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【読書感想】民主主義ってなんだ?

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 SEALDsは「反対すべきときに、本当に反対している人だけ」が参加できるシステムになっています。

 それは「組織としては脆い」のかもしれないけれど、ものすごく現代的で、合理的なんですよね。

「革命か、死か」みたいな選択をつきつけるようなやり方ではなく、「安全保障関連法案」に反対の人は、「そのためにだけ」集まればいい。

 明治大学で、高橋源一郎さんのゼミの聴講生だったという奥田さんも、お父さんの話をしています。

 お父さんは奥田知志というキリスト教の有名な牧師さんで、NHKの「プロフェッショナル」で特集されたこともあるのだとか。

 地域に根ざした「生活保護をもらえたら終わり、というのではない、『その後の暮らし』もフォローする貧困支援」を長年続けておられるそうです。

高橋:何人兄弟?

奥田:妹と弟がいます。

高橋:五人家族か。

奥田:でも五人家族って概念もけっこう曖昧で、朝起きたら知らない小汚いおじさんがいるんですよ。おじさんもいればおばさんもお兄さんもお姉さんもいるんですけど。で、「この人は新しい家族だから」って言われる(笑)。「いやいや、ちょっと待てよ」って思いながら、「パン、何枚食べますか? あ、二枚っすか」みたいな感じで(笑)。

高橋:すごい教育受けてるね(笑)。

奥田:小学校まではそれが普通だと思ってたんですよね。ぶっちゃけ今はおもしろおかしく話せるけど、小学校のときは他の家と違うことがよくわかっていなかった。最近よく思うのは、「いいお父さんだね」って言われるんですけど、よく想像してみてくださいよ。家にマザー・テレサがいたらウザくないですか?

一同:(笑)。

奥田:マザー・テレサなんて言ったら父親は「そんなんじゃない」って言うと思うけど(笑)。いちど酔っぱらった勢いで訊いたんですよ、「なんでそんなことやってんの?」って。そしたら親父が「僕な、人間が好きなんよな」って。「はあ!?」って思った。ざっくり「人間が好き」とか言ってる奴を初めて見た。こいつヤバいぞって(笑)。

 ああ、奥田さんって、普通の人じゃん!

 カリスマ性、みたいなのは父親譲りのところはあるのかもしれないけれど、この「家にマザー・テレサがいたらウザくないですか?」のくだりなど、読んでいて、噴き出してしまいました。

 そりゃ、「ウザい」よね、家族としては。

 いまとなっては格好の「ネタ」にしているみたですが、リアルタイムでは、すごい葛藤があったのではないかと思います。

 こういう、ちょっと不自然な家族関係をくぐり抜けた末に「戦争には行きたくない」と「当事者」として叫んでいる若者たちと、政治家一家の三代目で、自分自身が戦場に駆り出されることはない、国の偉い人。

 さて、どちらのほうが、自分に近いだろうか?

 僕たちは、本来「彼らに近い側」にいるはずなのに、なぜか、「戦争になったら、いちばんキツい思いをするであろう人々」の声を「未熟だ」と無視しようとしています。

 戦後70年ですから、いま、世の中を動かしている人間の大部分は、戦場に立ったことがないという点では「同じ」であるにもかかわらず。

 ネットなどでは、彼らと左派勢力の結びつきを危惧する声もあがっています。

 小林よしのりさんが『ゴーマニズム宣言』で、薬害エイズ問題を追及した際、多くの若者たちが賛同し、運動に参加しました。

 ところが、参加者のなかの一部の人々は、そうやって世の中を動かすことの快感に溺れてしまい、「プロ左翼の運動」に取り込まれてしまった。

 小林さんが、後に「日常に戻れ!」とアジテーションしていましたが、そのときにはもう手遅れで、一度その味を知ると、「普通の人として生きる」のが、難しくなってしまった人もいたのです。

 ちなみに、この対談のなかでも、小林よしのりさんの『戦争論』について、あるいは、奥田さんが小林さんと対談した話が出てきています。

 なんのかんの言っても、「小林よしのりの思想的影響」というのは、ものすごく大きかったのだな、とあらためて考えさせられます。

 いまの時点でのSEALDsは、「エネルギッシュな、新しい民主主義を日本にもたらしてくれる可能性をもった連中」だと僕は思っています。

 ただ、これから組織を大きくしていこう、社会への影響を強めていこう、ということになれば、過去の「政治的な組織」が辿ってきたのと同じ道を行き、同じようなものになっていくのではないか、とも危惧しています。

 彼ら自身のスタンスはともかく、すでに、彼らを利用しようという人々は、群がってきているのだから。

 皮肉な話ですが、SEALDsがSEALDsらしくあり続けるためには、「長続きしない」のが一番なのかもしれません。

 後半の、高橋さんによる民主主義の歴史に対する話にも、なかなか興味深いものがありました。

高橋:立憲主義って基本的には悲観主義だと思うんだよね。人間を信用していないから縛るしかないという考え方。それは権力者だけじゃなくて有権者も含めてなんだよね。「バーネット判決」って知ってる? 第二次世界大戦中の1943年にエホバの証人の子供たちが、アメリカ国旗に敬礼しなかった罪で学校から追放された。裁判所も追認したけれど、それを最高裁は否定して、戦争中でもアメリカ国旗に敬礼しなかったからといって、放校する権利はありませんという判決だった。僕はその判決文が好きで難解か読んだんだけど、いちばん重要なところは、憲法とは何かを最高裁長官が書いてる箇所なんだよね。これはすごいと思った。「憲法でもっとも重要な人権条項――権利の章典は、そのときどきの選挙の結果によって変えられるものではありません」って書いてある。どんな選挙結果になっても、変えないって。それは「人々は気まぐれで変わりやすいから信用しません」ってことなんだよ。憲法制定時が理性的だったといってるんじゃなくて、憲法という擬制がもっとも大切にしているのは、制定時の精神は、後の人々が――つまり有権者や国民が、ってことだけど――変えようとしても変えられないということなんだ。なぜかというと、憲法を制定するということは、革命なんだから。その後、人間というものは愚かしくて、ふらふら、考えを変えようとするけど、絶対変えることができないものがある。選挙の結果がどうなろうと、この人権条項だけは変えませんからねっていってる。

 立憲主義がもってる保守的本質がよく出てる。制度はいじれない。これを変えようと思うんだったら、選挙じゃなく革命を起こしなさい、そのときだけ変えられます、ということ。そういう意味でものすごく保守的だと思う。熟議しようが討議しようが変えられないものがある。それが立憲主義なんだ。そういう意味では、法律っていうのは頑固でさ、融通がきかない。なぜなら人間が愚かだと思ってるから。

 太平洋戦争での「敗戦」は、たしかに「革命」ではありました。

 だからこそ、憲法は、新しくなった。

 そう考えると、「改憲」なんてことは、そう簡単にできては困るのですよね。

 ただ、「違憲かもしれない自衛隊」は多くの人が受け入れているのに、「安全保障関連法案」の「違憲」は許容できないというのは、「憲法も解釈次第」だという一例ではあります。

 そういうのが、世間知であることは理解できるのだけれども。

 しかし、このアメリカの話と比べると、日本の司法というのは、本当に力が弱い。

 これでも、「三権分立」だと言えるのだろうか。

 SEALDsの「悪いところ」「未熟なところ」を探す前に、彼らのことを、もう少し知ってみるのも面白いですよ。

 彼らを「立派な大人」たちがバッシングしても、世の中が良くなるとは思えない。

 若者に希望がない国に、未来があるとも思えない。

 

 「この若造どもめが!」って、ちょっと妬ましくもあるんだけど、彼らは、昔の僕たちがやれなかったことを、いま、やろうとしているのかもしれません。

リンク先を見る ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)
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