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緻密に計画された極めて長期に渡る中国の海洋戦略を検証〜戦争反対ならばまず中国大使館の前でデモすべきだ

 さてスプラトリー(南沙)諸島であります。

 満潮時に海没してしまう岩礁に人工島を作り3000メートル級の滑走路など軍事拠点化を進め、国際法を無視して強引に領土領海の拡張を推し進めている中国なのであります。

 南シナ海の領有権問題に関しての中国の主張の根拠は、1953年から中華人民共和国がその全域にわたる権利を主張するために地図上に引いている破線・九段線(きゅうだんせん、英語: Nine-dotted Line)であります。

 ウィキペディアよりパブリックドメインの九段線の地図をご紹介。

■図1:中華人民共和国が主張している“九段線”(緑色

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E6%AE%B5%E7%B7%9A

 地図の緑色の破線が中国が一方的に主張している”九段線”なのでありますが、ご覧のとおり、南沙諸島、西沙諸島を含め、ほぼ南シナ海全域を中国の主権が及ぶ領海と主張しているのです。

 中国大陸から遥か離れたスプラトリー(南沙)諸島を自国領と主張するこの”九段線”は、誰が見ても地政学的には無理のある主張なのですが、その形状から「南シナ海に伸びる中国の赤い舌」とも呼ばれています。

 この南シナ海における”九段線”は、実は中華人民共和国の軍事戦略上の概念のことであり戦力展開の目標ラインであり対米防衛線である”第一列島線”の構成の一部となっております。

 「南シナ海に伸びる中国の赤い舌」とも揶揄されるその舌先に位置する中国大陸から遥か離れたスプラトリー(南沙)諸島になぜ中国は国際的批判も顧みず軍事基地化を急いでいるのか、そもそも中国が死守しようと躍起になっている対米防衛線である”第一列島線”とはなぜ生まれたのか、中国視点で考察しておきます。

 ※以下の図はすべて、過去エントリーで当ブログが作図したのを本エントリー用にリメイクしたものです。

 中国がなぜ国際的摩擦を顧みずに「海洋強国」建設にこだわるのか、あくまでも中国側の視点に立って考察してみたいです。

 まず、中国側の視点に立つために、中国起点で90度回転して東アジア地図を俯瞰して見ましょう。

■図2:中国起点で90度回転して俯瞰する東アジア地図

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※当ブログ作図

 実は中国は「海洋強国」とは名ばかり、大洋に進出するためには、北は、朝鮮半島、日本列島に阻まれ、中央には琉球諸島、台湾、フィリピン諸島に阻まれ、南にはマレーシアやインドネシア諸島、インドシナ半島に囲まれていることが、この図で見るとよく理解できます。

 中国はその広大な国土とは裏腹に、海岸線は、東シナ海(East China Sea)南シナ海(South China Sea)に面しているだけであり、その排他的経済水域(EEZ)は約88万km2と日本の約1/5に過ぎません。

 中国から見れば、中国の海は、北朝鮮、韓国、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム等に包囲されており、東シナ海(East China Sea)と南シナ海(South China Sea)の制海権を失えば簡単に海上封鎖されてしまう、地政学的に脆弱な条件のもとにあるわけです。

 つまり中国は東シナ海と南シナ海のわずか2つの外洋への入口しか有していないわけです。

■図3:東シナ海と南シナ海のわずか2つの外洋への入口

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※当ブログ作図

 中国が外洋に進出するためには、東シナ海と南シナ海の制海権確保が死活的に重要なのです。

 そこで、1982年12月10日国連海洋法条約が採択されたのを機に、中国海軍では管轄海域を領土的なものと観念し、これを他国から防衛すべきであるとの思考を強めます。

 1982年に海軍司令員に就任した劉華清は、国連海洋法条約に基づき、中国は300万平方キロメートルあまりの管轄海域を設定できると主張し、これらの海域と大陸棚を中国の「海洋国土」と表現します。

 さらに劉は、黄海、東シナ海、南シナ海は「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」であるが、「歴史的原因により、海洋資源開発、EEZ の境界画定、大陸棚、一部の島嶼、特に南シナ海では周辺諸国との間で争いと立場の違いがある」と指摘します。この状況下で海洋国土を侵犯されないためには、海軍は「戦略軍種」として海軍戦略を持つべきであると論じたのであります。

 これにより東シナ海、南シナ海は中国に取り、「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」となり、”第一列島線”(First Island Chain)と呼ばれる対米防衛線が確立されます。

 第一列島線内の海は中国軍にとって「自国領海」に準ずる「守るべき海」とされたわけです。

■図4:東シナ海、南シナ海を安全保障上の障壁とする第一列島線

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※当ブログ作図

 ご覧のとおり、ここに南シナ海の”九段線”は”第一列島線”に組み込まれます。

 国連海洋法条約を受けて、中国は海洋に関する国内法整備にも注力いたします。

 1992年2月25日、「中華人民共和国領海および接続水域法」(以下、「領海法」)が施行され、他国と領有権争いのある島嶼を中国の領土と明記して注目されます。

 台湾、南シナ海のパラセル諸島・スプラトリー諸島などとともに尖閣諸島を中国の領土と規定し、1971年以来の尖閣諸島に対する領有権の主張を国内法で規定いたします。

 これらの領有権の主張を前提に、この法律は、中国が権利を持つと主張する接続水域において、中国の法律に違反する外国船舶に対し、他国の領海に入るまで追尾する継続追跡権を軍艦、軍用機、政府の授権を受けた船舶および航空機に与えています。

 ここにいたり、国際法上公海であるはずの東シナ海、南シナ海および海域諸島が、中国にとって「中国が生存と発展を依拠する資源の宝庫と安全保障上の障壁」である「内海」的存在であることが、軍事的戦略としてだけでなく、国内法上においてもその整備が完成いたします。

ここで、西沙(パラセル)諸島におけるベトナムなどへの覇権、南沙(スプラトリー)諸島におけるフィリピンなどへの覇権、および尖閣諸島における日本などへの覇権、これらはすべて「海王強国」を目指す中国にとって、「海洋国土を守る聖なる防衛戦」となったわけです。

■図5:東シナ海、南シナ海における主な領土紛争

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※当ブログ作図

 「海王強国」を目指す中国は、この25年で10.46倍と驚異的なペースで軍事費を拡大し、その大半をそれまで脆弱であった海軍の近代化に当てています、下記グラフで確認できますが、同時期日本の軍事費がほぼ横一線であることと対比すれば、今東アジアの海軍軍事力のパワーバランスが大きく中国寄りに変動していることは明白です。

 このグラフが、日本はいまこそアメリカや同盟国との集団的自衛権について建設的かつ積極的に議論すべきである、冷徹な国際状況のすべてを物語っているわけです。

■図6:日本と中国の軍事費推移(1989−2014)

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 ・・・

 中国は、いま検証してきたように、「国家百年の計」とも申せましょう、緻密に計画された極めて長期に渡る海洋戦略を実行してまいりました。

 その戦略はあくまで中国が主体的に構築し実践しているものであり、中国にとって一周辺国である日本の政権が媚中派であろうと嫌中派であろうと、その日本政府の政策によって大きく方針が変換されるような受動的なものでは決してありません、ここが極めて重要です。

 日本の一部リベラル派は、日中首脳会談実現を機に、中国を仮想敵国とみなした安保法案はプロパガンダに過ぎなかったと批判しています。

猪野 亨

2015年11月02日 09:34

日中首脳会談はじまる 関係改善へ 仮想敵国中国はどこへ行ったのでしょう

http://blogos.com/article/142329/

 失礼して当該部分を抜粋、ご紹介。

 国会で戦争法案の審議中、特に参議院での審議では、安倍政権は露骨に中国を名指し批判し、仮想敵国扱いをして戦争法案(集団的自衛権行使を容認する具体化法案)を正当化してきました。

「安倍氏 中国を名指し 軍拡の正当化を強調するために戦争法案の対象を拡大! もっともっと拡がりますよ」

 このデタラメの説明が何だったのかということです。これでおわかりですよね。

 この中国の「海洋強国」建設やそれにともなう軍備拡張、第一列島線内における隠さない領土的野心を無視するのは、なにもこの論説だけではありません。

 ここにSEALDsのホームページがあります。

SEALDs

私たちは、自由と民主主義に基づく政治を求めます。 

http://www.sealds.com/

 このホームページに彼らが掲げる外交・安全保障政策が"NATIONAL SECURITY"と題して掲載されています。

 そこには対中国政策がこう記述されています。

  現政権は2年以内の憲法改正を掲げるとともに、集団的自衛権の行使容認、武器輸出政策の緩和、日米新ガイドライン改定など、これまでの安全保障政策の大幅な転換を進めています。しかし、たとえば中国は政治体制こそ日本と大きく異なるものの、重要な経済的パートナーであり、いたずらに緊張関係を煽るべきではありません。さらに靖国参拝については、東アジアからの懸念はもちろん、アメリカ国務省も「失望した」とコメントするなど、外交関係を悪化させています。こうした外交・安全保障政策は、国際連合を中心とした戦争違法化の流れに逆行するものであり、日本に対する国際社会からの信頼を失うきっかけになりかねません。

 安倍政権の諸政策に関し、中国に対し「いたずらに緊張関係を煽るべきではありません」と批判されています。

 ・・・

 因果が逆なのです。

 今東アジアで軍事的緊張が高まっている原因は主として中国による一方的な軍事拡張にあります、安倍政権は対抗上日本の安全保障を守るために安保法制などの改正に着手しているだけです、結果です。

 ここ20年で日本を取り巻く東アジアの安全保障環境は大きく変貌しました。

 中国の著しい軍事的台頭です。

 安保法制や安倍政権を批判する人々はなぜこの冷徹な現実を無視できるのでしょう。

 本当に平和を求めてデモをするとならば、国会議事堂ではなく、まず中国大使館の前でデモすべきではないのでしょうか?


(木走まさみず)

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