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「弱いオバマ」後の米国の選択 - 岡崎研究所

ワシントンポスト紙のコラムニスト、イグネイシャスが、9月10日付同紙にて、米国の力の影響力を如何に維持していくべきかにつき正直な外交議論が必要とされている、と述べています。

 すなわち、アチソン元国務長官は回顧録の中で、自分達が信じていた地政学上の多くのことが間違っていた旨述べている。過去50年の米外交の担い手達はいずれも世界の大変化を感じ取ってきた。キッシンジャーは回顧録を「激変の歳月」と題し、シュルツは「動乱の世界」と題した。

 オバマ政権の終了が近づく中、無秩序の世界で米国の力の影響力を如何に維持していくべきかというジレンマが再び問われている。オバマはイラクのような武力行使の間違いをあらゆる創造力を使って避けようとしてきた。しかし、大胆になるロシアと台頭する中国を阻止することには失敗し、また中東から抜け出すという試みは却って一層多くの問題を引き起こした。オバマは世界中から弱い大統領と看做されている。

 米国が後退し他国は進出している。それは中東で明白だ。かつて米国の覇権に従ってきた国々が今や単独で積極的に行動している。ロシア、サウジ、エジプト、トルコ、イラン等が真空を埋めようとしている。小国のカタールやアラブ首長国連邦さえもそうだ。

 しかし「弱いオバマのせいだ」と外交課題を個人化することは問題の深刻さを矮小化するものだ。共和党大統領選候補者達は圧力と武力行使の示威によって米国の力を回復できると主張する。しかし、それは米国の力の古いモデルを徐々に無意味にしている世界の変化を無視している。

 ヒラリー・クリントンは9日のブルッキングスでの外交演説で、オバマの「反応的外交」に対する批判を述べた。一般的にオバマの政策を支持したものではあったが、ロシアとシリアについてはもっと積極的な政策をとるべきだったと主張した。米国の力につき、クリントンはオバマに比べ伝統的な考え方により近く、力の投影についてはより積極的な感じを与えた。

 僅かな調整で米国の優位を回復できるとするクリントンが正しいのか。イラン核合意の破棄など米国の力の一方的使用の回復を主張する共和党が正しいのか。 

 技術や通信の発達が国家や同盟を分散化させ力の展開は今まで通りにはいかないという21世紀の現実に適した米の力のビジョンとは何なのか。これこそ大統領選挙ですべき外交議論だ。ベトナム、イラク、アラブの春のように、ある時点で正しいと思ったことがとんでもない間違いになりうる。グローバル化した経済は、ゼロサムゲームではなく、中国の利益は米の利益でもある時代だ。

 次期大統領は不安定になった世界システムを強固にしなければならない。米国の力の新しい創造的な適用の必要性は、アチソン等が直面した問題と違わない。今日、我々は不毛な、しばしば不正直な外交議論をしている。これは変えるべきだ。クリントンの演説はその契機になるかもしれない、と述べています。

出典:David Ignatius,‘The critical foreign policy debate that America needs to have’(Washington Post, September 10, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/giving-us-foreign-policy-the-importance-it-deserves/2015/09/10/bce8e854-57d9-11e5-8bb1-b488d231bba2_story.html

* * *

 このコラムは、重要な問題提起をしています。イグネイシャスは、米の新しい力のビジョンとは何なのかについて、正直な議論をすべきだと主張しています。党利党略のための議論ではなく、世界の変化とジレンマを踏まえた真面目な外交議論が必要だということでしょう。ただ、最終的に重要なことはこの問題への答えです。世界の変わったことと変わらないことを厳しく理解し、理念を共有する国が米の指導力を支え、時には正し、時には内向きになるのを防ぎ、非国家プレイヤーの脅威と今にあっては中国とロシアの挑戦に対処していくことによって秩序を保つ他ないのではないでしょうか。イグネイシャスが答えを示していないのは残念です。

 イグネイシャスが言及している、9月9日のクリントン政策演説は、イラン核合意に関するものですが、その中で、今後の大統領選の外交議論について、恐怖ではなく事実に基づき議論をしよう、意見の違いがあるのは認めるが自分に同意しない人を愛国主義や忠誠心がないと誹謗することはやめるべきだ、そして何よりも海外での米の信頼を傷つけることはやめるべきだ、米国は一つのチームで動くべきだ、と強調しています。

 米大統領選挙戦は、党内の競争と党の間の競争という二つの競争から成り立っています。今は主として党内競争の段階である。共和党内の競争ではいきおいオバマ批判が高ぶり、党内保守派の支持を得るため過激な発言が出やすく、さらに、今年はトランプの激しい乱暴な議論が影響しています。クリントンの発言は、そのような現状を踏まえ真面目な外交議論の必要性を訴えるものです。

 イグネイシャスの指摘は、我が国にも当てはまります。これまでの安保法制等の外交議論を見ると、安全保障環境の激化や我が国の国際社会での立ち位置等の観点からの議論よりも政党的、政局的な議論が多すぎると感じます。また、日本のメディアではイグネイシャスのような警鐘を鳴らす意見も目立ちません。我が国でも事実に基づく正直な外交議論が必要とされています。

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