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軽減税率について

第 189 回通常国会が閉会して 1 ヶ月が過ぎた。例年ならば今は臨時国会が開かれている時期だが、安倍政権は野党の度重なる国会召集要請にも拘らず、応じようとしない。総理の外遊日程が立て込んでいる、緊急に審議すべき法案がない等を理由に臨時国会を開かず、通常国会を年明け 4 日から前倒しで開会して済ませようとしている。

しかし、緊急に通すべき法案は実はある。公務員の給与を決める給与法だ。これが通らなければ全国302万人の公務員は不安なまま年を越すことになる。それ以外にも、審議すべき事項は多々ある。5 年半に亘る交渉の末、大筋合意に至った TPP では、主要農産 5 品目の関税を死守せよという衆参の国会決議を守れていない。そもそも第三次安倍改造内閣の新閣僚の所信表明を聞いていない。

特に「政治とカネ」の疑惑のある大臣、下着泥棒の過去を持つ大臣は質さなければならない。また、「一億総活躍担当大臣」が新しく設置されたが、他の閣僚との所掌分担はどうなっているのか、一億総活躍社会をゴールとするアベノミクス新三本の矢(GDP600 兆円、合計特殊出生率 1.8、介護離職ゼロ)の実現可能性についても聞かなければならない。それを話し合うための国民会議になぜタレントの菊池桃子さんが任命されたのかも聞きたいところである。国民を舐めるなと。

しかし、私が最も気になっているのは軽減税率だ。2017 年 4 月に消費税が 10%に引き上げられる際の低所得者対策(逆進性対策)として導入が検討されている。民主党は政権時代から一貫してこれに反対の立場で、むしろ給付付き税額控除の導入を主張してきた。今は専ら、与党間で調整が行われており、国会が開会されないので野党は蚊帳の外だ。昨年の 7 月 1 日の集団的自衛権の閣議決定が行われた前後は、野党がいくら質問しても、「安保懇談会で議論中」とか「与党内調整中」だからという理由で答弁を避けたが、今回は国会を開会しないことで野党からの追及の機会を奪っている。

軽減税率は百害あって一利なしの愚策である。国民に負担感が和らいだような錯覚を起こさせ、景気が冷え込まないようにすることで与党の選挙を有利にすることだけが目的である。具体的には食品を中心とする生活必需品について 8%に据え置く方向で設計が進められているが、以下に問題点を列挙する。第一に、そもそも低所得者対策として導入するのに、むしろ高所得者に恩恵が及んでしまい、低所得者対策とならないどころか、格差を拡大しかねないこと。食品の購入額は高所得者の方が圧倒的に多い。食品に掛かる消費税を 8%に据え置いた場合、松茸も松阪牛も 3 万円のおせちセットも対象となる。これが低所得対策と言えるのだろうか。

第二に、こうして高所得者も含めたすべての人を対象として 2%の減税をすることで失われる税収の問題がある。米だけを対象にした場合で年間 400 億円、生鮮食品だけを対象とした場合で 3600 億円、酒を除くすべての食品の場合は 1 兆3000 億円が失われる。

そもそも何のために消費税を上げるのか。世界最速で少子高齢化が進む我が国では、これまで社会保障費を借金で賄ってきたが、これ以上後世につけを回すべきでないし、もっと社会保障を充実させる必要があるということで民主党政権の時に「社会保障と税の一体改革」を実現し、三党合意に漕ぎ着け消費税の引き上げが決まった。(今の安倍政権と違って野党との合意形成に努めた)特に、これまで高齢者に偏っていた社会保障費を子ども世代 に振り向けるべく、子ども・子育て支援に年間 7 千億円を充てることを決めたことは画期的だった。

しかし、軽減税率の導入により、この分の社会保障予算が吹っ飛ぶことになろう。その結果、最も皺寄せが行くのは低所得者層である。第三に、対象品目の線引きが難しいこと。例えば生鮮品だけを軽減税率の対象にしようという場合でも簡単な話ではない。牛挽肉や豚挽肉は生鮮品だが、合挽き肉は加工品。単品の刺身は生鮮品だが盛り合わせは加工品。これでは店頭での混乱は必至だ。どこで線を引くかを巡って売り上げが左右されるため、業界としては必死で政治家や行政に陳情を行うであろう。

ある新聞が、中立を装いつつ社説で新聞への軽減税率適用の必要性を説いていたが説得力に乏しい。「マイナンバー利権」に続く、「軽減税率利権」である。

第四に、事業者側の負担が挙げられる。インボイスや帳簿の複雑化、生産者・卸・小売りを含むあらゆる取引段階でのコスト発生等、事業者、特に中小・小規模事業者の負担は看過できない。そもそも、消費税が 10%程度で軽減税率を検討する例は諸外国でも殆ど無い。消費者のメリットに比べて事業者の負担が大きすぎるからだ。ちなみに、マイナンバーを使った財務省案「日本型軽減税率制度」は、発表された途端に総スカンを食らってすぐに引っ込んだが、低所得者の食費を年間 200~300 万円と試算しており、その分の消費税が 2%軽減されたとしたら、低所得者の負担減は年間 4 千円~6 千円程度である。その割に事業者負担が大き過ぎはしないか。

軽減税率の問題点は幾らでも挙げることが出来る。実際、私は 4 月の予算委員会*で安倍総理と麻生財務大臣に正面切ってこれらの問題を問い質したが、本当はやりたくないという本音が透けて見えるようなやる気の無い答弁だった。そこで軽減税率の導入に唯一熱心な公明党の太田国交大臣(当時)にも質問したがまともに答弁せず、「世論調査によれば軽減税率は支持されている」と強弁した。食品の消費税が 10%でなく 8%に据え置かれると聞いて「迷惑だから嫌だ」と言う人がいる筈がない。しかし、そんな短絡的な発想で軽減税率を導入すれば社会保障がカットされ、社会保障の充実のためにと言って消費税本体の税率を更に引き上げる日が近くなるだけである。

*上記文章中の予算委員会の議事録は下記の 5~7 頁
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/189/0014/18904090014018.pdf

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