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会社ってなんで続かなくちゃいけないの? 東京糸井重里事務所 篠田真貴子CFO×サイボウズ 山田理副社長

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人と企業が信頼関係を築きながら、仕事に応じて雇用関係を結ぶことを提唱する「ALLIANCE(アライアンス)」。このアライアンスにまつわる、東京糸井重里事務所取締役CFOの篠田真貴子さんと、サイボウズの山田理副社長兼 サイボウズUSA社長の対談中編をお届けします。

1年前から米国に赴任している山田副社長は、アライアンスの考え方が浸透しつつあるシリコンバレーという「場」に対する共感を示した上で、「会社とは長く存続しなくてはならないものなのか?」という疑問を提示。対して篠田さんは「理念・価値観の共有」の観点から、歴史を引き合いに出しつつ持論を展開します。知的好奇心を刺激する2人の対話をお楽しみください。(会社と個人はフラットな信頼関係を築けるのか?」からの続きです。)

シリコンバレー成功の要因を、多くの人は誤解している

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僕は1年前からサイボウズ USAの社長として米国に赴任し、シリコンバレーに住んでいます。

シリコンバレーって、本当に面白いですよね。みんな「ここでやることが終わったらまた次」みたいにどんどん会社を変わるけれども、その場所にはずっといて、ネットワークを形成している。誰もが何にもしばられていなくて、それでいてそこから価値を生み出している。その仕組みがすごいなと感じます。



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ええ。



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シリコンバレーで育った、リンクトイン創業者のリード・ホフマンが『アライアンス』という本を書いた。アライアンスという考え方自体が、シリコンバレーを明文化したようなもののような気がするんです。



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まさにそうなんです。『アライアンス』の本の中でも、シリコンバレーがなぜうまくいったのか、その理由を多くの人が誤解している、と数ページにわたって書かれています。ベンチャーキャピタルがたくさんあるとか、そういうのは枝葉の話。

一番大事なポイントは、「人と企業が、お互い何をしたいのかについて話し合い、理解しあえていることだ」と。山田さんが1年シリコンバレーに行って、実感としてそう言ってくださるのはすごくうれしいですね。



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仮にシリコンバレーを1つの会社と考えたら、大成功のモデルだと思うんです。ではシリコンバレーがそこで働く人に何を提供しているかというと、何かを生み出すためにそこにあるリソースを自在に使える、ということ。サイボウズも、そういう場であればいいなと考えています。



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なるほど。

会社は「創業者が死んだらリセット」でよくないか?

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もっと言うと、サイボウズという会社を永続させる必要もないなと。サイボウズは現社長の青野たち創業者が作った会社。会社を作ったのは創業者のエゴで、そこに参画しているのもその人たちのエゴなんだから、創業者が死んだらいったんリセットすればいいと思うんです。

いやいや、そうは言ってもお客さんもいるし、お客さんが残してほしいと希望しているサービスもあるし、と言うなら、やりたい人が新しい会社を作って自分でやればいい。それがまさにシリコンバレー的なのではないかと。

僕はよく「創業理念を石碑に刻むな」と言うんです。理念というものは変わっていいと思う。それを石碑に刻んで、創業者が死んだ後も「あの人ならこういう時どんなふうに考えただろう?」とか言っても「知らんがな!」って話ですよね。



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サイボウズ取締役副社長 山田理

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ははは。ただ、もしサイボウズを次世代につなぐとしたら、次世代において「この時代に求められるチームワークとはこういうものだ」と思い描ける人なんでしょうね。シリコンバレーでももちろん世代交代は起きていますが、イノベーションを純粋すぎるほどに信じる人たちが集っていることに変わりはない。

そのように、結果として残る本質的な理念というのは素敵だと思うんです。「石碑に刻むな」と言っても、そういう理念が残ること自体を否定しているわけでないですよね?



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ええ。石碑に刻まず心に刻んで、その人自身が解釈して変えていけばいい、という意味です。



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それと、「創業者が死んだらいったんリセット」という山田さんの考えも一理あると思いますが、一方で私は、糸井重里事務所という会社を、糸井重里という人間がいなくなった後にどのように存続させるかというテーマについて考えなくてはいけない立場でもあるんです(笑)。糸井は、自分が死んだ後も会社が存続することを望んでいるので。



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ああ、そうでした(笑)



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それについて、ライフネット生命の会長 出口治明さんに意見を伺いに行ったことがあるんです。ご存知のように出口さんは歴史に非常に詳しいんですよね。

で、「それは要するに価値観の共有・存続の話だよね」とおっしゃって、いろいろ歴史を引いてアドバイスをしてくださったんですが、その中で一番腑に落ちたのは、キリスト教の成立の話でした。



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キリスト教ですか?



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ええ。キリストには12使徒と呼ばれる直弟子がいたのですが、実際にキリスト教を組織化・体系化し、世界宗教として発展する基盤を作ったのは、12使徒ではないパウロという人物です。この人は当時のイスラエルの地の出身でもないし、イエス・キリストにも直接会ったこともありません。



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篠田真貴子(しのだ・まきこ)/東京糸井重里事務所取締役CFO。慶應義塾大学経済学部卒、1991年日本長期信用銀行に入行。1999年、米ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士を取得。マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレを経て、2008年、糸井重里事務所に入社。2009年1月より現職。

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へえーっ。そうなんですか。

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つまり、出口さんが何をおっしゃりたいかというと、理念とか価値観というものは、必ずしも直線的につながっていくものではなく、それを普遍的に再構築する人が出てくると広まっていくということなんです。

山田さんのお話を聞いていて、サイボウズさんの「チームワークを世の中に広める」という理念も、もしかしたらそれを生み出した青野社長と、今、一緒に仕事をしている人が継ぐのではなく、ちょっと距離感を持ったところで見ている人が「これはいい」と思って、文脈の違うところから改めて整理して再構築したら、より広まっていくのかもしれない、と思いました。

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面白いですね。そうかもしれませんね。

会社が「続かなくてはならないもの」になった理由

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「そもそも会社ってなんで続かなくてはいけないの?」という山田さんの疑問には、実はうなずける部分もあって。会社が続かなくてはならないものになったのは、産業革命が進んで大きい設備を建てるようになってからですよね。製鉄所とか、鉄道とか。

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それまではまさに「創業者が死んだら終わり」だった。

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ええ、おそらくそちらが主流だったのではないかと思います。人の命の長さをはるかに超えて維持される生産設備ができ、しかもそこに巨額の投資がされるようになると、創業者が死んでも続くような枠組みを作らなくてはいけないよね、となった。そこでの発達が近代の株式会社の形であり、ゴーイングコンサーン(継続企業)の前提です。

実は今は、その前提に当てはまらない事業が増えてきているのに、株式会社の形態はほとんどそのまま。そのズレが悩ましいんです。

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確かに。僕は金融機関、ソフトウェア会社と、大きな生産設備が必要ない会社で働いてきたから、なおさら「なんで会社って続く必要があるの?」と思ってしまうのかもしれません。

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先日あるビール会社の人と話したんですが、ビール会社のような巨大な装置産業では、装置そのものや会社のブランドとは何たるか、といったことを理解するのに結構な年数がかかるそうです。外国に事業展開する時も、そこが身についていない人は出せない。「だから長く働いてもらうことが大事なんです」と言っていて、なるほど、と納得しました。

アライアンスでは、会社と社員の関係を大きく3つに分類しています。ルーティン的な仕事をして事業を拡大することを期待される「ローテーション型」、会社に変革をもたらすことを期待される「変革型」、会社の継続性を保つことを期待される「基盤型」です。ビール会社にとっては基盤型社員が大事で、それをどう育てるかがテーマになるのでしょう。

だから、会社が続かなくてはいけない、続かなくてもいい、というのは、事業次第かなとも思いますね。

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とはいえ、今は装置産業でも、100年で回収する投資ってあまりしないですよね? 工場だって長くて20年くらい。ならば少なくとも、そのタームで1回区切りをつけて考えてもいいのではないでしょうか。

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ゴーイングコンサーンという前提をどこまで持つか、改めて考えてみるべきかもしれませんね。

「家族」と「会社」の新しい関係とは?

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最近思うのは、アライアンスも含め、会社と個人の関係についてはいろいろな話が出てくるけれども、「家族」の話があまり出てこないなと。個人を幸せにする仕組みだけでなく、家族を幸せにする仕組みについても、企業はもっと投資をするべきではないでしょうか。

サイボウズは「世の中にチームワークを広げる」ことを理念としていますが、それもBtoBの企業向けのチームワークにとどまっている。世界中に一番多いチームは家族なんだから、それを幸せにできることをやりたいと思っているんです。

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企業には、まだ社員を単なる労働力として見るクセが残っているのかもしれないですよね。

一方で、旧来の終身雇用をしていた大企業は、それこそ家族丸抱えでしたよね。社宅を提供し、社内結婚を奨励し、年金もあるから定年退職した社員が死ぬまでの経済的な保証もする、といった具合に、社員に対して家族も含めて全人格的にコミットしていました。

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ああ、確かに。

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かつてはそれが維持できていたし、喜ばれてもいたんです。 それが、「アライアンスみたいなものが本当に日本で受け入れられるの?」と指摘される背景にもあります。

けれども、もうそんな体力ある会社はほとんどないし、社員側としても、会社からそういう全人格的なコミットをされるのを受け入れなくなっている。「じゃあ会社と個人、お互いに何を期待するの?」となるのですが、それがうまく出てこない。その1つのアイデアとしてアライアンスがあるわけです。そこに家族がどうからんでくるのかですよね。

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なるほど。

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糸井重里事務所では、特に制度にはなっていませんが、私のように小さい子どもがいる社員は、ちょっと熱があるけど明らかに感染症ではない、という場合には子どもを会社に連れてきて仕事をしています。それをみんな違和感なく受け入れる雰囲気になっているんです。

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それはいいですね。

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そういうのを含めて、家族と会社がつながっているという良い事例がたくさん出てくるといいですよね。

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糸井重里事務所さんでは、アライアンスは適用されているんですか?

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明確ではないけれども一部されているし、共感もします。糸井個人がやりたいことをする場から事業になっていくうちに、だんだんそうなってきていますね。

実際、あるプロジェクトでは、社員ではない人がコアになってフルコミットしていますし、辞めていく社員も熱烈に送り出し、その後も良好な関係を保っています。

基盤型といえる人もいます。その人は事務所の歴史をよく知っていて、「この事業ってなんで始めたんだっけ?」というような話になった時も、原点に立ち返らせてくれます。

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そもそも、アライアンスを適用できている、できていないって、何によって決まるんでしょう? コミットメントの面談をしているか、OB・OGネットワークを組織しているか、といったことで決まるのではないですよね?

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大事だけれどもそれだけではありません。やはりキモは、会社と個人がフラットな関係であるかどうか。終身雇用のように、雇ってやる・雇ってもらう、あるいは庇護する・庇護される、という関係であるなら、アライアンスを適用できているとは言えません。

次回につづきます。初回は「会社と個人はフラットな信頼関係を築けるのか?」はこちら。東京糸井重里事務所 篠田CFOとサイボウズ 副社長の山田理「「赤字って本当にいけないことですか?」」対談もぜひご覧ください。

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