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母親が日本サッカーの未来を握る フリーペーパー『サカママ』の試み - 森本茂樹 (スポーツライター)

 Jリーグがスタートしたのは1993年、既に20年以上の月日が経過した。サッカー日本代表は1998年のフランス大会で初めてFIFAワールドカップに出場。以来、通算5大会に出場し、2002年と2010年にはベスト16まで勝ち進んでいる。それでもまだ世界の強豪国にはなかなか勝つことができない。その理由の一つとして、「サッカー文化」というキーワードがよく見受けられる。今回、 ジュニア世代の母親に向けたフリーペーパー『サカママ』の活動を通して、日本におけるサッカー文化について考えてみた。

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ジュニアサッカーのフリーペーパー『サカママ』は、2012年にスタート。イベントは、サッカーを家族で楽しむことをコンセプトにしたサカママにとっては、考え方を知ってもらうきっかけであり、サッカーを日本の文化に、という未来に向けた取り組みの一つである。(写真:サカママ提供)

サッカーを日本の文化に

 今年7月、女子サッカーワールドカップで準優勝して帰国したなでしこジャパンのキャプテン宮間あや選手は「女子サッカーをブームから文化へ」と課題を語ったが、女子サッカーだけではなく、世界を見てきた選手やコーチも日本にはサッカーの成熟が社会として不足していることを指摘し、世界のトップレベルで戦うにはサッカーが日本の文化になる必要がある、と話している。

 京都サンガF.C.育成・普及部の部長池上正氏は、自著『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(小学館、2008年)の中で、スペインの6歳児に驚いた経験を踏まえ、「6歳児の流れるようなパスワークは、この国の歴史と伝統から培われたものだ」と書いている。さらに、元日本代表の中田英寿氏は、ブラジルワールドカップ前の2014年4月、日研総業株式会社の会見で、「日本のサッカーはプロとして始まって短いので、文化という形でまだ成り立っていない。だからこそ、それを目指した上での考え方を出していかなければいけないと思います」と話している。

 『footballista!』というワールドサッカー誌を手がける株式会社ソル・メディアの執行役員である堤秀樹氏も「サッカーを日本の文化に」という夢を語る一人である。彼は一メディアとして、サッカーを文化にするための行動を積極的に起こしている。彼がまず始めたのは、高校サッカーだった。日本では高校を卒業するとサッカーを終えてしまう学生が多い。

 一方、サッカーの盛んな南米やヨーロッパでは、おじいちゃんと呼ばれるような年齢になっても、地域のクラブチームに所属し、年代別カテゴリーでサッカーを生涯スポーツとして楽しんでいる。また、そこではサッカーを通じて世代が交わりを持つというメリットもある。世代を超えて伝わっていくものが、そこには存在する。

 2008年にスタートした高校生サッカーフリーマガジン『footies!』では、大学サッカーや専門学校、フットサル、サッカーに関わる働き方などについても継続的に発信を続けている。

 そして、次に堤氏が手がけたのが『サカママ』というフリーペーパーである。サッカーを始める時期に重要な役割を果たす親御さん、特に母親にターゲットを絞り、サッカーを通じて家族に楽しみが広がり、子どもも大人もサッカーが好きになるようにという願いを込めて発行されている。サカママでは「サッカーの上達」と「サッカーを通した健やかな成長」に役立つ情報を発信しており、また、イベントも年数回行っている。現在は自主開催のものだけでなく、自治体からのリクエストも多いという。今回私が参加したのは、神戸で行われたイベントだった。

家族でサッカーを楽しむイベント

 「今回のサカママイベントは兵庫県サッカー協会、社会福祉法人神戸市社会福祉協議会、自治体との連合イベントでもあり、兵庫県サッカーフェスタの一環での参加です。ユニバーシアード競技場周辺で、サカママイベントの他、J1のヴィッセル戦やFリーグのデウソン戦があり、障がい者サッカーも行われています」と教えてくれた堤氏は、進行に注意を払いながら、今回のイベントについて答えてくれた。

 「イベントはいつもと同様、サッカーを通して『今日一日楽しかったね』と家族が笑顔になってくれるといいな、と思っています。多くのお母さん方にとっては、応援はするけど一緒にボールを蹴る機会って少ないと思うんで、親子で体験できる企画を設けていて、一緒にサッカーを体験してもらいたいと思っています。バブルサッカーなんかも含めて、サッカーにいろんな楽しみ方があるって知ってもらえたらと思います」

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「お母さんと一緒にサッカーをして欲しい」という気持ちと、「せっかくの天然芝なので、裸足でサッカーする感覚も体験してもらいたい」という思いで実施した2vs2のゲームには多くの親子が参加した。(写真:サカママ提供)

サカママの面白いところは、サッカーに興味を持った母親がグループになり、フリーペーパーの作成やイベント運営に参加しているところである。その狙いを聞くと「やっぱり私はどう転んでもパパにしかなれないので、女性のリアルな気持ちを組み入れたいと思ったんですよね。それから私も子どもが2人いるのですが、子育て世代だからこそ、家族における母親の存在の重要性をより感じたのかもしれません」と語ってくれた。

ママが変わると子どもも変わる

 3人の子どもの母でサカママリーダーの山口智子さんはサカママの広報を務めている。

 「サカママリーダーを始めて、サカママのみんなとサッカーをするようになったんです。そうすると、今まで子どもの試合を見ていて、『なんでそんなことできないの』とか『なんで今動かないの』とか言ってたことが、実はすごく難しくって。何も分かってなかったんですよね。それから子どものことをちょっとリスペクトして見るようになりました。試合の応援に行っても、『もっと走りなさい』とか、マイナスな言葉は言わないようになりました」

 ママが変わると子どもたちにも変化が起こる。

 「負けてたり、思うようなプレーができなかったり、ミスをしたりすると、よくピッチの外にいる私の方を見てたんですよね。『また何か言われるんじゃないかな』みたいな感じで。でも私がプラスのことだけ言うようになると、ミスを気にしないようになって、気持ちよくプレーするようになったんですよ。それは他のお母さん方も同じように感じていて、すごいな、と思う気持ちと、今まで悪かったな、という反省の気持ちとが両方ありますね」と笑顔で答えてくれた。

 これは先述の『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』でも書かれていることで、池上氏は、コーチも含めた大人が大きな声で叱りつけることのデメリットを説いている。ちょうどこの本を読んだところだった私は、山口さんに『読んだことあるんですか』と聞いたのだが、「サンガの池上さんもそんなことを言われてるんですね。嬉しいな」という返事が戻ってきた。全て自らの体験で得られた言葉だったのだ。

 小学生低学年くらいまでの小さな子どもたちにとっては、特にママが応援してくれていることは嬉しいことである。自己肯定感を育むためには、自分の好きなサッカーをママも好きだということは、間違いなくプラスになる。

 「試合を見ていても、子どもが上手くなっていることや成長を感じることができるんです。『今日はこれができたね』といいことを見つけられる。それを伝えることができる。今まではできていないことばかり目について、大きな声で叱ってたのが恥ずかしいくらいです」

家族でサッカーを楽しむ一日

 今回のイベントには大会もあったことからチームで参加した子どもが多かったが、家族単位での参加も見受けられた。兵庫県三田市から来た平田さん家族は、お母さんがフットサル場で見かけたフリーペーパーをきっかけに参加した。母子でチームを組みんだ2vs2のミニゲームでは、裸足で天然芝の感触を味わいながらサッカーを楽しんだ。小学3年生の世陸(せり)くんは「いつもは靴を履いてるからボールを蹴っても痛くないけど、今日は裸足だったから、足の裏を使ってやってみた。お母さんにもオレがボールの止め方を教えてやった」と考えてプレー。最後に「お母さんとサッカーできて楽しかった」と大きな声で教えてくれた。

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ノルウェーのサッカーバラエティTV番組で誕生した「バブルサッカー」は、技術に関わらずみんなで楽しめるサッカーとして日本でも話題の新スポーツ。子どもたちは何度も転がりながらもボールを追った。(写真:サカママ提供)

 神戸市の山本さん家族はまだサッカーチームには入っていないが、サカママイベントの後にはヴィッセル神戸を応援しに行くサッカー大好きファミリーである。お父さんは「サッカーをやらせてあげたいんですが、下の子の関係で今は難しくって、イベントだけでもと、今日来てみました。ゲームをしている姿を見ても、素人のわりには頑張ってると思いましたし、早くチームでやらせてあげたいと思いますね」とバブルサッカーで、娘さんが転ぶ姿を微笑みながら見守っていた。

 小学1・2年生の女子を対象としたサッカー教室では、地元のINAC神戸レオネッサから選手が5名参加。仲田歩夢選手は「やっぱり、サッカーを楽しんでもらうことが一番です」と開始前に話してくれた。

 「サッカーが楽しいってことが長く続けていける秘訣だと思うんです。今回は低学年の女の子だし、友達に会えるからっていうくらいの感じでもいいと思うんですよね」

 サッカー教室はうつ伏せになった相手をひっくり返すゲームをペアやチームで行ったりと、体を大きく使い、触れ合うウォーミングアップからスタート。ドリブルやボール集め競争の後、全員でゲームを行った。「点を取ったらみんなで喜こぼうねー」と声をかける仲田選手。チームが負けていると自らドリブルでチャンスを作るなど、サッカーを全員で楽しむ様子に見守る大人からも笑顔が溢れるサッカー教室となりました。

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小学生1・2年生の女子限定で行ったスクールの講師はINAC神戸レオネッサの若手5選手。「地元でスクールをやらせてもらえて、子どもたちも喜んでくれてよかったです」と選手たちは話した。(写真:筆者撮影)

未来に繋がる活動を

 「大人になったらなりたいもの」という学校でもよく聞かれる職業アンケートは、今も多くの企業が行っている。第一生命が夏休みの作文コンクールで行っているものを見ると、男子部門では、プロスポーツ選手が毎年上位にランキングしている。2010年に野球選手を抜いて1位になったサッカー選手は、5年連続1位。

 ただし、「13歳のハローワーク」を見ると、サッカー選手は約800人と狭き門である。他のどのスポーツ競技でもそうだが、プロになれるのはひと握りで、大勢の選手にとっては、スポーツとは楽しみであり、友達と繋がる喜びであり、ひいては人生に役立つ経験を積む機会であり、ということになる。しかし、そうやって多くの子どもがサッカーに夢を持ち、大人になってもプレーを続けることが、日本のサッカー文化を築いていくことに繋がるのだと思う。

 サカママが行っていることは、未来のサッカーを担う子どもたちを応援するために、子どもたちが誰よりも好きなママにまずサッカーを知ってもらい、体験してもらい、理解してもらうという活動である。サカママリーダーの山口さんが、自らの経験を地元で広めているように、小さいけれど、大きく育つ種が、サカママによって日本各地で撒かれている。11月3日(火・祝)には横浜市泉区のかもめパーク(神奈川県サッカー協会フットボールセンター)で「第5回サカママフェスタ」が行われる。入場は無料。いつもとは違うサッカーを目にするいい機会だ。

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