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裁判員の年齢を18歳へ引き下げ? 刑事裁判は社会勉強の場ではない

 産経新聞に以下の記事がありました。
議論されない「裁判員年齢」 18歳が18歳を裁く日は来るか」(産経新聞2015年10月27日)

 選挙権年齢が18歳に引き下げられ、それを連動させるかのように種々の年齢引き下げが提言されたりするようになりました。
 少年法の適用年齢の引き下げはその典型ですが、これは愚かな政策です。
中学1年生男児の惨殺事件を少年法改悪の口実にさせてはならない
 成人年齢の引き下げも検討されていますが、時期尚早でしょう。
悪質商法に狙われるのは成人成り立ての時期 成人年齢の引き下げは悪徳業者を喜ばせるだけ
 タバコ、飲酒の年齢引き下げは論外。

 それぞれには20歳とした政策的理由があるわけで、このような状況の中で裁判員の年齢の引き下げが検討されていないのはむしろ当然とも言うべきものです。
 裁判員制度のキャッチフレーズは「市民感覚」ですが、本来、その感覚も色々な経験や学業などを前提にするものでなければ、単なる「感覚」でしかなく、「感覚」で裁判をするなど恐ろしくてなりません。
 裁判員に20歳でもなれるということに違和感があるのにさらに引き下げなどもってのほかです。
 もちろん年齢が高ければいいというものではありませんし、現実の裁判員裁判をみればこのような制度ははっきりと有害無益ということにはなるのですが、それはともかく、少なくとも若年者の感覚が刑事事件にどのような必要性があるのかまるで理解できません。

 そもそも抽選で選ぶという偶然に左右される裁判員ですから、「若者の感覚を生かす」などということを念頭に置いて制度の意義を語るなどは全くナンセンスです。
 若者であれば「少年の気持ちがわかる」などというのであれば、少年対象の裁判員裁判では制度的に「若者」を裁判員にせよということにならなければ論理は一環しないのです。もっとも「気持ちがわかる」ということ自体、同年齢だから当然に「気持ちがわかる」ということを前提にしている点で明らかな誤りであるいし、「気持ちがわかる」という程度では全く意味はありません。

 このような現実を考えたとき、常識的に考えれて裁判員の年齢引き下げなど議論の余地などなかったのでしょう。
 しかも18歳といえば高校生、高校生が100日裁判に関与などできようはずもありませんし、そこまで大きな刑事裁判ではなくても1週間、高校をお休みするなどということが現実とも思われません。
 大学生であることは辞退事由になっており、高校生も辞退事由になるだろうとは思いますが、辞退は義務ではありません。自ら「やりたい!」ということにでもなれば、高校での学業に支障を来すことも明らかです。日当に1万円くれるともなれば喜んでいくでしょう。

 上記産経新聞の記事には、次のような経験談が披露されています。
「人生経験は少ないが、自分の意見を述べることができた」。今年3月、東京・霞が関の東京地裁。強盗傷害事件の裁判で裁判員を務めた20代前半の男性は終了後、すがすがしい表情で振り返った。初日の法廷では緊張した表情を浮かべ、当初は自ら発言することに躊躇(ちゅうちょ)した。それでも、審理が進むにつれ、積極的に評議に参加するようになった。
 「裁判員としての経験は、若者が犯罪の現状を意識する契機になる」。男性は同世代の裁判員参加が必要と考えている。


 「裁判員としての経験は、若者が犯罪の現状を意識する契機になる」などという発想はまさに社会経験のための裁判員制度ということを示しています。
 自分の意見を述べられたというこの自己満足は、まさに裁判員制度が裁判員のための制度であることを示しています。
 それ以上に国民教育の場ということでもあります。この若者が典型例であり、「公共」の感覚を身につけました。そこに批判的精神が養われたのか極めて疑問です。
 このような若者の「感覚」がなければ刑事裁判が成り立たないということは絶対にないのですが、「自分がその一員だ」などと思っているとすれば勘違いも甚だしいということになります。

 高校生は大いに政治に興味を持ち活動したらいいと思います。
 その中で色々な経験をしたり、さらに自分の考えを深化させ行く過程でもあります。それと裁判員制度は別のものです。
 裁判員制度はあくまで国民を統治機構の中に組み込むためのものに過ぎず、思想教育の場でしかありません。よくよく考えましょう。
高校生の政治活動 文科省が学外では『解禁』? 高校生の政治活動の「禁止」は不当な制限

裁判員制度の問題点を解説しました。是非、お読みください。

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