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ドン・キホーテ創業経営者 安田隆夫「社長の器、経営の神髄」 - 26期増収増益で勇退決断【後編】

流通コンサルタント 月泉 博=聞き手・解説

ドンキホーテホールディングスのカリスマ創業経営者、安田隆夫氏が経営の一線から退いた。業界の常識を無視した「異端児」が今や、既存の小売業大手を脅かす存在に成長した。それは、「安田隆夫」というカリスマの存在なしにはありえなかった。最愛の「わが子ドン・キホーテ」を手放した今の心境を、安田氏が激白した。

※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/16411)

《ドタバタ劇のようなことを繰り返しながらも、安田氏は頑として流通のプロや経験者を雇わず、ドン・キホーテをあくまで素人集団で押し通した。プロや経験者を雇えば、他のディスカウントストアと同じ店になってしまうからだ。それくらい、事業、業態としての独自性にこだわったのである。》

――結局、最後は素人集団の従業員に「丸投げ」することにした。

【安田】八方手を尽くしたが、それでも思うような店はなかなかできなかった。最後は、「これでダメならもうやめよう」と腹をくくって、商品部門別に、仕入れから陳列、販売まで担当者にすべて丸投げした。それも各部門の担当者全員に、それぞれ専用の預金通帳を持たせて商売させるという徹底した権限委譲を行った。つまり、各部門の担当者が「個人商店主」になるというシステムだ。この「権限委譲による個人商店主システム」は、後年のドンキ最大のサクセス要因になった。

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ドンキホーテホールディングス創業会長兼最高顧問 安田隆夫氏

――当時、会長は卸売業も営む商品の選定・仕入れにおけるプロ中のプロだ。徹底した権限委譲に、迷いや逡巡はなかったのか。

【安田】私が実行した権限委譲は、まさしく板長が見習の皿洗いに板場を任せるようなものだからね。そりゃハラハラし通しだったよ。たとえば同じ商品を、私が(卸売業で)卸す売値より、わざわざ他社から高く仕入れてくる奴がいたりとかね、そんな下手や失敗は山のようにあった。

それでも私は口を出さずにじっと耐え、彼らを見守った。以前とはうって変わって、社員がいきいきと仕事をし出したからだ。

《従業員たちがドンキ流の圧縮陳列を実践できなかったのは、安田氏が泥棒市場で得た原体験を共有できていなかったからだ。だが徹底した権限委譲を実行することで、従業員たちは自ら試行錯誤し、失敗や成功の体験を積み重ね、ノウハウを取得していった。

結果的に、安田氏は、従業員たちに「泥棒市場」時代の原体験を疑似共有させることに成功した。その後、この権限委譲システムは安田氏の想定以上の好循環を始め、ドン・キホーテの大躍進を支える礎となった。》

――ドン・キホーテという企業・業態における最大の強みは、何といってもその「オンリーワン性」にある。これだけ成功したビジネスモデルであるにもかかわらず、いまだライバル企業が出現していないからだ。

【安田】通常、この業界でサクセス業態が登場すると、われもわれもとそのコピー業態が後続参入して、あっという間に「業界」が出来上がる。郊外紳士服業界しかり、コンビニエンスストア業界やドラッグストア業界しかりだ。ところがドン・キホーテにはそれがない。当社のカテゴリーは、「業態あって業界なし」だといえる。

なぜドンキに後続モデルが出ないのか。マネができないからだ。その最たる理由は、(先ほど述べた)「権限委譲による個人商店主システム」を実現しながら、そのシステムを多店舗で運用しているところにある。

ドンキはある意味で、チェーンストア(本部がコントロールする標準化したシステムによって多店舗展開する小売業態)の対極に位置する、難解かつ複雑な「属人的」企業であり業態である。だからコピーできない。

危機を迎えるたびに、乗り越え成長してきた


――ドン・キホーテは府中の1号店以来26期連続の増収増益で、数字上は順風満帆に見える。だが現在に至るまでは紆余曲折の連続で、企業存亡の危機に見舞われたのは1度や2度ではない。たとえば90年代末には、出店や深夜営業に対する住民反対運動が勃発したし、04年には一連の店舗放火事件により、ドンキに対する執拗なネガティブキャンペーンが張られた。

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ドン・キホーテ26期連続増収増益

【安田】危機に陥るたびに、それを脱して立ち上がり、さらなる成長拡大を遂げるという繰り返しが、これまでのドン・キホーテの歴史だった。振り返ってみると、大きな危機に陥るほど、その後大きく成長した。だから危機はいわば、「成長痛」のようなものだったのかもしれない。

それに自慢じゃないが、私ほど数多くの失敗をし、危機に直面し、それをくぐり抜けてきた経営者はいないだろう。だから、とにかく打たれ強い。少なくとも土俵際で踏ん張って、立ち直るパワーに関しては、誰にも負けない自信がある。

なぜパワーが出るかといえば、自分の家族同様、いや、ある意味それ以上に愛する存在である「わが子ドン・キホーテ」のためだからだ。

――「禍福は糾える縄のごとし」というが、ドンキは幾多の「禍」を乗り越えて、それを上回る「福」を掴み取ってきた。

【安田】不思議なもので、当社に訪れる禍福は、私の人生同様、いつもボラティリティ(変動幅)が大きい。だから「禍」の風の強さだけ考えて嘆いてもしょうがない。「これは次の大きな福の風が吹く予兆なんだ」くらいに思わなければ。

何度も「大禍」を耐え忍べたのは、会社を命がけで愛しているから。私がつくったドン・キホーテという店と組織を何が何でも守り、絶対に毀損させないぞという執念が、異常なまでの頑張りと予想もつかない知恵や発想を生んだ。それが新たな「大福」を引き寄せる誘い水になったということだろう。

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波瀾万丈のドン・キホーテ史

――ただ、実際の経営現場における「禍」のプレッシャーは、筆舌に尽くしがたいはず。そんなとき、リーダーとして毅然としたところを見せるため、どう心を静め、乗り越えてきたのか。

【安田】そういう「禍」や不運に遭遇して、一番動揺しているのは、実は私だ。でもそれを部下に見せれば、社内で動揺がどんどん増幅する。それはまずいから、とにかく平静を装う。そうして装い続ける作業を、朝から晩までやっていると、それが演技なのか、本来の心境なのかわからなくなってくる(笑)。いい意味での「演技性人格変貌」みたいなものだ。要はそこまでやらないと、経営者としては乗り越えられないということ。少なくとも気分転換的な手法では、絶対に乗り越えられないと思う。

《冒頭で安田氏は、ドン・キホーテのビジョナリーカンパニー化を目指していると語った。自他ともに認めるカリスマ経営者として君臨してきた安田氏は、自ら勇退するに当たって、カリスマ不要の経営を提唱しているのだ。

もちろんこれは、自己否定ではない。安田イズムとそのDNAは、前出の『源流』に脈々と受け継がれている。今は業績絶好調な同社だが、思いもよらぬ「大禍」が、いつやってこないとも限らない。安田氏なしでそれを乗り越え、さらに大きな「福」を手にしたとき、同社は名実ともにビジョナリーカンパニーの仲間入りを果たすだろう。》

ドンキホーテホールディングス創業会長兼最高顧問 安田隆夫(やすだ・たかお)
1949年、岐阜県大垣市生まれ。73年慶應義塾大学卒業後、不動産会社、フリーターなどを経て、78年ディスカウントショップ「泥棒市場」を創業。80年ジャスト(現ドン・キホーテ)を設立。泥棒市場は繁盛店となるも5年で売却。83年リーダーを設立し卸売業に参入。同社を関東有数のディスカウント問屋に成長させた。89年東京・府中市にドン・キホーテ1号店を開業。98年東証2部上場、2000年東証1部に変更。05年代表取締役会長兼CEO就任。15年CEOを勇退し現職。著書に『情熱商人』『ドン・キホーテ闘魂経営』(ともに月泉博氏との共著)ほか。

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