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「ハンセン病制圧活動記」その31―ブラジル保健大臣とトラブル―

読者ご高承の通り、私はハンセン病の制圧と患者・回復者とその家族へのいわれなき偏見・差別との闘いを終生の仕事として世界中を飛び回っている。

WHOの定めるハンセン病制圧とは、人口1万人に対して患者1人以下にすることである。勿論、これで世界から患者がゼロになるわけでもなく、偏見・差別がなくなるわけでもない。しかし、第一段階としてこの1万人に1人以下にするという数値目標の設定は、世界のハンセン病患者を激減させる上で有効な方法であった。現在この未制圧国はブラジル1カ国のみである。

私は第一段階の世界制圧のために、今年8月、13日間の旅程でブラジルを訪問したが、そこでブラジル保健大臣と思わぬトラブルが発生してしまった。

その経過は下記の通りである。

8月6日、製薬会社ノバルティス社主催の「ハンセン病の国際会議」で挨拶。その後、保健大臣との会談までの時間に、ブラジルの保健・医療問題を解決するためにNGO代表などが集まって開催されていた国家保健審議会の会議で、急遽、議長より飛び入りで「笹川さん、何でもいいですから挨拶してください」との要請があった。

「私は世界からハンセン病をなくす活動を終生の仕事として活動しています。世界全ての国々でWHOの定める人口1万人に患者数1人以下を達成しました。しかし残念なことに、ワールドカップを開催し、オリンピックを開催される国だけが唯一、この基準を達成していません。人材も豊富、お金もあるブラジルで、何故、実現できないのでしょうか? 世界ではブラジルより条件の悪い国々でも成功しています。今日お集りの皆さんは、それぞれの地域で社会活動家として影響力がある方々とお聞きしています。是非、ブラジルのハンセン病制圧活動に興味を持ち、力になって下さい」との要旨の挨拶をした。

ここに保健省の幹部が出席していたらしく、保健大臣にご注進となったらしい。
どのように説明したのかは不明だが、大臣との会談は不機嫌そうなそぶりで、冷たい握手から始まった。

冒頭「あなた方の持っているハンセン病患者・回復者数の資料は古い。現在は25,738人(2014年)まで減っている。今年12月までに制圧する」と発言されたのですかさず確認すると、再度12月までに制圧すると発言。内心しめたと思い、これを聞いただけで訪問したかいがあったと、手をのばして大臣と握手した。

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キオロ保健大臣と握手

わずか20分ほどの会談であったが、保健大臣の言質を取ったことは大きかった。外には入室を禁止されていたブラジルのハンセン病活動団体モハンのアルツールとカメラマンが心配そうに待っていた。

しかし、保健大臣の怒りは続き、ブラジル全州から保健関係者が集まる会議では、予定されていた私のスピーチが保健大臣の横槍で急遽、キャンセルとなった。理由は「挨拶する人が急に10人にもなったので」と、主催者は申し訳なさそうに弁解した。日本で準備したスピーチを読めなかったのは残念ではあったが、保健大臣の「今年中に制圧を実現する」との言質は、私にとって何よりの「みやげ」になった。しかし、同行スタッフには心配をかけて申し訳ないことになってしまった。

保健大臣の怒りの指示はまだまだ続く。

ブラジル最大のハンセン病蔓延州であるマトグロッソ州の保健関係者に、笹川一行の世話をしないようにとの連絡があったとのことで、出迎えもなかった。しかし、マトグロッソ州の中には良識派もいた。州知事は日曜にも関わらずご夫妻で滞在中のホテルを訪ねて下さり、「ハンセン病問題は深刻です。是非ご協力願いたい」との陳情を受けた。この州の元知事の中には、マトグロッソ州にはハンセン病はゼロだと公言した方もいたのだから驚きである。

出世ラインから外された良識派の看護師も参加して下さり、ハンセン病患者の自宅訪問に同行した。一人の患者宅では、父親は患者で診療所の名簿に記載さていたが、一緒に暮らす初診断の妹、弟、たまたま休日で遊びに来ていた弟の20歳の娘もハンセン病の疑いが濃厚だった。他の一軒も同様で、同じ家族の中に新患が三人も発見された。ハンセン病は微弱ではあるが感染症であることを改めて深く認識するとともに、現在進行形の存在であり、制圧への新たな闘志がわいてきた。

この惨状はいずれ書くとして、保健大臣の怒りがなければこのような実態を知ることなく保健担当官の見学コースを視察して終わっていたことだろう。怒りの保健大臣閣下には心からなる御礼を申し上げ、今年中の制圧の朗報を心静かにお待ちしています。

後日、保健大臣の怒りには原因があったことが判明した。
一つは、会談の前日、ブラジルの世論調査は、汚職疑惑にゆれるルセフ政権への批判から、支持率がたった8%と、歴代政権の最低の数字が出て神経質になっていたこと。
二つ目は、「ワールドサッカー、オリンピックも開催でき、資金も人材も豊富な国で、何故、ハンセン病が制圧できないのか」と挨拶した会議が、インターネットで全国に配信されていたこと。
三つ目は、ブラジルでハンセン病制圧活動を展開する我々の仲間であるモハンは、保健省のハンセン病対策批判の急先鋒であることが判明した。

しかし、今回のブラジル訪問は成功であった。
保健大臣が今年中にハンセン病を制圧すると発言したこと。保健大臣の圧力により公式ルートではなく、良識派の看護師の案内でハンセン病蔓延地域を視察することができ、私の想像をはるかに超える真実の惨状を目にすることが出来たことである。

ハンセン病対策は、当該政府や担当の保健大臣の協力も必要だが、救いの手のないところで絶望しているハンセン病患者を発見し、一人でも多く救い出すことが使命だと考えている。

「何が幸いするかわからない」とは、笹川良一の口癖であった。
本当にそう思うブラジル訪問であった。

後日談だが、9月30日に保健大臣はルセフ大統領によって突然解任された。
理由はわからない。

ブラジルでのハンセン病制圧活動は下記の通りです。(移動日は含まず)
2002年1月27日〜2月5日
2004年6月30日〜7月6日
2005年2月27日〜3月1日
2006年6月10日〜18日
2008年11月17日〜19日
2011年11月23日〜28日
2012年6月20日〜22日
2013年12月17日〜21日 
2015年8月5日〜14日

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