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鼎談:「安倍談話の読み方」

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左から細谷、白石、川島の3氏。

8月14日に安倍晋三首相が出した「戦後70年談話」。その意義づけや海外の受け止め方、今後の東アジア国際関係に与える影響などについて、談話の土台となる「21世紀構想懇談会」報告書作成に深く関わった3人が意見を交わした。

「リアリスト安倍」がとったバランス感覚

――8月14日に安倍晋三首相が出した「70年談話」。内容についての率直な感想を伺いたい。

白石 それなりにいいものができたなと思う。3つの意味がある。1つは、安倍首相という人はリアリストであると同時にナショナリストで、2013年の12月に靖国神社に参拝したが、私自身は、あれで「ナショナリスト安倍」は打ち止めで、その後は「リアリスト安倍」でいくと見ていた。それが確認できた。とてもバランス感覚の良いステートメントだった。

この談話を安倍さんが出し、しかも内閣として承認されたものとして出たことで、これから80年、90年と仮に談話が出るとしても、あそこからもう右には行けない。その意味で歯止めができ、国内世論としてぶれる余地がなくなった。これが2つ目のポイントだ。

3番目に、2013年12月に安全保障戦略が出ているが、あれと今回の談話はペアで考えるとよい。談話は世界の中の日本、アジアの中の日本を歴史的に振り返り、1930年代、40年代に国策を誤ったという趣旨の内容となった。戦後の日本はこれと断絶するかたちで存在し、これから先もそれが日本の基本的な方向だと明らかにした。これによって、まさに安全保障戦略と整合的なステートメントになっている。中曽根政権時代から30年、ずいぶん時間がかかったが、落ち着くべきところに日本の大戦略の議論が落ち着いたと思う。

戦後70年と、未来を語る談話

川島 今回の談話は(戦争に至る)歴史についての話だと思われがちだが、やはり戦後70年と未来の話を語っている点が特徴だ。これまで(戦後)日本が進めてきたことをしっかりと受け止め、未来について説明し、自らの歩みに歴史的な裏打ちを与え、将来を展望した点に意味があった。

特に平和国家であることや、(各国と)和解を進めたという経緯を述べたが、これは現在の安保法制を意識してのことだろう。また、通商レジームに戦後ずっと貢献してきたとしていることは、TPPを意識しているのだろう。日本が進める安全保障政策であれ通商政策であれ、「こういう歴史的な背景があるのですよ」ということ説明している面があると一読して感じた。

一方で、やはり驚きもあった。首相はこの1年間、さまざまな演説をしている。その中の歴史に関連する部分と私ども(21世紀構想懇談会)の報告書、それに村山・小泉談話をミックスして談話をつくるのだろうと思っていたが、今回の安倍談話にしかないフレーズというのがいくつかある。日露戦争の評価の内容が出てきたり、「謝罪を子々孫々で受け継がない」という部分など。それらが特徴としてあると思う。

海外の受け止め方については、私は中国が専門だが、「あれなら中国も拳を振り上げて厳重抗議するということにはならないだろう」というのが一読した印象だった。温家宝・元中国首相がかつて村山・小泉談話の中で評価した部分を、私は懇談会の提言書で引用した。それを受け継いでこれからもやっていくということなのだろう。そうした意味では従来の政権と基本的に同じスタンスだった。

最保守の安倍首相が村山談話引き継ぐことに意味

細谷 歴史家E.H.カーの「歴史とは、現在と過去との間の尽きることのない対話である」という有名なフレーズがあるが、まさに安倍談話は、過去と現代が一体になっている。今回の場合は先の大戦、あるいは戦前の日本の行動の反省の上に立って、戦後は平和国家としての道のりを歩み、それを堅持するということで、過去があって現代がある。また現在の国際情勢であるとか、日本の置かれた立場というものがあり、そういった拘束の中から「過去にどう向き合うか」という歴史の言葉を選んでいる。

日本はとりわけ過去20年間、リベラルと保守の間で非常に厳しい歴史認識をめぐる対立があった。今回の談話はその亀裂、対立を乗り越え、その両側の立場というものに配慮していると思う。最もリベラルな首相であった村山首相の談話を、最も保守である安倍首相が引き継ぐという意味では、ある意味ではかなり幅広い、ナショナルなコンセンサスになり得る談話だと思う。首相の1年前、あるいは2年前の歴史認識に関する発言と比べると、これまで持っておられた歴史認識を「広げて深めた」と思う。報告書を相当丁寧に読まれたことが、談話の内容につながったのではないか。

安倍談話の枠組みつくった懇談会報告書

――21世紀構想懇談会の報告書の(提言)作成過程では、「侵略」の定義について一部に異論があったとも聞いている。懇談会メンバーの中で激しい対立などはなかったのか。また、報告書の骨子はどのように決まっていったのか。

白石 それぞれのテーマで実際に報告があると、委員の議論そのものは1人2-3分ぐらいしかできない。回数も時間も限られている。

川島 要は(懇談会の場で)誰が何を発表するかという発表者が重要。彼らの発表内容が、(委員からのコメントを踏まえた修正を経て)提言の骨子になった。委員ももちろん大事だが、毎回の会議で委員に求められた役割は、報告に対してコメントをすることだった。そのコメントには非常に大きな幅があった。もう一つ特徴的なのは、会議が終わってすぐに密度の濃い議事録を公開した点。メディアはそれを読んで記事にしたが、その記事に対する反応で、世論の動向を見たという部分はあったと思う。

議論するテーマは初めから決まっていて、「歴史」1回、「戦後」3回、「未来」1回。それぞれの発表者は決まっていた。委員と発表者それぞれのメンバー(一部重複)とアジェンダセッティングが決まった段階で、ほぼ(報告書の)枠組みは出来上がっていたかなという感じだ。

「侵略」、「国策の誤り」めぐり、歴史家メンバーは認識共有

――その懇談会の構造が色濃く反映されて、談話が出てきたと考えていいのだろうか。

白石 提言は懇談会で作ったが、談話は官邸が決める。そこは切れている。これはわれわれも理解の上で懇談会に入っている。同時に、懇談会の議論からあまり逸脱した談話は出せないだろうとも思っていた。その意味では、微妙な緊張関係にあった。

――細谷先生は第4回会合で報告されたが、懇談会の雰囲気とか、委員とのやりとりはどうだったのか。

細谷 特段事前に強い要望もなく、かなりの程度、自由にお話しさせていただいた。

懇談会ではプロフェッショナルな歴史家の方々の中では、とりわけ20世紀前半の歴史をどう見るかということについて、例えば「侵略」や「国策を誤った」ということについて、その認識を共有していたと思う。

一方で、懇談会の提言を前提として、安倍首相がどういう言葉を選ぶかというのは、最初の段階では分からない。緊張感があったと思うし、また、かなりの程度不確定な部分があったのだろう。

談話の内容で、私にとって想定外だったのは、「過去」の記述がここまでたくさん入ったことだ。提言では戦後の和解をかなり強調していたので、戦後の部分が大きな字数を占めると思っていた。村山談話というものを引き継ぐ立場も明確だった。言葉の使い方も、「戦争の苦痛をなめ尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さん」というように、具体的な言葉を使って踏み込んでいる。首相は21世紀構想懇談会に出席する中で、相当いろいろと悩んで、またご自身で勉強されて、考え方も少しずつ広がり、変わっていった部分があるのかなと思う。

目の前の政治、国際関係も談話のトーンに影響

白石 メディアは談話の字句にものすごく関心を持ち、中国、韓国の反応に注目したが、少しピント外れだったのではないかと思う。安倍首相は、そもそもそのようには考えていなかったのではないか。むしろ日本国民に対してどのような談話を出すか、日本の同盟国である米国、さらにはパートナー国の人たちにどういうメッセージを出すか、もっと広く考えていたのではないかと思う。

その意味で、僕は、一昨年のオーストラリア議会での演説、それから今年4月のバンドン(インドネシア)でのアジア・アフリカ会議60周年を記念する首脳会議の時の短い演説、5月のアメリカ議会での演説、こういうものはすべて一連のもので、その締めくくりとなるのが今回の談話だと考えたほうがいいと思う。

川島 全くそのとおりだ。ただ、意外な展開もあった。安保法制の国会審議が延び、談話発表が国会会期中になってしまった。加えて安保法制ももめて、7月は支持率も下がった。談話は本来会期外に公表されるはずだったのに、国会運営や世論の動向と深く関わるものになったということだ。そのため公明党はもとより、さまざまな配慮をする必要が生じた。より詳細な談話の作成過程、特に7月の最終週と8月の半ばまでに、どういうせめぎ合いがあって、ああいう長い談話になったのかというのは、やがて検証されるだろう。

細谷 国会審議が延びたというのはかなり大きい。安倍談話が閣議決定になるという時点で、公明党が了承できないものということはあり得なかったと思う。もう一つは、昨年のAPECサミットから日中関係が比較的好転していること。日本も中国も、日中関係を改善しようという動きを示しており、歴史認識をめぐってそのような動きを傷つけるような言葉や姿勢というのは示さないという配慮が、双方の側にあったと思う。9月3日の習近平主席スピーチも、日本に対してそれほど厳しい言葉は含まれていない。結局、歴史認識や談話というのは、現在動いている政治の中で作られるのだとも感じる。関係改善の中で、双方が慎重に言葉を選んだのだろう。

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