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子宮頸がんワクチンのせいだと 苦しむ少女たちをどう救うのか 日本発「薬害騒動」の真相(後篇) - 村中璃子

【前篇】 あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか 日本発「薬害騒動」の真相
【中篇】 子宮頸がんワクチン薬害説にサイエンスはあるか 日本発「薬害騒動」の真相

 2013年4月8日、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会は記者会見を開き、1枚500円のDVDを配布した。その映像はテレビで繰り返し流れ、少女が激しくけいれんする姿に人々は心を痛めた。

  一方、以下の映像は「偽発作」と呼ばれる症状のものだ。偽発作(Pseudo seizure)とは、心の葛藤やストレスが引き金となって手足をばたつかせたり全身をくねらせたりと、けいれんのような動きを見せる発作のことであり、子宮頸がんワクチン導入以前からよく見られる。偽発作なのかけいれんなのかは、DVDに記録された患者と同様、脳波を見なければわからない。

偽発作を起こした女性。20秒ほど身体を左右に揺らし続ける動きが続く
https://www.youtube.com/watch?v=7EGYb0ajQ6E

男性の偽発作の例もある
https://www.youtube.com/watch?v=KUqlIT9SXr4

 「子宮頸がんワクチンは危ない」ということで世論は落ち着いており、子宮頸がんワクチンの副反応に関する私の記事は、無視されるか批判されるだけかのどちらかだろうと思っていた。しかし、ウェブに出した1本目の記事「あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンのせいなのか」のフェイスブックシェアはすでに1万を超え、筆者個人のフェイスブックページも1日で3万のページビューを記録している。

 驚いたのは、世間がまだこれほどまで子宮頸がんワクチンに関心を持っていたということだけでない。医療関係者だけではなく、多くの一般読者が私の記事に共感してくれたことだ。

 中でも印象的なのは、これまでの記事で何度も触れてきた、若い女性の心身の揺らぎについて、女性たちから寄せられたコメントだった。2人とも子宮頸がんワクチンのない時代に思春期を過ごした女性である。

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転換性障害と、子宮頸がんワクチンの副反応と言われる症状との類似性を告白してくれたAさん

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高校時代の苦しい症状について明かしてくれたBさん

 中学生や高校生と言えば、どんな子も自分が「普通の子」であることに気づき、失望する年齢だ。受験も控えている。もちろん、心因性と言った医師を恨み、ワクチンのせいとしてくれた人たちに感謝することを通じて治った少女もいるだろう。しかし、「新しい病気だ」という医師、代替療法、宗教、サプリ、健康食品、そして薬害を示唆するメディアの言説により、結果として病気に向き合う機会を失ってしまった少女や、適切な治療を受けることのできなくなってしまった少女たちもいる。

 子宮頸がんワクチン導入以前からこうした少女たちを診察してきたある小児科医はこう語る。

「治療を一言で言うのは難しいのですが、丁寧に子どもと向き合い話を聞いていくこと、その中で抑圧されていた不安や不満が徐々に表出されるのを待つことです。決して原因をほじくりだすような作業ではなく、寄り添い続けることで子どもが抑圧していた気持ちをふと語り始めることがあります。一方、身体に表現されている症状について否定したり『心因性だから』と片付けたりするのも問題です。こうした対応を行うと、大抵の場合は症状が悪化します。大事なのは今、彼女たちが置かれている環境が身体的な表現しか許していないと考え、その状態に付き合い続けることです」

科学的に正しいことを伝えても
治療の助けにならない場合がある

 そして、その医師は私にこうも告げた。

「科学的に正しいことを『これが正しい診断です』と患者さんや家族に伝えたとしても治療の助けにならない場合があることについてはしっかりと胸に刻んでおかなければなりません」

 世界保健機関(WHO)の試算によれば、2008年現在、世界で2500万人以上の命がワクチンにより救われている。一方でワクチンの技術は洗練され、大手製薬メーカーの開発力と資本力がなければ、安全性が高い大量のワクチンを製造する環境を作れなくなっている。そのため、ワクチンの値段は高騰しているが、その分、メーカーに求められる治験も厳しさを増している。

 海外でも新しいワクチンが出れば必ずそれに反対する人が出てくる。「病気になること」のリスクはわかりやすいが、「病気にならないこと」のベネフィットはわかりにくいからだ。

 例えば、アメリカでは大統領選で共和党から立候補したこともある女性議員のミシェル・バックマンが2011年9月、「子宮頸がんワクチンは精神遅延を引き起こす危険なワクチンだ」と発言して波紋を呼んだ。公開討論後、見知らぬ女性がバックマンの元にやってきて「ワクチンを打ったら娘が精神遅延になった」と泣きながら訴えたからだという。

 バックマンは妊娠中絶の禁止や同性婚を禁止することなどを強く訴えてきたキリスト教系保守議員。特にレイプや近親婚などの緊急時を含めた妊娠中絶禁止の立場は保守中の保守だ。日本で純潔主義を主張する女性議員が、子宮頸がんワクチン導入に反対したのを彷彿させる。

 ただし、アメリカが日本と違ったのは、バックマンの精神遅延発言の翌日には6万人の家庭医が所属する全米小児科学会が「発言には科学的根拠がなく、子宮頸がんワクチンは安全である」との声明を発表したことだ。それでも子宮頸がんワクチンのイメージは傷つき、接種率は下がったが、日本のように国が定期接種に定めたまま接種推奨を差し控えるという奇妙な事態には至らなかった。アメリカでは国民を「病気にさせないこと」に国や専門家が大きな責任を持つ。

 もちろん、どんなに厳しい治験を経たワクチンでも後から思わぬ副反応が分かることもある。そのため日本でも「子宮頸がんワクチンには重篤な副反応が疑われる」との見解に対し、改めて専門家が集まって検討を行った。「重篤例の多くは心因性である」との結論が得られ、その後、結論は変わっていない。

 日本小児科学会や日本産科婦人科学会には、国際学会からワクチン接種再開に向けて努力するよう求めるレターが届いている。知人のWHO職員から、MMR(はしか・おたふくかぜ・風疹)ワクチンと自閉症の騒ぎが英国から世界に波及したように(前篇記事参照)、「子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」の騒ぎ(中篇記事参照)が日本から世界に波及することを懸念する厳しい言葉を投げかけられた産婦人科医もいる。海外の学会に行って「日本は何やってるんだ。やり方が悪い」と何人もの外国人医師から言われたという感染症専門家もいる。

 いまやHANS騒動は海外にも知れわたり、すでに日本だけの問題ではなくなっているのだ。

「WHOは何もわかっていない」
「少なくとも僕たちは因果関係を否定していない」

 HANSを提唱する西岡久寿樹・一般社団法人日本線維筋痛症学会理事長(東京医科大学医学総合研究所)は筆者の取材に対してこう言った。「WHOは何もわかってない。僕も知り合いがいるから聞いてみたけど、ちゃんとやってない」

 さらにはこうも言う。「子宮頸がんワクチンはB型肝炎ワクチンに酷似している」

 かつて、子宮頸がんワクチンと同様、アジュバント(免疫応答を高めるために添加される微量のアルミニウムなどのこと)による免疫異常がおきると言われたワクチンがあった。マクロファージ筋膜炎(MMF)を引き起こすと言われたB型肝炎ワクチンだ。

 しかし、世界中の専門家が各国で調査を行い、データを検討した結果、病気とワクチンの間に因果関係があることは完全に否定。それでも、ワクチンの安全性を疑う声は収まらず、WHOは99年、02年、04年と3回にわたりそれを否定する羽目になったが、現在、日本含む世界中で広く接種され、先進国の多くでは定期接種となっている。 

 特に医療従事者であれば、針刺し事故による感染を防ぐため必ずこのワクチンを接種するが、西岡氏はこのワクチンを接種していないのだろうか。

 「海外でも日本でもB型肝炎ワクチンとMMFの因果関係は否定されていませんか?」と筆者が問うと、西岡氏はこう答えた。

 「いや誰もしてないですよ、少なくとも僕たちは」

 西岡氏は線維筋痛症という難病の研究に尽力してきた人物でもある。こうした医師がHANSという新しい難病を掲げることで、思春期の少女たちを苦しめる症状に目が向いたこと自体は良かったともいえる。しかし、ワクチンに心身の反応を起こす少女たちがいることと、ワクチンの良し悪しは別問題だ。もちろん、100%安全な風邪薬がないように100%安全なワクチンもない。よって、ワクチンによる重篤な副反応が例外的に生じることはある。しかし、「ワクチンのせいだ」とする少女たちの訴えすべてにそのまま同調し、エビデンスなしに「新しい薬害を見つけた」と主張することは、本当の意味で彼女たちの苦しみに向き合うことなのだろうか。

 「ワクチンのせいかもしれない」と思う。「ワクチンの被害者だ」と周りの大人たちが言えば、やっぱりそうなのだと思う。中には、一度、ワクチンの被害者になってしまったがために、ワクチンの被害者でなくなるきっかけを失って苦しんでいる少女もいるに違いない。

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子宮頸がんワクチン導入以前、思った通りに身体を動かせなくなったBさんは、心因性との診断を受け、その後症状は自然に治ったという

 いま、日本はワクチンを否定しなければ少女たちが救われないというようなドグマに陥っている。しかし、ワクチン接種による多くの女性たちの病気の予防と、症状に苦しむ少女たちの治療や救済は両立する。

 日本に似た理由で子宮頸がんワクチンの接種率が低迷している国もある。しかし、オーストラリアではすでに約10年の定期接種の実績があり、男子への定期接種も始まった。日本人だけに副反応の多いワクチンや、オーストラリア人だけに副反応の少ないワクチンなど本当にあるのだろうか。

 私たちは声の大きい人たちの声だけを聞いて騒ぎを広げ、日本だけでなく世界中の女性の「守れる命を守ること」に与える悪影響に対し、これほどまで無自覚であってはならない。

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はっきりと見え始めた子宮頸がんワクチンの実力

 最後に筆者のもとに医師たちから寄せられている数多くのメッセージの一部を紹介したい。

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疼痛の治療研究を専門とする医師からのメッセージ

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ある内科医からのメッセージ

 この記事を出すには大変な勇気が必要だった。筆者が製薬会社の回し者である、国のプロパガンダを広げる御用医師だといった根も葉もない中傷も寄せられている。そういった反応があるのは想定の範囲内だったが、考えてみてほしい。この記事を書くことは筆者にとってリスクになることはあれ、どんな得になるというのだろうか。

 しかし、記事を出した意味はあった。一般の読者からも共感の声が聞かれ、なによりもワクチン接種とは関係なく同じ症状に苦しんだ経験のある女性たちの声や、子供にこのワクチンを打たせ、報道に戸惑う親の声、あるいは子宮頸がんで大事な人を失ったという人の声などを聞くことを通じ、真摯にこの問題を考えている人々が社会にこれほど多くいたことを知ったからだ。

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 医療界の片隅にいるひとりとして書いたこの記事が、専門家が考えていることをはっきりと口にし、政策担当者が専門家の科学的意見に基づいて意思決定をするきっかけとなることを願う。そして、症状に苦しむ少女たちが1日も早く正しい方向で救済されることを。

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