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鈴木敏夫に聞いてみた。

先週、所用でスタジオ・ジブリの鈴木敏夫さんにお会いした時のことである。遠慮の無い私は今までかなり酷い質問や程度の低い悩みを鈴木さんにぶつけて来た。その都度、鈴木さんは嫌な顔一つせず思うところを正直に述べてくれた。それは時に芯を突き、時に知略に長け、時に残酷な真実を指摘し、時にとても乱暴で、時にとても楽観的だった。しかし鈴木さんの答えは不思議な効果を持っていて、想定外の答えが出てくるので、全く私のアプローチと違うこともあり、たいがいの悩みなどは雲散霧消してしまうのが常だった。

その日は、「出版」の話だった。実は私は鈴木さんのおかげで一冊の本を昨年、上梓し、出版の世界を少々知る様になった。そして、最近、私が企んでいる、ある「出版計画」の話になった。もちろん鈴木さんは、かの怪物・徳間康快の右腕で絶頂期の徳間書店を支えた男である。アサヒ芸能からアニメージュまで。鈴木さんにこんな事を言った。・・・・・私の出版計画を4社程に話をするとその編集者が必ずこう言うのだ。

「面白い!こういうの待っていたんですよ。これイケますよ。」

しかし、1週間位、じりじり待っていると編集者から電話が来て「データだとこの本は売れないと上司に言われてしまって。」とか「営業部が、この手の本は売れない、と言っていまして。私は面白いと思うのですが」と言ってくる。ご丁寧に同じジャンルの類書のデータを送ってくる編集者もいた。・・・・・

そして、思い切って鈴木さんに聞いてみた。

「鈴木さん、これはいったいどういうことでしょうか?」

即座に鈴木さんが答える。

「出してしまえばいいんですよ。それを面白いと思った編集者が勝手に。上司をだましたり、隠して出すんです。僕らはそうやってきた。そういうもんでしょ。この表現の世界はなんでも。」

『出しちゃえばいい…』しかし今の2重3重のチェックシステムでは難しいのではないか?しかし鈴木さんはかまわず続ける。「当時、FAXの機械が200万円位したんですが、編集部でこれがほしいと盛り上がって上司に無断で勝手に買ってしまったんです。また、みんな自分が惚れ込んだ作家や企画で本を勝手に出してましたね。玉石混合だが、惚れ込んだモノには力が籠る。だから凄い本が出来た。…今の出版界はね~。どうなんでしょうかね~。」ここで鈴木さんは煙草を一本くわえ火をつけて遠くを見る。何かに思いを馳せているのか。鈴木さんは滅多に個人や会社や業界を批判しない人だ。しかし、出版界に身を置いていた鈴木さんには忸怩(じくじ)たるものがあると想像された。

そういえばTV界に30余年いた私の場合も最初はそうだった。上司の許可も得ず自分の名刺1枚で有名文化人と勝手に番組をやりませんか?と提案したりとか。勝手に本の原作者に企画書を依頼したりとか、ダミーの企画書を出して全く違う自分好きな世界を番組にしたりしていた。会いたい人に勝手に会いに行っていた。そして第一、企画書そのものがほとんど無かった。編成のキーパーソンや上司に職場や酒場でその企画を1分位で囁くのだ。「凄いものを思い付きました。」と言って相手をあの手この手で籠絡し、「しょうがねえなあ。お前はしつこいから、今回だけやらしてやる。」と言われたらこっちのものだった。もちろん数字が悪ければ凹むが、しばらくすると性懲りも無くまた妙な企みを考案していた。…思えばこの世界はギャンブルなので「誰もやった事がないこと」は大ハズレであったり、当たりであったりする。それが表現の幅を広げ多様性を生み、時にトンデモナイ大ヒット・大傑作を生んだりすることがある。

劇作家・寺山修司の「書を捨て街に出よう!」ではないが、「表現者よデーターと組織の呪縛を離れ、やりたい事をよってみよ!」…というのがこの閉塞状態を抜け出す最短距離かも知れない。「やってみたい」というパッションを矮小化しないようにやりたいことを「実際にやっちゃうこと」そこにはデーターも中途半端な分析も厄介な会議も上司も他の部署も介さない。最低、決定権を持つ一人の人間がいればいい。

何でも拡大解釈してしまう私は鈴木さんの『出しちゃえばいい!』と言う言葉から極端にもそんなことを考えたのであった。 そう言えば、鈴木さんは、あの時こんなことも言っていた。「朝9時から夜中の2時〜3時まで、毎日本当に楽しいんです。酒なんか飲んでも仕事にならないし、飲む必要もなかった。だって、毎日本当に楽しいんだもん。」その楽しさは徳間書店時代からスタジオ・ジブリまで続いているのだからある意味すごいのだが。しかも、鈴木さんは滅多なことで苦労を見せないし、小アニメプロダクションを宮崎・高畑とともに世界のジブリに仕立てあげて来たのだから山の様な深難刻苦を乗り越えてきたのは間違いない。・・・時々鈴木さんと会うと「いろいろありますね~」と会話の口火を切ることがあるが、これまで私などには想像も出来ない「色々な事情」を呑み込んできたのであろう。

あの日、最後にふと聞かれた。「ところで吉川さん毎日楽しいですか?」今、私は自分がやることに極力入り込めるような環境にいるので、「とても楽しい。」と答えると、鈴木さんは『それは良かった』という風にまっすぐ私の目を見て、鈴木さんは真顔でうなずくのであった。…「こういう仕事は楽しまなければならないのだ」と告げるかの様に。 (了)

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