらムダなことかもしれないけど、やってみたいこと。一度立ち止まってでも、自分の中で納得がいくまでしっかりと考えてみたいこと。

自分を尊重して、内面を充実させるための行為や決断は、短期的には社会的なデメリットがあることかもしれません。もちろん、仕事や生活を維持するためには、なにもかも自分の感覚通りに決断するわけにもいきません。

複雑な社会環境の中で、いろいろなものとのバランスをとりながら「自分性」を高めていかなければならない。そんな難しい時代になってきました。

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