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“日本らしい”多様な形の難民支援が必要

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不安定な状況が続く中東各地から逃れ、欧州を目指す難民の増加が問題となっている。日本はこの問題にどのように関わっていくべきなのだろうか。難民の支援と保護活動を行っている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報官・守屋由紀氏に、難民問題の基礎や必要となる支援について話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

混迷が長期化する難民問題


-シリアの難民問題が連日報道され、注目が集まっていますが、そもそも「難民」とは、どのような人たちのことを指すのでしょうか。

守屋由紀氏(以下、守屋):日本語の場合、「難しい民」と書いてしまうので、「就職難民」「結婚難民」といったように何か困難な状況にいる人達のことを、すべて簡単に「難民」と言ってしまっているところがあります。

1951年の「難民条約」における定義によれば、難民とは、「紛争や人権侵害などの迫害によって、命を脅かされ、自分の故郷を去り、国境を越え、他の国に庇護を求める人達」を指します。

この定義における迫害というのは、“その人である”ということによって受ける激しいいじめのようなものだと考えればわかりやすいと思います。例えば、その人の国籍や肌の色、所属している社会的な集団や、国によっては性別によって迫害を受ける場合もあります。最近であれば、LGBTなどの個人的な嗜好や政治・思想的立場によって迫害を受けることもあるでしょう。

政権批判などをすることによって、投獄され拷問を受け、死に至らしめられる可能性のあるような人達が自分の母国から逃れ、他の国に助けを求める状態。これらの定義にあてはまる方々が難民です。

―難民の人たちに対して、UNHCRはどのような支援をしているのですか?

守屋:一言で言えば、難民の方々に対しての国際的な保護と支援です。非常に厳しい避難生活の中で難民の方々が人としての尊厳を保つための支援、難民問題の解決に繋げるための支援を行っています。

私たちと同じように日々の生活をしていた人たちが、紛争や迫害を逃れるために、すべてを投げ打って、着の身着のまま国から逃れなければいけない。逃れた先の国では、元々やっていた仕事と同じ仕事につくことが理想でしょう。例えば、元々パン屋なら、パン屋として生計を立てることができれば理想的ですし、今まで教育を受けていた学生は同じように教育を受けられることが望ましい。ただ残念ながら、なかなか理想のとおりはなりません。その中で我々UNCHRは、子供たちに、可能な限り教育の機会を提供することで、難民としての避難生活の間、教育の機会がごっそり失われてしまうことがないようにしています。

また、難民の人たちが自分の故郷に帰り、そこでも元々と同じような生活を築くことが理想なので、そこに至るまでの支援と専門知識をつけるための訓練も実施しています。

-難民問題の解決の理想の形は、「故郷に戻って、元の仕事につく」ということだと思いますが、現実的には難しい部分もあるでしょう。解決には、他の形もあるのでしょうか。

守屋:UNHCRにとっての究極の使命、「難民問題の解決」というのは大きく分けて3つあります。

1つは、もちろん故郷に帰ること。「帰還」というのですが、元の場所に帰って、同じように生活が出来ることです。

2つ目は、避難をしている、庇護を受けている国で「定住」すること。理想的には、そこの市民権を得て他の市民と同じような生活を続けることが出来ることです。

3つ目は、特に現在のシリアの問題において出てくる言葉かもしれませんが、「第三国定住」です。

例えばシリアからレバノンに逃れている人たちがいるとしましょう。シリアというのが故郷である第一の国で、庇護国であるレバノンが第二の国になります。庇護国にいる人達を別の国、例えばドイツがシリア難民を「受け入れます」というと、ドイツが第三国目になります。

これらの解決策に至るには、本当に様々なプロセスがあるのですが、現在では残念なことに、解決策を見いだせていない状況があります。元々、UNHCRが設立された背景には、第二次世界大戦終了後に、欧州で多くの人たちが難民状態だったという歴史があります。その人達の生活を再建するために、国連の中で出来た組織がUNHCR=国連難民高等弁務官事務所なのです。当時は、恐らく数年すれば問題は解決するだろうということで、3年毎に見直しされる期間限定組織でした。

しかし、第二大戦後、問題は欧州だけでなく、アジアにも広がっていきました。さらに60年代になりますと、アフリカの国々が植民地から独立する中で、UNHCRの活動もドンドン広がっていったのです。そして、見直し期間が3年から5年になり、恒久的な国連機関になったのは2003年と比較的最近のことなんです。

私たちの理想は、支援する難民の人たちがいなくなることですが、現在難民は本当に増えています。世界には6000万人に上る人が、難民もしくは、国内で難民と非常に似た「国内避難民」という状況に陥っています。

―難民問題は悪化する一方ということなのでしょうか。

守屋:先程お話しした3つの解決策にたどり着く人が増えればいいのですが、現実には難民状態の人々が増えるばかりで、問題解決には至っていません。

シリアの難民問題について考えると、ほとんど先が見えない状況です。まず紛争が終わることが必要ですが、仮に終結したとしても、それをよしとしない不安因子もいるので、不安定な状況の中で平和教育や開発を進めなければなりません。学校、病院といったインフラや雇用が生まれるような環境を作っていくというのは非常に長い道のりです。

シリアの場合、2番目の解決策であるの「定住」についても厳しい状況にあります。シリア難民が、レバノンでレバノン人と同じような権利を得て生活するようになることは、ほぼ不可能だと思われます。レバノンは、人口400万人の非常に小さな国で、なおかつ暫定政権です。元々、中東における様々な不安因子をたくさん持っている国にも関わらず、陸続きで移動しやすいこともあり、なんと100万人以上のシリア難民を受け入れているのです。

そうした状況の中で、私たちUNHCRは他の国々に対して「第三国定住」の道を開くように声をかけています。周辺国の負担があまりにも大きいため、20万人の難民の受け入れを他の国々に呼びかけているのですが、それに対して、ドイツやスウェーデン、離れたところでは、アメリカやブラジル、アルゼンチンといった国が受け入れを表明し始めています。先の見えないシリア危機に対して国際社会が連帯して対応しようという機運が、かつてない程高まっている時期が今なのです。

-過去の例を見ると先ほどの3つの理想形に辿り着く難民の割合は、どのぐらいなんでしょうか?

守屋:残念ながら非常に少ないのが現状です。2014年に母国に「帰還」を果たした人は約12万人ほどでした。難民の数が増えているにも関わらず、帰還を果たす難民の数が伸び悩んでいるのが現状です。

シリア問題は5年目に突入しているのですが、同時に他の地域でも紛争が後を絶ちません。それほど報道されていませんが、例えば日本の自衛隊も活動している南スーダンや中央アフリカでも、多くの市民が故郷に帰れない状況が起きています。

国境付近に難民が集まる現在の欧州は“非常事態”


-日本の場合、四方が海に囲まれているので、隣の国から人が入ってくるという状況がイメージしにくいのですが、現在、ニュース映像を見ていると、難民の方々がどんどん簡単に国境を超えているように見えます。欧州では、こうした難民の移動というのは、一般的なのでしょうか。

守屋:欧州でも国によって違いはありますが、それこそ天気予報のように当たり前に難民が入ってきたことが報じられる国もあります。欧州でも、当然国境には税関のような施設があります。本来であれば、そこでパスポートや身分証明書を提示し、許可を得た上で入国します。なので、有刺鉄線などをくぐったりするような、今まさに報じられている状況というのは、かなりの非常事態なのです。通常であれば、一人一人、国境のゲートを通って手続きをして入ってくるのですが、今は通常よりも遥かに数が多いので対応しきれていません。

ゲートではないところから流入してくる人達もいるため、難民を受け入れることができない国では、元々無かったフェンスを建てたり、国境を封鎖したりしています。しかし、本来国境というのは、開放されてしかるべきであり、特に日本を含めた難民条約に加入している国々では、庇護を求めてきた人たちを受け入れることが定められています。なので、国境を封鎖したり、塀を立てるといった欧州のいくつかの国々の対応は国際協定の理念に則って考えれば、やってはいけないことなのです。

-通常時であれば、難民であっても検問所に行き、しかるべき手続きを踏めば国間の移動が出来る。ただ現在は、増えすぎたために、手続きが追いつかなくなっているという状況なんですね。

守屋:例えば、ギリシャは現在、経済的に大変な状況にあるわけですが、地理的にヨーロッパの玄関口のような場所にあるので、船で辿り着いてくる難民が多くいます。元々は、国境警備が厳しく取り締まっていて、本来あってはならないのですが、過去には送り返すという対応もしていました。しかし、今はお手上げ状態です。どんどん難民が入ってきています。

現在では、多くの人がスマホを持っているので、難民の人たちも情報をたくさん持っています。そのため、「○○国の国境が閉鎖されそうだ」という情報が広まると一斉にそこに向けて移動するというようなことが起きるのです。

今回のシリア危機、大量の難民流出の原因の一つには、私たちUNHCRの資金不足も挙げられます。世界経済の問題もあるのですが、やはり長期化によって、ニーズが増え、予算が膨らまざるをえない状況にある。それによって、支援する側も疲れてきているという側面があるのです。

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