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「予備試験」が明らかにするもの

11月5日に法務省が発表した今年の予備試験合格者は394人。受験者も2年連続1万人を超え、ますます予備試験が、かつての旧司法試験の様相を呈し始めている観があります。もちろん、予備試験はあくまで司法試験を受けるための試験ですが、新制度になっても旧制度同様の「狭き門」にチャレンジする形に、志望者は「価値」を見出している。いってみれば、これが新「プロセス」に対して下された利用者たちの「審判」といってもいいものです。

 一方で、今回の結果を報じた6日付けの朝日新聞朝刊の記事は、相変わらずこの「審判」の不当性を刷り込もうとしています。「例外的な位置付けの試験」が「抜け道」になっている。政府方針でも制度創設の趣旨と現在の利用状況の乖離が問題視されている。法科大学院からも制限・廃止論が出ている――。

 法科大学院本道主義にとって、この予備試験の現状が、大変、都合が悪いものであることは、さんざんこうした論調に触れ、さすがに理解されている方も多いと思います。前記朝日の報道は、一応、「抜け道」を使った側の言い分として、上位校以外安心して勉強できない(合格できない)、学費の負担、就職に有利、時間と費用の節約などの事情を彼らに語らせています。しかし、これらは法科大学院本道主義からすれば、合格は本人の努力と司法試験の問題、就職は弁護士界の問題、学費については建て前の支援策(もっとも経済的負担という理由は、予備試験の本来の趣旨に合致しているともいえますが)、あとは「心得違い」というべき「心の貧困」に転嫁できる話にされてもおかしくありません(「予備試験『抜け道』論者の心底」)。

  しかし、私たち社会にとって、本来、最もはっきりさせなければならないことはほかにあるといわなければなりません。それは、端的に言って、「予備試験」が利用され、そこを経由した法曹が増え続けることが法科大学院制度にとって都合が悪くても、果たして社会にとって、それほど都合が悪いことなのかという一点です。

 この「抜け道」の利用に、その後の法曹としての適格性に影響するような明らかなマイナスを社会が認められないのならば、逆に言えば、その点で法科大学院制度が強制までさせたプロセスとして、社会に違いを示せないのであるならば、私たちはいつまでこの「抜け道」批判に付き合う必要があるのでしょうか。「抜け道」は文字通り、本道主義の「抜け道」ではあっても、社会が憂うべき「法曹への抜け道」といえるのかという話です。

 何度も書いていることですが、法科大学院があくまでその点で理想の法曹教育を目指し、「価値」を示すというのであれば、それはそれでいいと思います。ただ、それは強制ではなく、まず時間をかけてでも「価値」を示すことで選択される道を選ぶ。つまりは、きっちり「審判」を仰ぐべきということです。費用や時間をかけてでも、やはりこの「プロセス」を経た法曹でなければ、という「価値」を志望者と社会に示せないのであれば、そもそもこの制度の強制は無理だと思います。

 今年6月に出された政府の法曹養成制度改革推進会議の「法曹養成制度改革の更なる推進について」の中でも、予備試験に関連して、当然のこどく「法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれ」という表現が使われていました。しかし、それこそ本道主義からは当たり前でも、具体的にどういう実証性が伴った話なのかは皆目分かりません。私たちは、具体的にどういう恐れに直面しているというのでしょうか(「『前提』を疑わない『前提』」)。

本道主義自らがハードルを上げる以上、それこそ「予備試験」組法曹の輩出は、社会にとって望ましくない、「弊害」を生む法曹の輩出を意味するということでなければなりません。そうでなければ、旧制度を「一発試験」「受験技術偏重」と批判したことも同様に、実は社会にとってよりも、本道主義を作り上げるための批判、そのために都合が悪かったのではないかということまでを疑いたくなります。旧制度輩出の法曹をおしなべて「欠陥品」などとは思っていない社会からすれば、本当に新「プロセス」が旧制度輩出法曹を上回る人材を輩出できるのかという点は、本来問うて当然のことのはずです。

 以前、ある会合で会った日本に来ている外国の研究者から、法科大学院をめぐるわが国での議論について、「予備試験という制度が結論を出してくれるのだから、それでいいのではないか」と言われた話を書きました(「法科大学院への『評価』としての予備試験結果」)。その時は、この言葉に彼の眼に見えた、志望者に選択されないことで運命が決定付けられていく法科大学院制度の未来を読みとりました。しかし、今にしてみれば、予備試験組法曹がどんどん輩出されていくなかで、そこでも「価値」、違いを示し切れない本道主義の運命を、そこに読みとるべきだったようにも思えてくるのです。

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