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中国と対峙した米海軍パイロットと中国人新婚向けビジネス 地中海遥かなり(第6回) - 高野凌 

「多少はタフな仕事だぜ」(It’s a bit tough job)
米海軍パイロット物語

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中世の砦の近くの教会のアーチ

 5月11日午前6時半。日の出を見終わった後で遊歩道の脇にある中世の砦でぼんやりしていたら、早朝散歩している男性がこちらに歩いてきた。アポロキャップを被りジーンズを穿いてフライトジャケットのようなジャンパーを羽織っている。欧米人としては中肉中背だが陽に焼けて精悍な容貌であり敏捷で隙のない身のこなしである。

 私は少し警戒しながら「ハーイ」と挨拶した。話してみると気さくなナイスガイである。職業はなんと米海軍のパイロットとのこと。なるほど見るからにタフガイである。現在45歳で数年前に身分上は退役して現在は嘱託として飛んでいるとのこと。元々出身は西海岸サンディエゴとのこと。サンディエゴといえば西海岸の海軍の要であり、トムクルーズの出世作の映画“トップガン”の舞台だったことなどを思い出した。

 「サンディエゴで空母の艦載機であるジェット戦闘機乗りとしてキャリアをスタートした。それからハワイの海軍基地に転属となり、引き続きジェット戦闘機に乗った。」

 「それじゃあ、映画トップガンのような世界を体験してきたわけだ。やはり相当に体力のみならず精神的にも厳しい毎日だった?」

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朝陽に輝く白い教会のドームとイオの町

 「そうだね。多少はタフなジョブだぜ。若くないと出来ないな。」と彼はニヤッと笑った。

 「ジェット戦闘機を卒業してから沖縄の嘉手納基地に転属となった。だから俺は日本にも詳しいぜ。沖縄ではPCオライオンで対潜哨戒活動したり電子偵察機で偵察活動をやっていたよ。」

 「電子偵察機といえば確か10年ほど前に中国領空のボーダー附近で中国の戦闘機とトラブルがあって中国の海南島に不時着して国際問題になったことがあったね。当時中国関係のビジネスをしていたので覚えているんだけど」

「良く知っているね。実はあの事件の当日は俺の親友が当番で偵察機を操縦していたんだ。一日違えば俺の当番だった。米海軍の名誉のために断言するけど米軍偵察機は領空ラインの外側で合法的な偵察活動を通常どおり遂行していただけだ。」

 「当時の中国の発表では米軍機が領空侵犯して偵察活動を強行したので中国の戦闘機が緊急発進したと記憶しているけど。そして中国の戦闘機の警告を無視して、さらに中国機の進路を妨害して接触事故となり中国機が墜落したと中国は主張していたようだが。」

 「知っているとは思うが電子偵察機は機密情報を満載している。偵察機からは不時着までに機密データは廃棄処理すると嘉手納に緊急通報があったが、どこまで廃棄できたか確認する方法がなかった。不時着と同時に乗員全員が中国側官憲に拘束されたからね。そもそも機体そのものが機密情報で覆われている。そして拘留された乗組員を早急に取り戻す必要があった。それで乗員と機体を至急返還させるためにデリケートな外交交渉をしたんだよ。」

 「それじゃあ、外交戦術の観点から、米国は衝突事件について早急に和解するため中国報道に対して余り反論しなかったということだね。」

 「そういうことさ。事実は中国のプロパガンダとは逆だよ。中国機のパイロットは無謀な挑発行動を仕掛けてきたんだ。即ち、偵察機の後ろ下方から偵察機の進行方向を遮るようにアクロバティックに飛んで来た。」

 「人民日報国際版では偵察機の領空侵犯を阻止しようとした“愛国の烈士”“空の英雄”として墜落死したパイロットについて大々的に宣伝報道されていたけど。」

 「プロのパイロットなら絶対にやらない軽率で無謀な行為だ。いずれにせよ、偵察機は緊急回避できず主翼の一部が中国機と接触した。エンジン一基が即時停止。それから数分後にさらにエンジン一基が停止した。」

 「エンジン2基でも飛行は可能なの?」

 「エンジン1基でも飛行継続できるように設計されている。しかし問題は燃費だ。エンジン2基だけでは燃費が著しく低下して嘉手納まで戻れないと俺の親友は咄嗟に計算した。それで一番近くて偵察機が着陸できる滑走路がある海南島への不時着を決断したんだ。」

 「難しい判断だったね」

 「哨戒活動や偵察活動は夜間飛行のミッションが多く神経を使う仕事だったよ。それから俺は40近くになってシチリア島に転属となった。現在は双発のビーチクラフトで地中海の哨戒活動を主にやっている。」

 「そうか。サンディエゴ、ハワイ、沖縄、シチリアと素晴らしいリゾートエリアに基地を展開するのが国防総省(ペンタゴン)の世界戦略なのか」

 「当然だろう。そうじゃなきゃ、優秀なパイロット候補生が集まらないぜ。」

幸せ満開『新婚さんいらっしゃい』

 サントリーニ島のイオ村にある眼下に紺碧の海を望む遊歩道は朝から晩まで世界中の観光客で賑わっている。あまりにも美しい眺望に魅せられて、私は13日間の滞在期間中に毎日、朝夕少なくとも二回はこの遊歩道を散歩した。

 誰もが憧憬する地中海の蒼と碧と白のスペクタクルがこの2キロ足らずのプロムナードに凝縮されている。そして訪れる誰もが美しさに心を奪われ人生の至福の時を満喫している。道行く誰もが心を開いて穏やかな笑顔となる。無数の人々の幸福感で遊歩道が溢れている。

 このような場所にいると自然と気持が晴れてくる。人々の幸福感によってエネルギーが生じて一種のパワースポットになっているのではないか。ちなみに北京駐在時代にこれと似た体験をしている。サイクリングは私の昔からの趣味であるが、休日に自転車で天安門前を通過すると毎回この天にも昇るような幸福パワーを全身に感じたものである。

 話を戻す。遊歩道を歩いていると毎日沢山のカップルに出会うが中でも中国人の新婚さんが数では群を抜いている。大概は結婚式の衣装、すなわちウェディングドレスとタキシードを着用してプロのカメラマンに撮影してもらっている。

 余りにも数が多いので、ある時待機中のカメラマン氏に聞いたら、「結婚式で披露する新郎新婦の写真やビデオを事前に景勝地で撮影するためのツアーを組んでおり、今回は25組の大型ツアーである」と訛りのない北京官話(標準語)で教えてくれた。彼は上海のカメラマンであるが海外の景勝地での写真やビデオの撮影は近年ブームとなっており過熱気味と。ギリシア、イタリア、スペイン、米国西海岸、北欧・・・と彼のプロダクションは一年中世界中の景勝地で新婚カップルを撮影しているよし。チームは英語を話せるリーダー以下、カメラマン、カメラマン助手、メイクさんなど通常4~5人であるが特に4月5月は書き入れ時と。結婚式には中国人はお金を惜しまないのでとっても儲かり“利潤特別大”との説明。

 撮影待ちしている美男美女のカップルに聞くと杭州出身で新郎はIT関係とのこと。私がIT関係なら“高収入”ですねと聞くと平均より少し高い程度と謙遜。新婦はファッション関係とのこと。お似合いの好感の持てるカップルだ。

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杭州から来た美男美女カップル

 夕暮れ時にドレスを着て撮影している上海の女性三人組に出会った。彼女たちは既婚者で旦那と一緒に来たが、この美しい遊歩道で記念撮影しようとドレスを持参してきたと。旦那たち三人はカメラマン役。彼らは三人とも冴えないジーパン姿であり、奥様達の付き人のように見えてしまう。どうも今回の旅行は女性たちが主導権を握っているようだ。

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上海から来たアラサー旧婚3人組

静かなある日の午後、遊歩道わきの小さな公園でブランコに乗っている東洋系のカップルがとても楽しそうだった。蒼い空を背景にブランコに揺られて。このマカオの新婚さんはまるで普段着で休日に近所の公園で遊んでいるような自然体の幸福感に満ちていた。

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マカオから来たカップルに割り込む筆者

 当然日本人新婚カップルにも遭遇するが、必死にお店か何かを探していたり、脇目も振らずに足早に歩いていたり、ハードスケジュールに疲れ切っていたりと、どうも話しかけにくい雰囲気のカップルを散見。

 大阪から来たというある新郎は疲れた表情で「ヨーロッパはどこでも食事は口に合わないし、特にギリシア料理は脂っこいし、ホテルとかみんな不親切だし日本語は通じないし、天気は暑いか寒いかの両極端だし・・・」と散々な様子でマイルドセブンをせわしなく吸っていた。傍らの新婦は無言でガイドブックを睨みながら見落とした名所はないか必死でチェックしていた。こちらまで何かやりきれない気分に落ちこんだ。

 ある時、スタイリッシュなカップルが歩いてきたので香港あたりのお金持のボンボンのカップルであろうと“ニーハオ”と声を掛けると反応がない。“アニョセヨ”と呼びかけても無反応。ついに“Where are you from?”とゆっくり尋ねるとなんと「ジャパン!」とのこと。

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イオの白い街並みを背景に佇む素敵な新婦さん

 埼玉から来た新婚さんとのことで新郎は私の長男と同い年。思わず1年前の長男の結婚式が脳裏によみがえる。気分はすっかり新郎の父になり「両家を代表しまして一言ご挨拶をさせていただきます・・・」と諳んじていたスピーチを披露。新郎新婦はサントリーニに到着したばかりというので、さっそく“新郎の父”は俄かガイドになり遊歩道周辺をご案内。

 大宮出身の新郎と池袋育ちの新婦、二人とも都会的で会話のテンポが早く滅茶苦茶楽しい。彼らのように旅の中でその瞬間その瞬間を楽しめることは一つの貴重な才能であり能力であるように思う。柔軟な思考能力や鋭敏な感受性などに恵まれているのだろう。幸せ全開の二人から“幸せのお裾分け”をいただいたひと時であった。

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