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ASEANのホリエモン?! 東南アジア最強の投資会社 CATCHAグループとは? - 宮崎学

2001年、ITバブル絶頂の頃、ホリエモンこと堀江貴文氏は世間を賑わせた。ポータルサイトのライブドアを立ち上げ、ニッポン放送の買収をしかけ、連日マスコミが報道していたことを鮮明に覚えている。15年も前のこととはもはや思えない。出所後の現在も、メディアに積極的に出演し、宇宙事業や自身のメディア事業を手掛け、投資家としても活動されている。

 IT時代の寵児は、何も日本に限った話ではない。ここ、東南アジアにおいてもライブドアのように成功した企業がある。CATCHAだ。ポータルサイトからスタートし、事業成功後に積極的な事業投資へと転身した点や時期がライブドアと似ている。創立者のPatrik氏はこちらでは象徴的な存在で、今でもメディアから引っ張りだこだ。日本人の私としては、どことなく、ホリエモンと被って見えてしまう。

 11月3日、スタートアップ業界に激震が走った。CATCHAが手掛けてきたきた不動産ポータルサイトiPropertyが約700億円でオーストラリアのREA企業に買収された。ASEANのスタートアップでは最大規模のM&Aである。こちらでは、CATCHAといえば誰もが認める、正に「最強」の名にふさわしい一流の投資会社だが、日本のメディアはほとんど注目していないようだ。

 旧来、VCというよりはPE(プライベートエクイティ)として活躍していたがCATCHAは2015年4月、CATCHA Venturesを立ち上げ、VC業界に参入している。そこで、今回は、伝説の投資集団CATCHAとは一体何者なのか? 投資チームを率いるErman氏に話を聴きながら、その真相に迫った。

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「CATCHA」のロゴマーク

ポータルサイトから投資会社の転身へ 
~CATCHAグループの誕生~

 CATCHAの物語は、マレーシア人のPatrik Grove氏が1999年に起ち上げたCatcha.comから始まる。Catcha.comは、言うならば東南アジア版のライブドアのようなウェブポータルサイトだ。IPO寸前までいったが、ネットバブル崩壊の影響を受け、IPOには至らなかった。しかし、PatrikはCatcha.comの事業から莫大な資金を得た。

 この資金を活用し、投資会社として転身し、今のCATCHAが在る。投資対象として最初に目をつけたのは、不動産のポータルサイトiPropertyだった。iPropertyがローンチし、事業が軌道に乗った辺りで、CATCHAは株式の大半を獲得した。CATCHAのすごいところは、株式を保有した後、CATCHAから経営人材を送り込み、事業を徹底的にドライブさせるところだ。Property Guruと双璧を成すASEAN最大級のポータルサイトに成長させ、2007年、オーストラリア証券取引所に上場をした。

 上場は一つのゴールの形に過ぎないが、iPropertyを成功させた後のCATCHAは、ハンズオン型の投資会社として成功企業を次々に生み出していく。不動産ポータルサイトの次に目を付けたのは車情報サイトだった。

 ASEAN最大級の車ポータルサイトiCarを成長させる。これまた2012年、オーストラリア証券取引所で上場した。これ以外にも、フラッシュセールサイトのENSOGO、メディア企業のREV Asiaを手掛け、それぞれオーストラリア証券取引所、マレーシア証券取引所に上場させている。更に現在では、iFlixに投資、積極的に事業拡大を支援している。今年、日本に上陸したNETFLIXと同じ、オンデマンド型のビデオストリーミングサービスだ。

 「関与した企業は必ずハンズオンでさせる。」CATCHAのすごさはここにある。

Erman Akinci氏インタビュー
「東南アジアには帰ってくるな」と教育された
幼少時代からCATCHAに参画するまで

 今回、インタビューさせて頂いたのは、CATCHA Groupの中でも投資決定にかかわる4人の1人、Erman氏だ。Erman氏はご両親がトルコ人ではあるものの、父親が資源関係の会社に勤めていたことから、生まれがマレーシア、育ちがインドネシアという特異な経歴を持つ。彼に、これまでの道程を聞いてきた。

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Erman Akinci 氏

 Erman氏は、高校まで、現地のインターナショナルスクールで育った。20年以上も前の東南アジアは、今とは比べ物にならない程貧しい時代だ。インターナショナルスクールでは、直接的ではないけれども、間接的に次のようなメッセージを伝えられたという。

 「先進国で学び、東南アジアには帰ってくるな」

 高校まで現地のインターナショナルスクールで学んだ後、彼はアメリカの大学で学んだ。そのままアメリカで就職する……という道を彼は選ばなかった。彼は、インターナショナルの教えとは異なり、卒業後、TVの制作会社のプロデューサーとして、自分が生まれ育った東南アジアを活動拠点として戻ることを決心する。

 「自分が生まれ育った東南アジアの現状を世界に伝えたい」

 これがErman氏の思いだった。しかし、現実は違った。いくら良いコンテンツを制作しても、中々世間からは注目されなかった。メディアを通した情報発信に限界を感じていたそんな矢先、出会ったのがCATCHAの代表、Patrik氏だった。Erman氏はここで、一制作会社のプロデューサーという立場から、投資会社の事業開発担当と一気にキャリアチェンジすることを決心。いきなり投資先に派遣され、経営者として事業を任せられる。

 が、プロデューサーとして一つの番組の収支管理を任せられていたErman氏は、見事に事業を成長させた。投資先の経営を通して感じたことは、TVの番組制作という手段よりも、ビジネス支援という手段を通して世の中に与えることが、世間に与えるインパクトが大きく、より満足感を得ることができた、というものだった。

 現在、Erman氏はCATCHAのビジネス支援Directorとして、投資決定と共にポートフォリオの事業開発支援に取り組んでいる。

CATCHA Venturesの誕生
Private EquityがVenture Capitalに参画する
理由とは?

 Private EquityもVenture Capitalも、個人や機関投資家から資金を集め、企業に投資(株式購入)をして、企業価値が高まった後でM&AやIPOにより売却、キャピタルゲインによって報酬を得るファンドビジネスであることには変わらない。様々な定義の方法があり、両者の境目は曖昧だが、ここではVenture Capitalは企業の創業期に出資をし、株式の保有割合は比較的少ない形態をとるファンドに対し、Private Equityは、企業の成長期から成熟期に出資をし、株式の大部分を取得する形態をとるファンド、としよう。

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CATCHAのオフィス

 CATCHAはこの意味で、Private Equityの形態をとっていたわけだが、2015年4月、CATCHA Venturesを立ち上げ、よりアーリーステージの企業に投資をしていくことを発表した。なぜか? Erman氏は次の様に答えた。

 「10年前と今のIT業界の決定的な違いは、創業メンバーが10年前よりもずっと洗練されており、優秀であるということだ。10年前は、PEという形で大部分のシェアを我々が取得し、彼らをリードする必要があった。そしてその戦略が機能した。しかし、今現在、そしてこれからは違う。我々がこれまでリードしてきたステージにくる企業は昔よりもはるかに優秀だ。つまり、よりハンズオフでも企業が成長できるということだ。そこで、我々はCATCHA Venturesを立ち上げ、より早い段階で、より多くの企業に投資することを狙っていきたい」

 この傾向は、CATCHAだけに限った話ではない。我々も、毎週何十件という投資案件を見ている中で、まだ売上がたったばかりのシードステージからシリーズA前のラウンドに、Private Equityとして名前が通っているファンドが投資家リストに連ねる場合がまま見受けられる。

 一方で、Venture Capitalも、ファンドの規模が大きくなればなるほど、それぞれのファームがビジネス支援をするために、様々な人材を採用している。アメリカの大手のVC、特にアーリーステージに投資するシードアクセラレータは、投資チームだけではなく、経営戦略、人材、エンジニア、デザイン、マーケティングといったプロフェッショナルな人材を数多くインハウスで抱え、投資先の企業価値増大に向けた支援をしている。

 CATCHAは投資会社としては珍しく、マレーシアに拠点を置いている。Erman氏いわく、こだわっているわけではないが、これまで現地の投資先の支援に重きを置いていたという意味で、マレーシアはオペレーションしやすくベストだった。投資家の獲得という意味ではシンガポールが良いことは自明だ。とはいえ、実際には彼らは世界中を常に飛び回っているため、拠点の話など特に関係ないのかもしれない。

 私のソーシング担当国はマレーシア。この半年で、現地で活躍するスタートアップ200社を超える企業に会ってきたと思うが、CATCHAは現地でも伝説的な存在である。Erman氏はCATCHAの強さを、これまでの事業開発経験で培ってきた「東南アジアの市場理解」にあるという。

 ヨーロッパは、一国一国が小さくとも、言語が似ており、文化的、宗教的にも近いことから、地域展開がしやすい。何より、ヨーロッパ大陸でつながっているため、移動もしやすい。

 一方で、東南アジアはフィジカルに分裂している。この分断されたエリアのために、言語・宗教・文化はより多様化しており、ASEANという組織はありつつも、EUのような統一的な存在になるにはまだまだ時間がかかるのが現状だ。このような地域の中で、CATCHAは、iProperty、iCar、Ensogoなど、数多くの地域展開を成功させた経験・ノウハウがある。ひとたび「CATCHAが投資する!」となれば、市場がざわつくのも理解できる。

 世界トップティアの投資会社は、いかに世界を見据え、インパクトを与えてきたのか‐自分自身、非常に勉強になると共に、奮い立たせてくれたインタビューだった。我々日本人も、負けてはいられない。

※本連載では、シンガポールを拠点に、東南アジア全域で活動するベンチャーキャピタル、IMJ Investment Partnersの現地取材を通して、ASEANスタートアップの最新情報をお届けしております。本連載、並びにIMJ Investment Partnersへのお問い合わせはこちらからお願いします。

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