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小泉進次郎よ、帰りなん、いざ横須賀へ〜なぜスーパースターは〝謀反〟したのか - 常井健一

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去る10月7日、菅義偉官房長官が発表した安倍改造内閣の閣僚名簿に、小泉進次郎衆院議員の名前はなかった。

もし抜擢されれば麻生内閣の小渕優子少子化担当相(当時34歳9か月13日、当選3回)を凌ぐ〝戦後最年少大臣(34歳5か月24日、当選3回)〟となるため、一部メディアからは期待の声が上がっていたし、彼を重要ポストに起用しようとする動きは実際にあった。彼の言動を追い続けてきた筆者にも組閣前からコメント取材や原稿依頼が相次いだ。

しかし、それは空騒ぎに終わった。

スマホで閣僚にも副大臣・政務官にも進次郎氏の名がないと知ったとき、筆者は一面でホッとすると同時に、反面ある名状しがたい諦念を覚えざるを得なかった。いや、組閣の2日前、六本木ヒルズで行われた講演で進次郎氏の疲れ切った表情を眺めていたときから、筆者の胸中にはいたましさがつのった。

<官僚はできない理由を考えるプロ>

ノーネクタイ姿で現れた進次郎氏は冒頭、壇上の巨大スクリーンにそんな活字を映し出し、5000円の会費を払った300人の聴衆たちから笑いを取った。しかし、彼は野党議員でも陣笠議員でも、ましてや評論家でもない。退任間近とはいえ、海千山千の官僚たちの操縦を国民から任された、現役の政府高官だ。霞が関の執務室で、とことんやりあえば良い。なのに、わざわざパワーポイントを作ってまでこれ見よがしに〝部下たち〟を公開批判する。そのような後ろ向きの態度を見て、早くから彼の自由な言動に注目してきた同世代の筆者もさすがに驚いた。

小泉進次郎という政治家ほど、疲れと怒りが顔に出てしまう「将来の総理候補」も珍しい。その日の視線は鋭く、目元が黒ずみ、むくんでいた。落語のように頭の中に小話をいくつも用意して、聴衆の顔色を窺いながら「まくら」でつかみ、巧妙にネタを転がしていくのが彼の得意技だが、いつになくナーバスな面持ちで何かを言いかけたり、話がすべったりする様子が目に余った。

「まあ、私は政府の中では少数派ですから」

2時間にわたるイベントの最中、そんなボヤキまで連発していた。

今のところ新聞やテレビが彼の行政手腕を厳しく報じることはないが、初めて政府に入った2年間、被災地への視察に多くの報道陣を従え、政府の取り組みをワンフレーズで表現し、イベントの司会役や国会答弁をそつなくこなすなど持ち前の話術で〝政府広報〟には一役買った。一方で、万人を驚かすような成果があるかといえば疑問符がつく。当選3回、出向組による寄り合い所帯の担当官庁、権限の弱い政務官という立場を考えれば、仕方なかったのかもしれない。

永田町や霞が関、担当する被災地に出入りする者に彼の実務能力について訊ねてみると、芳しい評判は聞こえてこない。客寄せパンダ以上の役割は求めてないと言わんばかりの反応がよく返ってきた。彼に対する周囲の「冷たさ」は、8月に「週刊文春」で報じられた復興庁職員との〝ロマンス〟が象徴的だった。同庁の関係者が相手女性の身元を事細かに説明する記述を読んで筆者は仰天した。きっと彼の眼には、官僚たちが自分を支える応援団どころか、思い通りにならない敵にも映ったに違いない。

あえて「自民党で一番の嫌われ者」に

撮影:常井健一
進次郎氏は9月25日付の神奈川新聞で単独インタビューに応じ、9月30日に都内であった講演会では報道陣を入れた席で政局全般をざっくばらんに語っている。これは6年の議員生活でも異例のことだ。その中で進次郎氏は安保法制について自民党の姿勢を批判して見せた。

「一部ベテランが『国家の平和や国民の安全に責任を持つのは学者ではなく、政治家だ』と言った。そういった姿勢が国民から権力のおごりと捉えられた」

これには「一部ベテラン」に該当する高村正彦副総裁だけでなく、安倍総理周辺も激怒した。それでも進次郎氏は挑発的とも受け取れる物言いで、追いかけまわす記者たちに入閣説を否定し続けるのだった。

「今、大臣やりたい人、いっぱいいますでしょ?」
「総理や官邸付近は『小泉進次郎? もともと使う気ないよ』と思っているんじゃないでしょうか」

はたして、そんな空気を察したメディアからは、「進次郎氏入閣」の文字は消えたのだった。

筆者は一連の言動は、進次郎氏本人が内閣改造を前に周到に計画した「党内野党宣言」だと見ている。記者の「ぶら下がり」も常に応じるわけではなく、自らが勝負時と思ったタイミングで露出を一気に増やす。社会保障と税の一体改革や高齢者の医療費負担をめぐる党の対応に是正を促した際など、過去にもそうしてきた。恐らく神奈川新聞で口火を切るXデーを9月25日としたのは、24日の安倍総裁再任を待つという党人としての最低限の配慮をした結果なのだろう。メディアが騒ぎ立てるのを彼が知らないはずがない。だから、今回は、完全な確信犯だったと言っていい。

案の定、永田町の反応を確かめると、安倍総理に近い議員からは「後ろから鉄砲を撃った」と怒りを買っただけでなく、総理と距離がある議員からも「後出しじゃんけんだ」と怨嗟の声が上がっていた。つまり、進次郎氏はある種の敗北感を抱え、一見墓穴を掘ったように見せながら、あえて「自民党で一番の嫌われ者」となることで、親安倍にも反安倍にも利用されない、スーパーフリーハンドの立場をちゃっかり獲得したのだ。さすが、喧嘩上手で知られた小泉又次郎のDNAを引き継ぐ曽孫だけのことはある。

孤立化を選んた背景に「安保法制」「新3本の矢」

では、いつから進次郎氏は安倍政権と距離ができたのか。

2012年の総裁選で安倍総理のライバルだった石破氏に投票した彼は、安倍政権発足直後には地元・横須賀で開いた国政報告会で「安倍政権を長期政権にしたい」と言って周囲を驚かせた。それが14年の解散当日に地元・横須賀で直撃してみると、進次郎氏は筆者に「自民党がガップリ四つで懐深く、堂々と構えて王道の政治をすればいいのに、降ってわいた解散総選挙は誰も腑に落ちていないでしょう」とこぼし、総理の判断を暗に批判した。そして、直後の衆院選では「アベノミクスってみなさん実感ないでしょ?」と全国各地の応援演説で触れ回った。

つまり、「進次郎の乱」は昨年末から始まり、そして大きな転機となったのは間違いなく安保法制だった。先述したように「一部ベテラン」に反感を抱いた進次郎氏は審議をどう進めるべきだと考えていたのか。筆者は2点あったと見ている。

一つは、6月の衆院憲法審査会で3人の憲法学者が違憲と断じた後、審議を一時中断して学者の意見に耳を傾けてみるべきだったと考えていたのではないか。例えば、衆議院で審議されていた時期、読書家でもある進次郎氏は佐藤幸治京都大名誉教授の高著『立憲主義について 成立過程と現代』を読破している。憲法学の権威である佐藤氏はその憲法審査会に自民党側から呼ばれたが拒否、今回の安保法制にも反対の立場だった。進次郎氏は採決の前、野党側から慎重審議を求められていた大島理森衆院議長にその本をプレゼントしている。

二つ目は、野党第一党を抱き込んで可決、成立すべきだと考えていた。父・純一郎が総理だった03、04年に成立した有事法制は国会の会期をまたいで審議を尽くし、最後は民主党も賛成に回った。国の根幹にかかわり、どの党が政権を取っても継続性が求められる安全保障政策は与野党の協力なくしては存立しえないという発想を父から学んだのだろう。自民党が野党時代だった一期生時代も、民主党政権による強引な国会運営に悩まされた経験もあるため、そうした原理原則が不可欠だという認識が血肉化している。

さらに、筆者は、安保法制以外にも進次郎氏が「入閣拒否」し孤立化を選んだ背景には、安倍総理が発表した「新3本の矢」が関係していると見る。そこには「第二の矢」として出生率1・8を目指す子育て支援策が掲げられていた。

進次郎氏は今年に入ってから「1人目の子どもの支援を手厚くしなければ、2人目、3人目を生みたいという気になれない」という持論を機会あるごとに披露してきた。これは安倍政権の姿勢とは真っ向から対立する。冒頭に紹介した六本木ヒルズでの講演でも、官僚批判に続きこんなことを話していた。

「たぶん、(政府の)みんなが第三子以降の重点支援というのを当たり前に言う理由は、頭の中の数字ばかり追っている。人口回復させるには2・1の出生率を達成しなければいけない。今、日本は1・4だ。これをどうやったら2・1にできるか考えちゃうから3人目を持ってもらわないといけない。頭のいい人が実感なき感覚で数字を追って考えちゃう一つの例かな」

「アベノミクス第2弾の二つ目で少子化対策を重点的にという話が出てきたけども、最初に出てきたのは多くの子どもがいる世帯の支援。そこは、私とちょっと違うんです。政治の世界では多数の人に『じゃあ、1人目で終わったらどうするの』と言われてしまう。ただ私の考えはやってみなければわからない(という立場だ)。今まで第三子以降の支援でやってきてもそんなに結果が出ていないんだから」

「第一子」か「第三子以降」か──。子育て支援の方針をめぐり政府内で路線対立があったことを窺わせる。そこでの〝敗北〟が「下野」を決意させたに違いない。進次郎氏は自分に言い聞かせるように、その場でのやりとりをこう締めくくっていた。

「これから、まあね、自分の立場の中で、党に戻って、今の政府の立場を抜けてもやっていけばいい。地道に訴えていこう」

飄然として故郷横須賀に帰れ

撮影:常井健一
今の安倍政権とはよく「安保改定の岸路線から経済最優先の池田路線に切り替えた」と言われているが、筆者はそうではないと思っている。歴史を丹念に紐解けば、長期政権が期待されながら2年半で終わった田中政権の時代状況に似ている。(気概不足の若手、党員獲得に苦戦…自民党の抱える課題とは?

当時、野党から「タカ派」と批判された宰相・田中角栄は、経済最優先と福祉重視を打ち出し、急逝した盟友・愛知揆一の後継蔵相に政敵の福田赳夫を据えることで挙党一致体制を敷いた。しかし、福田派の内部では「角栄に取り込まれるな。閣外に出よ」と若手を中心に「福田下野論」が高まる。その急先鋒が32歳の小泉純一郎氏だったのだ。同じ頃、純一郎氏は自民党の強引な国会運営で空転する最中に開かれた両院議員総会で、名立たる重鎮たちを前に「自民党の異常さは目に余る。執行部は総入れ替えせよ」と臆することなく突き上げた。

あれから約40年、田中政権時の福田の如く、安倍政権に封じ込められた石破氏の最側近として汗をかいた末に、総理に反旗を翻した34歳の進次郎氏。そんな彼に「下野」を迫ったのは、父・純一郎氏の幻影であると思えてならない。今回、入閣の噂が流れた頃、年配の自民党関係者たちに訊ねると、純一郎氏の過去を引き合いに出し、早い段階から「(進次郎が入閣要請を)受けるはずない」と断言していた。

この2週間、筆者はみんなを敵に回す進次郎氏の態度を見て、かつて評論家の江藤淳が産経新聞に書いたコラムを思い出した。97年3月、「帰りなん、いざ−小沢君に与う」と題し、新進党から総スカンを食らった小沢一郎氏に捲土重来を期待するつもりで、「故郷水沢に帰れ」と下野を勧めた。

<勝海舟はいっている。『みンな、敵がいゝ。みンな、敵になったから、これなら出来ます』(『海舟余波』)。小沢君、君は 「みンな」 を敵にまわすことによって、君の理想をくっきりと浮かび上がらせればよい。君はまだ五十四歳の若さである。>

「壊し屋」と呼ばれた小沢氏とはだいぶキャラは異なるが、今回、孤立の道を選んだ自民党のアンファンテリブルに向け、江藤のオマージュとして名コラムの表現を拝借する形で小稿を終えたい。

進次郎氏よ、その時期については君に一任したい。しかし、今こそ君は政府の役職のみならず、党の重要ポストをも拒否し、飄然として故郷横須賀に帰るべきではないのか。横須賀へ戻った君を、郷党は粗略に扱うはずがない。いや、郷党はおろか国民が君をほっておかない。

君は 「みンな」 を敵にまわすことによって、君の理想をくっきりと浮かび上がらせればよい。横須賀で想を練り、思索を深めつつ練り上げた少子化対策、地方創生策、原発政策を最先端技術で後押しする妙案をひっさげて、捲土重来する日が、そう遠いものとも思われない。

君はまだ34歳の若さである。(2015年10月9日脱稿)

プロフィール
(とこい・けんいち)ノンフィクションライター。1979年茨城県生まれ。ライブドアを経て、朝日新聞出版に入社。「AERA」で政界取材担当。退社後、オーストラリア国立大学客員研究員。2012年末からフリー。12年、14年の衆院選、13年の参院選で進次郎氏の全国遊説を徹底密着し、『小泉進次郎の闘う言葉』『誰も書かなかった自民党』などの著書がある。近著『保守の肖像 自民党総裁60年史』が好評発売中。

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