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「軽減税率より給付付き税額控除を」と掲げているのは民主党であり維新の党だ。

アベノミクスは株価上昇と大企業の業績アップをもたらしたが、国民・庶民にとっては物価上昇と実質賃金の低下でむしろ生活実感は苦しくなっている。世論調査で「安保法制に60%の人が反対」とか「原発再稼働に60%の人が反対」とか言われるが、「景気回復を実感しているか」という設問には80%もの人が「実感せず」と答えているのだ。このような世論の状況では安倍政権としてもなかなか厳しいだろう。

そこで、内閣改造にあたり、「一億総活躍」とか「新3本の矢」とか、苦し紛れのスローガンが繰り出される事となった。しかしこれがまた「中身がない」と悪評ふんぷんで、これまでアベノミクスに期待していた識者からも与党内からも相当な疑義が投げかけられている。ここは安倍政権にとって正念場と言えるだろう。

一方、安倍政権は、2017年4月の消費税10%への引上げを明言するとともに、公明党との約束である軽減税率の導入を同時に行なう方針を打ち出した。元々、財務省が考えたマイナンバーカードを使った還付金の案を自民党税調は推していたようだが、読売新聞のすっぱ抜きにより事実上潰され、野田毅税調会長のクビをすげ替えてまで、軽減税率の導入に舵を切ろうとしている。

私は、前提条件を満たさない消費税率の引上げにはそもそも賛成ではない。やると言っていた定数削減も一つも進んでいない。財政再建と言いながら102兆円の概算要求と歳出膨張を許している。そして社会保障の充実のためと言いながら介護にも医療にも充てられている気配はない。これで10%への増税など論外と言うべきだ。「消費税」と言うだけにその増税は消費を冷え込ませる悪影響が大きく、経済の本格的な腰折れを招く事態も強く懸念される。

それに加えて、軽減税率の導入は賛成できない。低所得者のみならずお金持ちも同じものを買えば軽減税率の適用を受け、担税力のある人から巨額の取りっぱぐれが生じる。何が軽減税率の対象となるかの線引きで財務省への陳情合戦が必ず起きるのは、新聞業界の我田引水の思惑に満ち溢れた誘導的な報道ぶりを見ていれば一目瞭然だ。中小零細店舗は商品により異なる税率で事務負担が増すので、軽減税率の導入に戦々恐々としている。

それならば、マイナンバーによる所得捕捉を前提として、必要な人に必要なだけの額の所得補償を行なう、いわゆる「給付付き税額控除」の方が、はるかに有効な低所得者対策になるのは明らかだ。アメリカ、イギリス、カナダ等で現に行なわれている。(図) これまでの日本における所得再分配というのは、もっぱら現役世代から高齢者への年齢層に着目した所得再分配に偏ってきた。しかし今や個人金融資産1700兆円の6割以上を保有しているのが60歳以上の高齢者であり、むしろ20代、30代の若い勤労者が、非正規労働者が4割を占める状況の中で働きながら年収200万円台というような低収入にあえぎ、結婚も子どもを持つ事もできないでいると言われている。

以上のような状況を踏まえれば、これまでのように年齢層に着目するのではなく、高齢者か否かにかかわらず、「困っている人」「困っていない人」に分けて、「困っていない人」から「困っている人」への所得再分配を行なうべきである。(図) それを可能にするのが「給付付き税額控除」であって、必要最低限の生活保障を必要な人に過不足なく行なう事で、その他の重複する給付型施策(例えば基礎年金や生活保護)のスクラップアンドビルドを同時に実行する事も可能になり、社会保障給付の効率化に繋げる事もできる。一部の経済学者が「ベーシックインカム(BI)」と呼んでいるものが部分的に実現する事になる。 冒頭、アベノミクスによる経済回復の行き詰まりを指摘したが、とりわけ課題となっているのはGDPの6割を占める個人消費の低迷である。生活への先行き不安が根強くあるからこそ手元のおカネが消費に回らないとも言われており、高齢者が老後に巨額の個人金融資産を抱え込んで使わないのも同様の理由によるものと思われる。だとすれば「ベーシックインカム(BI)」により最低限の生活水準を保障する事で、低中所得者の所得を底上げし、過度の貯蓄に向かわせている先行き不安を解消して、全体としての消費性向を高める効果を期待できるのではないか。

軽減税率か給付付き税額控除かという二者択一の議論は、野田政権による消費税10%への増税決定時から、ずっと議論されてきたテーマである。そして自公は軽減税率を選んだ。「軽減税率より給付付き税額控除を」と掲げているのは民主党であり維新の党だ。ここにも当面の政策における対立軸が見えてくる。

日本経済の目の前の最大の問題は、家計や企業に貯まっている巨額のおカネが眠ったまま動かない事だと言われている。眠ったおカネをどう動かしていくか、それにより消費と投資の増を起点とした経済成長をいかにして実現していくか。野党側の私達もアベノミクスの弾切れに対して、それに代わる有効な政策上の選択肢を提示しなければならない。それでこそ<平成の大同団結運動>の意味が出てくるというものだ。

今回の文章の補足資料として、簡単な図を2枚、添付しておきます。いずれも過去の予算委員会の質問で用意したパネルの画像です。


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